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依頼とお告げ

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「おかえり、ミキ」

 持っていた荷物を、奪うように受けとりながら、中へと招き入れる。

 半開きだった扉は全開になり、リナもの姿も見えてくる。その顔はなぜか、ひきつっている。

「どうしたんだよリナ」
「先輩、クライアントらしき人物が来ているんだが」

 リナがその場から動くと、背中に隠れていたおっちゃんが姿を現した。
 ついさっき、依頼を断ったばかりの相手だ。

「ミキ、リナ、先に中に入ってくれ」

  二人を中に避難させると、大きくため息をついて見せる。

「どういったご用件で?」
「そのだな」

 横柄な態度で近づいてくると、下への軌跡を残して、見えなくなった。
 何事だ?

 おずおずと下を見ると、男は頭を着いていた。
 土下座。体裁を全て投げ売り、謝罪をする時の行為だ。

「どういうことでしょうか」

 戸惑いつつも、表には出ないように毅然と対応をする。
 
「先程の無礼な振る舞い、謝っても許されないと思う。それでももう一度話を聞いてもらえないだろうか」
「こちらにはそれに応える理由が…エミリ?」

 閉まったはずの扉は少し開いていて、エミリの顔が半分ほど覗いていた。
『お告げ』か…正直忌々しい。

「わかりました。ただ用意がありますので、ギルドからの連絡を待ってください」
「分かった。待っている」

 男は怒鳴ることもなく、静かに立ち去っていった。
 さっきとはまるで別人だ。

「エミリ、出てきても大丈夫だぞ」
「う、うん…」

 俺の隣に立つと、おっさんの去っていた先を見つめた。

「ごめん、私のワガママで」
「いいさ。それよりも本当に良いんだな?」
「うん…それにあの人…」
「知り合いか?」
「違うけど、勘違いでなければきっと…」

 もごもごと言うだけで、教えてはくれない。
 言いたくないなら無理に聞き出すことでもないか。

「俺は今からギルドに行ってくる。あとで3人で来てくれ」
「私も行く」
「おいおい、町にもギルドにも男がいるんだぞ」
「分かってる。ワガママばかり言っていることも」

 ワガママはいつものことだが、今日はやけに強情だな。
 これが反抗期ってやつか?

「先輩、あの…」

 おとなしめの声がしたと思うと、今度はミキが覗いていた。扉から顔を半分だけ出して。
 その行動は流行りなのか?

「どうした、ミキ」
「ワガママなのは分かっているんですけど…その、エミリを連れってあげてくれませんか?」
「分かった」
「ちょ、即答!?」

 エミリは驚きながらも、不満そうにほっぺたを膨らませた。

 ミキがこんなことを言うのも珍しい。
 何か理由があるはずだ。

「行くぞエミリ。あーそれとミキ、少ししたら迎えが来ると思うから、リナと二人で出かける準備をしておいてくれ」
「ありがとうございます。それと…その、エミリのことっ、よろしくお願いします!」

 ミキが頭を下げると、右と左で結ばれている2本の髪が揺れた。
 いつもなら頭を撫でるところだったが、今日は少し距離がある。

「約束されました」

 手を振って返事をすると、エミリの手をとった。

 すると、エミリの肩がびくっと震えた。
 おっといけない。びっくりさせてしまった。
 先に一言かけておくべきだったな。

 それでもエミリは、俺の顔を見ると、嬉しそうに笑ってくれた。
 
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