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大仏様だって、甘えたい
第24話
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何の悪夢かわからないのだが、学校一の美少女と名高い、水瀬が俺の家に泊まりに来た。俺はよっぽど前世に、とんでもなく大変なことをしでかしてしまったに違いない。未だに、そのカルマを昇華しきれていないのかと思う。
近所の寺という寺にいらっしゃる仏様に救いの祈りを捧げ、世界遺産の神社にいらっしゃるありがたい神々にも熱心に救いを求めるSOSを発した。しかし、どうやら神仏は俺の願いを叶えることよりも、美少女の願いを聞き入れるほうに熱心であるようだった。
この世はえこひいきで成り立っている。
それもこれも何が原因かと言えば、つい口を滑らせて、夜中にまで河童が家に来て困るという話をしたのが事の発端である。呪われし我が口にチャックをつけられるのであれば、永遠にチャックをつけたい気分に陥ったがしかし遅い。
耳ざとい水瀬がその俺の一言を聞き逃すはずもなく、あっというまに泊まる準備を整えた。頭の先からつま先まで、しっかりとよそいきの秀才美少女コーティングで整えて、行基さん像の前に現れた時には、俺は今すぐここで天に召されたほうが安全なのではないか、と思わずにいられなかった。
鬼ばば……母親に同級生が泊りに来たいと言っていると伝えたときに発揮された野次馬度数をもし万が一測定できる機器があれば、計器が一瞬にして故障していたに違いない。
実家から数百メートル離れている今この時点でさえ、鬼ばばならぬ野次馬母の野次馬センサーが、ぬたぬたと追いかけてきているかのようだった。
「……水瀬。もう一回聞くけど、本当に泊まるの? 俺の家に? 般若みたいな母親いるけど大丈夫? あと口やかましい妹も」
「何十回も言ったけど泊まるわよ。この先何億回と聞かれようと、私は泊まるわ。河童が現れないというなら、明日も泊まるわ」
「冗談じゃない!」
「いいのよ、アパート引き払ってきて飛鳥《あすか》のお家に住んだって。プロポーズもしたわけだし。そのほうが私の家賃は浮くし、河童が近くにいるわけだし」
「俺の家を勝手に下宿先にすることは却下だ。しかもそんな不埒な目的では、なおさら却下だ。そしてあんな愛のないプロポーズを受ける気はない」
「不埒じゃないわ、節約と人生のためよ」
「ようは金と妖怪じゃないか!」
ふん、と半眼で睨んできた水瀬は鼻を鳴らして、「行きましょう」とお約束の別方向へと歩きだした。
そのまま歩かせておこうかと思ったのだが、後になって十倍返しになって帰ってきても困るので、心優しき青年である俺は、腕を引っ張って軌道修正をしたのであった。
「ああ、もうほんとにどうしてこうなったんだ……俺は平穏な学生生活を送ってまともな彼女作って、夏休みだってデートしたりしたかったのに……」
「あら、充分じゃない? とても平和に過ごしているし、こうして私と夏休みにデートまでして、お泊りだって経験済みよ?」
「言い方に語弊がありまくりすぎるぞ。まともな彼女と言ったんだ、誰も妖怪オタクだとは言っていない」
「大丈夫よ、少なくとも飛鳥よりはまともだし、まともに見えるし、まともだと思われているから私」
「今から泊まる家の人に向かってよくもこういけしゃあしゃあと……」
俺が吐いた盛大なため息は、風神様もびっくりするほどの風圧であるに違いない。気乗りしないまま、野次馬ど根性丸出しの家族が待つ我が家へと向かった。
近所の寺という寺にいらっしゃる仏様に救いの祈りを捧げ、世界遺産の神社にいらっしゃるありがたい神々にも熱心に救いを求めるSOSを発した。しかし、どうやら神仏は俺の願いを叶えることよりも、美少女の願いを聞き入れるほうに熱心であるようだった。
この世はえこひいきで成り立っている。
それもこれも何が原因かと言えば、つい口を滑らせて、夜中にまで河童が家に来て困るという話をしたのが事の発端である。呪われし我が口にチャックをつけられるのであれば、永遠にチャックをつけたい気分に陥ったがしかし遅い。
耳ざとい水瀬がその俺の一言を聞き逃すはずもなく、あっというまに泊まる準備を整えた。頭の先からつま先まで、しっかりとよそいきの秀才美少女コーティングで整えて、行基さん像の前に現れた時には、俺は今すぐここで天に召されたほうが安全なのではないか、と思わずにいられなかった。
鬼ばば……母親に同級生が泊りに来たいと言っていると伝えたときに発揮された野次馬度数をもし万が一測定できる機器があれば、計器が一瞬にして故障していたに違いない。
実家から数百メートル離れている今この時点でさえ、鬼ばばならぬ野次馬母の野次馬センサーが、ぬたぬたと追いかけてきているかのようだった。
「……水瀬。もう一回聞くけど、本当に泊まるの? 俺の家に? 般若みたいな母親いるけど大丈夫? あと口やかましい妹も」
「何十回も言ったけど泊まるわよ。この先何億回と聞かれようと、私は泊まるわ。河童が現れないというなら、明日も泊まるわ」
「冗談じゃない!」
「いいのよ、アパート引き払ってきて飛鳥《あすか》のお家に住んだって。プロポーズもしたわけだし。そのほうが私の家賃は浮くし、河童が近くにいるわけだし」
「俺の家を勝手に下宿先にすることは却下だ。しかもそんな不埒な目的では、なおさら却下だ。そしてあんな愛のないプロポーズを受ける気はない」
「不埒じゃないわ、節約と人生のためよ」
「ようは金と妖怪じゃないか!」
ふん、と半眼で睨んできた水瀬は鼻を鳴らして、「行きましょう」とお約束の別方向へと歩きだした。
そのまま歩かせておこうかと思ったのだが、後になって十倍返しになって帰ってきても困るので、心優しき青年である俺は、腕を引っ張って軌道修正をしたのであった。
「ああ、もうほんとにどうしてこうなったんだ……俺は平穏な学生生活を送ってまともな彼女作って、夏休みだってデートしたりしたかったのに……」
「あら、充分じゃない? とても平和に過ごしているし、こうして私と夏休みにデートまでして、お泊りだって経験済みよ?」
「言い方に語弊がありまくりすぎるぞ。まともな彼女と言ったんだ、誰も妖怪オタクだとは言っていない」
「大丈夫よ、少なくとも飛鳥よりはまともだし、まともに見えるし、まともだと思われているから私」
「今から泊まる家の人に向かってよくもこういけしゃあしゃあと……」
俺が吐いた盛大なため息は、風神様もびっくりするほどの風圧であるに違いない。気乗りしないまま、野次馬ど根性丸出しの家族が待つ我が家へと向かった。
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