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大仏様だって、甘えたい
第25話
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「こんにちは、初めまして。飛鳥さんとお付き合いさせていただいております、水瀬雪と申します。今日は急に泊まりたいだなんて、わがままを聞いてくださって有難うございます……あ、これほんの少しですが、もしよかったらご家族で召し上がって下さい」
百点満点中百二十点の笑顔と清潔感と台詞によって、水瀬は一瞬で辻家に迎え入れられた。
そして、それと同時にどうしてこんな美少女が俺なんかと付き合うことになったんだという疑問が辻家を襲った。自分の腹を痛めて生んだ息子よりも、美少女の皮を被った金にうるさい妖怪オタクの言動を信じるとは、いったいどういう家族であろうか。いや、まごうことなき俺の一家である。
夕食まで一緒に食べ、質問攻めに嫌な顔一つせず水瀬はきっちりと俺とのなれそめを、妖怪の辺りはごっそりと省いて美化脚色して美しいストーリーへと仕上げて語る。さらに俺のどこが好きなんだという質問への回答には、頬を赤らめながら恥じらうという演技までつけていた。
もはやハリウッド顔負けの演技力に、俺の方がその演技を永遠に続けてほしいとさえ願うと同時に、ご飯の味も食感も、もはや夕食が何だったかを思い出せないくらいに困惑したのだった。
たった数時間で辻一家の心を鷲掴みにして、なおかつ「今後ともこのぐうたらな息子をよろしく」と母親に頭を下げさせた水瀬のまるで妖術かと思われるような大演技ドラマに、俺は心底感心した。
よもや水瀬は、妖狐の生まれ変わりやもしれぬ。毒を吐かない水瀬は珍しく、夢なら覚めずに、演技なら永遠に続くように祈るしかない。
「ああ、お風呂気持ちよかったわ。飛鳥も入るでしょう、ばっちいまま同じ部屋で寝るのお断りなんですけど」
俺の祈りは届かなかったらしく、一瞬にして夢から覚めた。そもそも俺の部屋だ。上がり込んでおいて人をバイ菌扱いするとはどこぞの妖怪オタクだと、胸中で盛大に毒を吐いて、俺は口をひん曲げたまま水瀬を一瞥すると部屋を出て風呂へと向かった。
そして風呂場で嗅ぎなれないシャンプーの香りに悶々とさせられた挙句に、部屋へ戻ると、自分の布団の上で美少女が短パンで寝そべって本を読んでいるという現実が待っていた。
もはや何もかもが嫌になってしまい、興福寺前の側溝で、どんなに暑くとも泥まみれにされようとも、鹿と共に寝たいとさえ思ってしまった。
「ねぇ飛鳥、河童っていつ来るの?」
俺は押入れから来客用の布団を押し出して床に敷くと、ファッション雑誌を読みふけったまま、こちらを見ようともしない妖怪オタクにムッとした。
「さあな。河童に聞いてくれ。それと、水瀬はこっちの敷布団。俺がベッドだからな」
そう言うとやっと水瀬は大きな釣り目をこちらに向けてきた。
「なに莫迦なことを言っているの? なんで私が飛鳥の足元で寝なくちゃいけないわけ? 見下されているみたいで、おぞましいわ」
「俺の部屋で俺のベッドだ!」
「却下よ。私はここで寝るの。飛鳥は下で寝なさい」
「却下を却下だ。そこは俺の聖域だ。美少女だろうが妖怪オタクだろうが、侵入することを禁ずる」
「どかせるもんならどかしてみなさいよ。ほら」
側臥位で見つめてきた瞬間に、Tシャツの裾がめくれてへそが見えた。思わず目をつぶって顔を両手で押さえて、やんごとなき純情を穢された俺は、もはやたじろぎと共に撃沈した。
「そんな不埒なことができるか! もういい、好きにしてくれ」
やった、となぜかご機嫌にまたもや雑誌を読みふける水瀬に、一体いつになったらぎゃふんと言わせることができるのかを考えたのだが、きっと大仏様にでも聞かなきゃ分からないだろうなと思いつつ、俺も布団に寝そべった。
百点満点中百二十点の笑顔と清潔感と台詞によって、水瀬は一瞬で辻家に迎え入れられた。
そして、それと同時にどうしてこんな美少女が俺なんかと付き合うことになったんだという疑問が辻家を襲った。自分の腹を痛めて生んだ息子よりも、美少女の皮を被った金にうるさい妖怪オタクの言動を信じるとは、いったいどういう家族であろうか。いや、まごうことなき俺の一家である。
夕食まで一緒に食べ、質問攻めに嫌な顔一つせず水瀬はきっちりと俺とのなれそめを、妖怪の辺りはごっそりと省いて美化脚色して美しいストーリーへと仕上げて語る。さらに俺のどこが好きなんだという質問への回答には、頬を赤らめながら恥じらうという演技までつけていた。
もはやハリウッド顔負けの演技力に、俺の方がその演技を永遠に続けてほしいとさえ願うと同時に、ご飯の味も食感も、もはや夕食が何だったかを思い出せないくらいに困惑したのだった。
たった数時間で辻一家の心を鷲掴みにして、なおかつ「今後ともこのぐうたらな息子をよろしく」と母親に頭を下げさせた水瀬のまるで妖術かと思われるような大演技ドラマに、俺は心底感心した。
よもや水瀬は、妖狐の生まれ変わりやもしれぬ。毒を吐かない水瀬は珍しく、夢なら覚めずに、演技なら永遠に続くように祈るしかない。
「ああ、お風呂気持ちよかったわ。飛鳥も入るでしょう、ばっちいまま同じ部屋で寝るのお断りなんですけど」
俺の祈りは届かなかったらしく、一瞬にして夢から覚めた。そもそも俺の部屋だ。上がり込んでおいて人をバイ菌扱いするとはどこぞの妖怪オタクだと、胸中で盛大に毒を吐いて、俺は口をひん曲げたまま水瀬を一瞥すると部屋を出て風呂へと向かった。
そして風呂場で嗅ぎなれないシャンプーの香りに悶々とさせられた挙句に、部屋へ戻ると、自分の布団の上で美少女が短パンで寝そべって本を読んでいるという現実が待っていた。
もはや何もかもが嫌になってしまい、興福寺前の側溝で、どんなに暑くとも泥まみれにされようとも、鹿と共に寝たいとさえ思ってしまった。
「ねぇ飛鳥、河童っていつ来るの?」
俺は押入れから来客用の布団を押し出して床に敷くと、ファッション雑誌を読みふけったまま、こちらを見ようともしない妖怪オタクにムッとした。
「さあな。河童に聞いてくれ。それと、水瀬はこっちの敷布団。俺がベッドだからな」
そう言うとやっと水瀬は大きな釣り目をこちらに向けてきた。
「なに莫迦なことを言っているの? なんで私が飛鳥の足元で寝なくちゃいけないわけ? 見下されているみたいで、おぞましいわ」
「俺の部屋で俺のベッドだ!」
「却下よ。私はここで寝るの。飛鳥は下で寝なさい」
「却下を却下だ。そこは俺の聖域だ。美少女だろうが妖怪オタクだろうが、侵入することを禁ずる」
「どかせるもんならどかしてみなさいよ。ほら」
側臥位で見つめてきた瞬間に、Tシャツの裾がめくれてへそが見えた。思わず目をつぶって顔を両手で押さえて、やんごとなき純情を穢された俺は、もはやたじろぎと共に撃沈した。
「そんな不埒なことができるか! もういい、好きにしてくれ」
やった、となぜかご機嫌にまたもや雑誌を読みふける水瀬に、一体いつになったらぎゃふんと言わせることができるのかを考えたのだが、きっと大仏様にでも聞かなきゃ分からないだろうなと思いつつ、俺も布団に寝そべった。
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