契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第3章~港町での物語~

ブリュンヒルデとの出会い

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 戦乙女ヴァルキリーーは美しく、美しさゆえに人の欲望を掻き立てる。
 認められたい、己のモノにしたい。
 かつての人は、身の程も知らずに、ヴァルキリーに近づいた。そして彼女も、戯れの一つとして受け入れた。
 たった一瞬の、快楽を求めた軽率な行動は、いつしか、人とヴァルキリーの関係を歪めてしまった。
 ヴァルキリーの多くは、誰彼構わず相手にした。だが、中には一人だけを愛そうとしたヴァルキリーもいた。
 だが、その願いは叶わなかった。彼女は傷つき、ふさぎ込んだ。それはもう、何百年という長さで。
 ブリュンヒルデは今でこそ普通に話をしてくれるが、受け入れてもらうまでが大変だった。

 それはレッドラグーンができる前のこと。ヤマトにタケヤ、それからマヤと”まだ”普通に冒険をしていた時のことだった。
 俺たちは水竜ヨルムンガンドの討伐クエストを受け、海底にあるという神殿を目指していた。

 神殿はすぐに見つかったが、海に入れば呼吸が出来ない。対処法のない俺たちは困り果て、海の上から神殿を眺めていることしか出来なかった。本当を言うと、俺だけであれば水中に入ることは出来た。水の加護を得ていたのだ。だが、なんとなく気まずいので黙っていた。
 海の上で途方に暮れ始めて三日ほどたったある日、すすり泣く声が聞こえてきた。女の子のものだった
 声は足元か聞こえて来て、何事かと海を覗き込むと、水面が割れ、でかい口が現れた。口はそのまま水面に上がってきて、俺を飲み込んだ。あまりのことに反応することが出来なかった。水ごと飲み込まれた俺は、水流に流されるがままに謎の生物の体の奥へと進んでいく。
 視界は急に開け、体が硬いものにぶつかった。よく見れば石で出来た神殿で、あちこちがコケて汚れていて、わかめが転がっていた。

「しくしくしく」
 
 海の上で聞いた泣き声が、さっきよりも近くで聞こえた。部屋の奥に進んでいくと、女の子が見えてきた。後ろを向いていて表情は見えないが、綺麗な黒髪が印象的だった。彼女に見入っていたと気がついたのは、息が苦しくなったからだ。どうやら呼吸をするのを忘れていたらしい。すっと酸素を吸い込むと、女の子の肩がびくっと震えた。

「誰かいるのっ!?」

 怯えた声を上げると、少女を取り囲むように、水の薄い膜が生まれた。まるでシャボン玉のような見た目で、中心で揺れる女の子はまるで、お姫様のようだった。

「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ」

 俺が答えると、少女はまた肩を震わせた。ひたすら怯えていて、一向にこちらを見ようとはしない。このまま立ち去るのがいいのだろうが、なぜかそれではいけないという錯覚が襲ってくる。これはもう、脅迫まがいのものだ。
 それにしてもここはどこだろう。水の中から見えた口は、何かのモンスターのものだろうか?だったら俺は腹の中にいることになる。そのままずっといて、消化されるなんて勘弁だ。いやマテ、もしそうなるとしたら、女の子もなおさら放っては置けない。

「一緒にここを出ないか?」

 声をかけるが、反応は返ってこない。聞こえていないのか?
 疑問に思って、思いっきり息を吸うと、一気に吐き出した。

「逃げないかー」

 俺の声が反響して、何重にも響き渡った。これなら聞こえていないはずはない…のだが、少女は反応を示さない。
 いや、よくよく見れば耳のあたりはうっすらと膨らんでいる。もしら耳をふさいでいるのか?
 初対面でそこまで嫌われる心当たりがない。

「どうしてこんなところにいるんだー」

 やはり反応がない。うーん、ここに住んでいるのだろうか?だったら置いていっても問題ないか?
 悩んでいると、通ってきた道からやけに濁った液体が流れ混んできた。汚れた水かと思って気にせずいたら、足先が触れ、じゅわっと音を立てて痛みを感じた。

「うおっ!?」

 慌てて壁を掴んで上に上がると、液体に触れた昆布やらわかめやらが溶けている。これは消化液か!?そういえばここはモンスターの体内だった。
 女の子を囲んでいたシャボン玉にも液体は触れ、じゅわーっと煙を立てる。このままでは危ない。
 近づこうとしてシャボン玉に飛び込むと、意外に耐久のある表面を割ることが出来ず、弾力で押し返されてしまった。

 その間に、消化液はシャボン玉の表面に小さな穴を作り、中へと流れ込んでいく。その一部が少女の髪に触れ、煙を上げる。このままでは体が溶かされてしまう。だというのに、少女は動こうともしない。
 
「正気かよ!?来い、フレイムランス!」

 慌てて炎の魔法を発動すると、シャボン玉に向かってぶっ放した。それでも簡単には壊れてはくれない。くそっ、なんて耐久だ。
 その間にも、女の子から上がる煙は全身へと広がっていく。

「死ぬつもりか!?」

 こうなったらためらってはいられない。

「シャドウイート!!」

 闇魔法を発動すると、目の前の魔法ーシャボン玉を無効化する。そして、背中に翼を生やすと、上空から女の子を抱き上げた。消化液の効果はすぐには消えないようで、じゅわーっと、肉が焼けるみたいな音が腕の中で聞こえている。
 ここでようやく、女の子の顔が見えた。整った顔立ちで、お人形のようだ。いや、本当にお人形なのかもしれない。光を失った目からは、生気が感じられない。

「ちょっと、何をするのよ!」

 少女は人形ではなかった。俺に気が付くと暴れだす。
 見た目よりもずっと力が強く、俺の手はいとも簡単に振りほどかれた。女の子は髪を揺らしながら、消化液の海へと落ちていき、海面が少女の体の形に割れると同時に、泡がブクブクと湧きだし、そのまま海の底へと沈んでいく。

「自殺願望でもあんのかよ!」

 俺はただ、少女のいるはずの場所へと向かう。消化液の海に潜ると、全身が溶けるような感覚に襲われた。、肩が足が焼けるように痛い。だけど、このまま何もしないほうがよっぽど後悔する。
 ようやく見つけた少女は、見るからに危うい。元々白い肌は青白く、感情の失われた目は深く深く、まるで海の底のように暗くなっていた。
 なんとか腕をつかむと、その細さに驚いた。これが本当に、さっき俺の手を振りほどいたのと同じ相手のものだろうか?

 体を引き上げると、抵抗はされなかった。海面から出るころには、俺の体はドロドロだった。もう最悪だ。今すぐに帰って風呂にでも浸かりたい。
 だが、事は簡単には進まないようだ。消化液の表面は触手のように形を変えると、俺に向かって伸びてくる。くそっ、意地でも逃がさないつもりか。
 なんと避け続けるが、いかんせんスペースが狭すぎる。こうなったら、天井を突き破るしかない。

「アイスランス!」

 氷の矢を天井に投げつけると、上空には穴が開いた。だが、すぐに修復が始まっている。足元にに迫っていた触手は、悲鳴を上げるように左右に揺れた。
 それでも、すぐに穴はすぐに修復されはじめた。ゆっくりしている時間なんてないようだ。


「間に合えーーーー!」

 塞ぎつつある穴を、全力で翔る。表面は液体で光っている。多分、俺達を溶かして来た液体だろう。もし穴に捉えられれば、肉体が一瞬でスライムになるのは想像が出来た。
 そんなのは嫌だ。少なくとも俺はまだ、人でいたい。

「うりゃあああああああああああああ!」

 速度を上げるべく、気合を入れる。
 くそっ、道は確実に狭くなってきている。今は人が二人ぐらいギリギリと通れるぐらいのスペースしかない。
 それでも、俺の速さが勝った。徐々に狭くなっていく空間を抜けると、光が差し込んで来た。
 眼下に広がるのは見知らぬ大陸だった。ゆっくりと降り立つと、大陸は暴れるように揺れた。まるで生きている様だ。
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