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小さな結界師
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今回のクエストはパーティの警備だ。
わざわざ呼んだのだから重要なものに思えるかもしれないが、実はすることがない。
伯爵家は自前で警備用のクランを抱えている。今までのイベントごとで問題が起きたとは聞いたことはない。
手を貸すどころか、なにもするなとすら言われている。
指定されたのは立ち位置だけだ。
「大丈夫、ではなさそうだな」
部屋に着くと、ミキは椅子に座って息をついた。
近くにポットがあったので、ミルクたっぷりの紅茶を出した。
「あ、ありがとうございますっ」
「いいよ。それよりも疲れだろ?」
「そう、ですね…」
ミキは紅茶をひとくち飲むと、クローゼットを見た。
中には、ミキのために用意されたドレスがあった。
「ただの警備だってのにわざわざドレスを用意するなんてどういうつもりだろうな」
というか、サイズが違っていたらどうするんだろうか?
セクハラになりかねないから言わないけど。
「そうですね…分かりませんが、取り敢えず見てみましょう」
クローゼットを開くと、青くて、水色のヒラヒラがついたドレスが入っていた。
「普通に似合いそうだな」
「ふえっ!?」
「ああ、悪い。嫌がらせの一つかと思っていたからつい本音が」
ミキはドレスを前に、顔を真っ赤にした。
それからドレスを手に取ると宣言した。
「あ、あのっ、着てみてもいいでしょうかっ」
「そうだな、サイズが合わなかったら困るしな」
やべっ、言うつもりはなかったのに言ってしまった。
「そ、そうですよね、サイズがありますもんねっ、うんっ」
怒っているわけではなかったが、何だか不満そうだ。
ミキは着替えると、ドレスを姿を見せてくれた。
「うん、似合っているぞ。ミキのために作られたような服だな」
「ありがとうございます」
精一杯誉めたはずなのだが、やはり不満そうだ。
「気に入らなかったのか?」
「いえ、とても可愛いと思います」
「とてもそんな顔には見えないんだが」
「いえ、着れてしまったので…」
もごもご言うもんだから、最後の方は聞き取れなかった。
聞かれたくないこともあるだろうし、敢えて触れないでおくか。
「まだ時間があるけどどうする?一度着替えるか?」
「そうですね…そうします」
コンコンコン。
ミキが着替えようとすると、ドアがノックされた。
一体誰だろう。
客人が来るとは聞いていないが。
「出て大丈夫か?」
「はい、お願いします」
ドキドキしながらドアを開けると、さっきの公爵令嬢が立っていた。
「どういったご用件で?」
ドアを半分閉じたまま聞くと、俺の体を押し退けて侵入してくる。
「お、おいっ」
止めるが止まらず、ミキの前に立つとにやっと笑った。
「あらら、パーティまでは時間があるのに、もう着替えているのね。ドレスを用意されたのがそんなに嬉しかったのかしらっ」
ミキに向かって平手を繰り出した。
だが、当たることはなかった。
「痛いじゃないっ、大事な手が使えなくなったらどうしてくれんのよっ」
完全な自爆だ。
ミキは手を出していない。
平手に驚いて、小さな結界を展開しただけだ。
公爵令嬢はそれを殴り、勝手に騒いでいるだけだ。
だが、周囲がそれを許すはずはなかった。
「大丈夫ですかお嬢様っ」
声を聞き付けて、何人もの警備員が部屋に押し入ってくる。
「ええ、ちょっと手を痛めたくらいよ」
「なんと惨たらしい…お嬢様になにをしたっ」
この警備員には見覚えがない。
おそらく、ミキがいなくなったあとに入ってきて、その正体を知らないのだろう。
「お嬢様、不届きものは処罰いたしましょう!」
全員がミキを取り囲む。
マズイな。
このままでは大事件になってしまう。
下手すれば怪我人が出る。
主に警備員側に。
「お止めなさい」
予想外にも、止めたのは伯爵令嬢だった。
「今はパーティの前よ。余計な騒ぎは起こさないように」
「で、ですが…」
「私は戻ります。警護なさい」
警護員は渋々と言った顔で、後に続いて出ていく。
倒れた椅子や、落ちたカップを拾うこともなく。
俺は扉を閉めると、ミキを座らせ、頭を撫でた。
「あの、先輩…私っ」
「大丈夫。ミキは間違っていないよ」
「私、私っ、うわーーーーーん」
ミキは俺に抱きつくと、泣き出してしまった。
触れている肌から力の流れが伝わってくる。
さっきミキが使った力、『結界』の力が。
「コネクト」
小声で唱えると、部屋全体を結界で包み込む。
これで、さっきみたいにいきなり誰かが侵入してくることもない。
「先輩…私っ、私っ」
まあ、懸念があるとすれば、結界が透明だということだろうか。
この部屋が孤立空間であることを、俺達以外は知らない。
犯罪が起きて逃げろと言われても、まったく分からない。
まあ、どうせ誰も助けには来ないだろうけど。
わざわざ呼んだのだから重要なものに思えるかもしれないが、実はすることがない。
伯爵家は自前で警備用のクランを抱えている。今までのイベントごとで問題が起きたとは聞いたことはない。
手を貸すどころか、なにもするなとすら言われている。
指定されたのは立ち位置だけだ。
「大丈夫、ではなさそうだな」
部屋に着くと、ミキは椅子に座って息をついた。
近くにポットがあったので、ミルクたっぷりの紅茶を出した。
「あ、ありがとうございますっ」
「いいよ。それよりも疲れだろ?」
「そう、ですね…」
ミキは紅茶をひとくち飲むと、クローゼットを見た。
中には、ミキのために用意されたドレスがあった。
「ただの警備だってのにわざわざドレスを用意するなんてどういうつもりだろうな」
というか、サイズが違っていたらどうするんだろうか?
セクハラになりかねないから言わないけど。
「そうですね…分かりませんが、取り敢えず見てみましょう」
クローゼットを開くと、青くて、水色のヒラヒラがついたドレスが入っていた。
「普通に似合いそうだな」
「ふえっ!?」
「ああ、悪い。嫌がらせの一つかと思っていたからつい本音が」
ミキはドレスを前に、顔を真っ赤にした。
それからドレスを手に取ると宣言した。
「あ、あのっ、着てみてもいいでしょうかっ」
「そうだな、サイズが合わなかったら困るしな」
やべっ、言うつもりはなかったのに言ってしまった。
「そ、そうですよね、サイズがありますもんねっ、うんっ」
怒っているわけではなかったが、何だか不満そうだ。
ミキは着替えると、ドレスを姿を見せてくれた。
「うん、似合っているぞ。ミキのために作られたような服だな」
「ありがとうございます」
精一杯誉めたはずなのだが、やはり不満そうだ。
「気に入らなかったのか?」
「いえ、とても可愛いと思います」
「とてもそんな顔には見えないんだが」
「いえ、着れてしまったので…」
もごもご言うもんだから、最後の方は聞き取れなかった。
聞かれたくないこともあるだろうし、敢えて触れないでおくか。
「まだ時間があるけどどうする?一度着替えるか?」
「そうですね…そうします」
コンコンコン。
ミキが着替えようとすると、ドアがノックされた。
一体誰だろう。
客人が来るとは聞いていないが。
「出て大丈夫か?」
「はい、お願いします」
ドキドキしながらドアを開けると、さっきの公爵令嬢が立っていた。
「どういったご用件で?」
ドアを半分閉じたまま聞くと、俺の体を押し退けて侵入してくる。
「お、おいっ」
止めるが止まらず、ミキの前に立つとにやっと笑った。
「あらら、パーティまでは時間があるのに、もう着替えているのね。ドレスを用意されたのがそんなに嬉しかったのかしらっ」
ミキに向かって平手を繰り出した。
だが、当たることはなかった。
「痛いじゃないっ、大事な手が使えなくなったらどうしてくれんのよっ」
完全な自爆だ。
ミキは手を出していない。
平手に驚いて、小さな結界を展開しただけだ。
公爵令嬢はそれを殴り、勝手に騒いでいるだけだ。
だが、周囲がそれを許すはずはなかった。
「大丈夫ですかお嬢様っ」
声を聞き付けて、何人もの警備員が部屋に押し入ってくる。
「ええ、ちょっと手を痛めたくらいよ」
「なんと惨たらしい…お嬢様になにをしたっ」
この警備員には見覚えがない。
おそらく、ミキがいなくなったあとに入ってきて、その正体を知らないのだろう。
「お嬢様、不届きものは処罰いたしましょう!」
全員がミキを取り囲む。
マズイな。
このままでは大事件になってしまう。
下手すれば怪我人が出る。
主に警備員側に。
「お止めなさい」
予想外にも、止めたのは伯爵令嬢だった。
「今はパーティの前よ。余計な騒ぎは起こさないように」
「で、ですが…」
「私は戻ります。警護なさい」
警護員は渋々と言った顔で、後に続いて出ていく。
倒れた椅子や、落ちたカップを拾うこともなく。
俺は扉を閉めると、ミキを座らせ、頭を撫でた。
「あの、先輩…私っ」
「大丈夫。ミキは間違っていないよ」
「私、私っ、うわーーーーーん」
ミキは俺に抱きつくと、泣き出してしまった。
触れている肌から力の流れが伝わってくる。
さっきミキが使った力、『結界』の力が。
「コネクト」
小声で唱えると、部屋全体を結界で包み込む。
これで、さっきみたいにいきなり誰かが侵入してくることもない。
「先輩…私っ、私っ」
まあ、懸念があるとすれば、結界が透明だということだろうか。
この部屋が孤立空間であることを、俺達以外は知らない。
犯罪が起きて逃げろと言われても、まったく分からない。
まあ、どうせ誰も助けには来ないだろうけど。
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