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小さな結界師

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 その場でへたり込む伯爵令嬢の元には、数人の警備員がかけよった。

「大丈夫ですかお嬢様?なにか酷いことをされたのですね」
「うるさい…」
「お、お嬢様…?」
「うるさいっ!ええ、手を出さないわよ、私はね!来い、ゴーレム!」

 ホテルの壁が砕け、土地で作られた巨体が入ってくる。

 ゴーレム。
 伯爵令嬢が幼い頃に才を見出し、今も成長し続ける異能の力。
 土さえあれば、どんな場所でも強力な戦力を呼び出せるのだ。

「きゃーーーー」

 悲鳴が上がり、会場は騒然となる。
 だが、伯爵令嬢は気にも留めない。

 俺たちしか見えていないのだ。

「死になさい!」

 問答無用で振り下ろされた拳を、空中にタイル状の結界を作って受け止める。
 こいつを倒すのは簡単だ。
 そのやりかたはミキに伝えてある。
「ミキ、終わりにしよう。この家との関係をっ」
「先輩…」

 ミキはまだ躊躇っているようだ。
 これだけひどい目に合わされているのに、まだ決断できていない。

 その手をにぎると、びくっと肩を震わせた。
 それから俺を見上げると、頷いた。

「壁よ、我らを守れ!迫る敵を包み込め、結界!」

 巨大な結界がゴーレムを包み込む。

「結界?そんなものゴーレムが叩き潰して…うそっ、なんでっ」

 伯爵令嬢の目の前で、ゴーレムは崩れていく。
 結界は力を遮断する。

 操られていた土は制御を失われ、元の姿に戻ったのだ。

「さて、ご令嬢の作り出したゴーレムでパーティも会場も滅茶苦茶になったわけだが、どう思う?伯爵、それとご婦人」
「あ、貴方がなにかしたのでしょうっ」
「そ、そうだ!でなければ娘がこんなことをするはずがない!」

 ミキも二人の娘のはずなんだけどな。
 さて、どう落とし前をつけようか。

「先輩、私が行きます」
「おいおい大丈夫かよ」
「はい、先輩が私のために怒ってくれているところを見ていたら、決心がつきました」

 ツインテールとスカートを揺らしながら、ミキは歩き出す。
 伯爵令嬢のところへ。

「な、なによっ」

 さっきまでとは違うミキの様子に、伯爵令嬢は狼狽える。
 ミキは視線を合わせると、そっと抱きしめ、頭を撫でた。

「心配しないで、私は二度と貴方の前には現れない。だから気兼ねなく、好きなように生きて」

 ミキは立ち上がると、両親を見つめた。

「今までお世話になりました。それからさようなら。私はあなた達の娘ではありませんし、伯爵家の関係者でもありません」
「何を言って…」
「今回私を売ろうとしたようですが、買い手は決まりました。いいえ、私が決めました」
「そんな勝手なことは許さぬぞ」
「売り込み先は、先輩です!」
「俺かよ!?」

 やばい、伯爵と同じノリで突っ込んじまった。

「はいっ、引き取ってくれるまでずっと側にいますからねっ」

 ミキは笑顔を向けると、抱きついてきた。
 小さな体は見た目通りに軽くて、今までにないぐらいに眩しい笑顔をしていた。
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