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大仏様だって、甘えたい

第28話

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「……奈良の大仏って、こんなに大きかったっけ?」

「毎年大きくなる大仏像なんかあるわけないのだから、生まれる何千年前からこの大きさだ」

 参拝料を支払って入った大仏殿に納められた大仏様の神々しさに、ぽかんと水瀬が口を開けた。この大きさこそが、神の威厳を示していると言っても過言ではない。

 見上げれば見上げるほどに大きな大仏様は、じっとどこを見ているのか、うっすらと開けた瞳は遥か彼方を見据えている。

「で、俺は呼び出されたけれども、どうしたらいいんだ……?」

『おお、やっと来たなあ、飛鳥。ちょっと参拝客の邪魔になるから、横に避けて待ちぃ……今この人の願いを処理するのにな、ややこしい手続きが必要で……うーん、面倒やし天部に丸投げしてまおうか? どう思う?』

 いきなり陽気に話しかけられて、俺は眉根を寄せた。その様子に気がついて、水瀬がどうしたの?と顔を覗き込んでくる。

「どう思うって、俺に聞かれても……」

『僕もさ、たまには休みたいねんなあ。あ、帝釈天さん発見! ちょっと頼んでくるさかい、そこ動かんといて!』

「待て待て待て。大仏様イメージと大分違うぞ!」

 おーい、という声を残して、大仏様が去って行く気配を感じる。事の顛末を顔をしかめながら水瀬に話すと、水瀬も目を真ん丸に見開いた。

「めっちゃ効率重視ね、尊敬するわ」

「そこじゃないだろ!」

 俺がツッコミをいれていると、「お待たせ―!」という声が聞こえてきた。思わずツッコミたくなる色々を俺は押さえたのだが、まさか千年ほど前から崇められている大仏様が、こんなのんきだとは誰が思おう。

『ごめんなあ、呼び出しちゃって。ほら、ところでこの間さ、木霊が君たちの永遠の愛を叫んどったけど、あれって本当のところどうなん? ちょっと、僕にだけこっそり教えて、ね?』

「まったくもって事実無根でありまして、勝手にこの妖怪オタクが言い出しただけでありまして、実を申せば少しばかりというか、いやめちゃくちゃに水瀬には困っているわけでして……」

『うんうん、のろけってやつやなぁ。ええなぁ、アオハルやなぁ。可愛いもんね水瀬さん』

「待て待て待て。人の話ちゃんと湾曲させずに聞いてくれ!」

『聞いとるで。水瀬さんのお願いも聞いとるで。妖怪見えるよおになりたいってお願いのことやろ。ちなみに、飛鳥くんのもちゃーんと聞いとるで。二度と水瀬さんに何もやってあげないってお願いね、それは却下や』

 なんで俺のだけ却下なんだ!とツッコんでから、もう泣きたい気持ちをすっ飛ばして脱力してしまい、俺はその場にへなへなとしゃがみこんだ。

『水瀬さんはなぁ、小さい時からお祈りしてたんやで。せやさかい、お願い叶えてあげたの』

「叶ってないじゃないですか……妖怪見えていないっていうか、それ以上にただの妖怪ジャンキーで、変人奇人なのになぜか人には好かれるし」

 最後のほうは、何やらただの悪口に等しい、胸中に溜まっていたストレスを吐いてしまっていた。俺の呟きを聞いた水瀬が、ものすごい不機嫌に眉を吊り上げて俺の髪の毛を一本だけつまんで引っこ抜くという、残虐極まりない行為に出た。剥げたらまず先に訴えてやる。

『あのなぁ、元々身体に備わっているスペック、急に変えるわけいかないやろ? せやから、見える君と引き合わせたわけで……君が水瀬君の目になればええの。せやさかい、お願い叶っとるよって教えてあげてくれへん? 僕だって、そんなに熱心に美少女にお祈りされたら、やる気でてまうもんね!』

 あまりにも明るくはきはきとそう告げられ、色々なツッコミと色々な言葉が口から蟹が吹き出す泡のように出そうになったのだが、もういいやという気になって俺は引き下がった。

 ここで理解できたのは、誠に遺憾ながら美少女の祈りは、純粋無垢な我が願いよりも大仏様にはウケが良いという事である。
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