25 / 73
大仏様だって、甘えたい
第24話
しおりを挟む
何の悪夢かわからないのだが、学校一の美少女と名高い、水瀬が俺の家に泊まりに来た。俺はよっぽど前世に、とんでもなく大変なことをしでかしてしまったに違いない。未だに、そのカルマを昇華しきれていないのかと思う。
近所の寺という寺にいらっしゃる仏様に救いの祈りを捧げ、世界遺産の神社にいらっしゃるありがたい神々にも熱心に救いを求めるSOSを発した。しかし、どうやら神仏は俺の願いを叶えることよりも、美少女の願いを聞き入れるほうに熱心であるようだった。
この世はえこひいきで成り立っている。
それもこれも何が原因かと言えば、つい口を滑らせて、夜中にまで河童が家に来て困るという話をしたのが事の発端である。呪われし我が口にチャックをつけられるのであれば、永遠にチャックをつけたい気分に陥ったがしかし遅い。
耳ざとい水瀬がその俺の一言を聞き逃すはずもなく、あっというまに泊まる準備を整えた。頭の先からつま先まで、しっかりとよそいきの秀才美少女コーティングで整えて、行基さん像の前に現れた時には、俺は今すぐここで天に召されたほうが安全なのではないか、と思わずにいられなかった。
鬼ばば……母親に同級生が泊りに来たいと言っていると伝えたときに発揮された野次馬度数をもし万が一測定できる機器があれば、計器が一瞬にして故障していたに違いない。
実家から数百メートル離れている今この時点でさえ、鬼ばばならぬ野次馬母の野次馬センサーが、ぬたぬたと追いかけてきているかのようだった。
「……水瀬。もう一回聞くけど、本当に泊まるの? 俺の家に? 般若みたいな母親いるけど大丈夫? あと口やかましい妹も」
「何十回も言ったけど泊まるわよ。この先何億回と聞かれようと、私は泊まるわ。河童が現れないというなら、明日も泊まるわ」
「冗談じゃない!」
「いいのよ、アパート引き払ってきて飛鳥《あすか》のお家に住んだって。プロポーズもしたわけだし。そのほうが私の家賃は浮くし、河童が近くにいるわけだし」
「俺の家を勝手に下宿先にすることは却下だ。しかもそんな不埒な目的では、なおさら却下だ。そしてあんな愛のないプロポーズを受ける気はない」
「不埒じゃないわ、節約と人生のためよ」
「ようは金と妖怪じゃないか!」
ふん、と半眼で睨んできた水瀬は鼻を鳴らして、「行きましょう」とお約束の別方向へと歩きだした。
そのまま歩かせておこうかと思ったのだが、後になって十倍返しになって帰ってきても困るので、心優しき青年である俺は、腕を引っ張って軌道修正をしたのであった。
「ああ、もうほんとにどうしてこうなったんだ……俺は平穏な学生生活を送ってまともな彼女作って、夏休みだってデートしたりしたかったのに……」
「あら、充分じゃない? とても平和に過ごしているし、こうして私と夏休みにデートまでして、お泊りだって経験済みよ?」
「言い方に語弊がありまくりすぎるぞ。まともな彼女と言ったんだ、誰も妖怪オタクだとは言っていない」
「大丈夫よ、少なくとも飛鳥よりはまともだし、まともに見えるし、まともだと思われているから私」
「今から泊まる家の人に向かってよくもこういけしゃあしゃあと……」
俺が吐いた盛大なため息は、風神様もびっくりするほどの風圧であるに違いない。気乗りしないまま、野次馬ど根性丸出しの家族が待つ我が家へと向かった。
近所の寺という寺にいらっしゃる仏様に救いの祈りを捧げ、世界遺産の神社にいらっしゃるありがたい神々にも熱心に救いを求めるSOSを発した。しかし、どうやら神仏は俺の願いを叶えることよりも、美少女の願いを聞き入れるほうに熱心であるようだった。
この世はえこひいきで成り立っている。
それもこれも何が原因かと言えば、つい口を滑らせて、夜中にまで河童が家に来て困るという話をしたのが事の発端である。呪われし我が口にチャックをつけられるのであれば、永遠にチャックをつけたい気分に陥ったがしかし遅い。
耳ざとい水瀬がその俺の一言を聞き逃すはずもなく、あっというまに泊まる準備を整えた。頭の先からつま先まで、しっかりとよそいきの秀才美少女コーティングで整えて、行基さん像の前に現れた時には、俺は今すぐここで天に召されたほうが安全なのではないか、と思わずにいられなかった。
鬼ばば……母親に同級生が泊りに来たいと言っていると伝えたときに発揮された野次馬度数をもし万が一測定できる機器があれば、計器が一瞬にして故障していたに違いない。
実家から数百メートル離れている今この時点でさえ、鬼ばばならぬ野次馬母の野次馬センサーが、ぬたぬたと追いかけてきているかのようだった。
「……水瀬。もう一回聞くけど、本当に泊まるの? 俺の家に? 般若みたいな母親いるけど大丈夫? あと口やかましい妹も」
「何十回も言ったけど泊まるわよ。この先何億回と聞かれようと、私は泊まるわ。河童が現れないというなら、明日も泊まるわ」
「冗談じゃない!」
「いいのよ、アパート引き払ってきて飛鳥《あすか》のお家に住んだって。プロポーズもしたわけだし。そのほうが私の家賃は浮くし、河童が近くにいるわけだし」
「俺の家を勝手に下宿先にすることは却下だ。しかもそんな不埒な目的では、なおさら却下だ。そしてあんな愛のないプロポーズを受ける気はない」
「不埒じゃないわ、節約と人生のためよ」
「ようは金と妖怪じゃないか!」
ふん、と半眼で睨んできた水瀬は鼻を鳴らして、「行きましょう」とお約束の別方向へと歩きだした。
そのまま歩かせておこうかと思ったのだが、後になって十倍返しになって帰ってきても困るので、心優しき青年である俺は、腕を引っ張って軌道修正をしたのであった。
「ああ、もうほんとにどうしてこうなったんだ……俺は平穏な学生生活を送ってまともな彼女作って、夏休みだってデートしたりしたかったのに……」
「あら、充分じゃない? とても平和に過ごしているし、こうして私と夏休みにデートまでして、お泊りだって経験済みよ?」
「言い方に語弊がありまくりすぎるぞ。まともな彼女と言ったんだ、誰も妖怪オタクだとは言っていない」
「大丈夫よ、少なくとも飛鳥よりはまともだし、まともに見えるし、まともだと思われているから私」
「今から泊まる家の人に向かってよくもこういけしゃあしゃあと……」
俺が吐いた盛大なため息は、風神様もびっくりするほどの風圧であるに違いない。気乗りしないまま、野次馬ど根性丸出しの家族が待つ我が家へと向かった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる