契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第3章~港町での物語~

舞の後は休憩しましょう

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「ティアじゃないか」
「おー今年も帰ってきたんだね」
「おかえりティア」

 村の仲を歩いていると、みんなが口々に話しかけてくる。どうやらティアは人気者のようだ。

「ただいま、みなさん」

 答えるティアも嬉しそうで、いつにも増して穏やかな笑みを浮かべる。そして、話しかけて来た人が俺に気が付き、睨みつけてくるところまでが定番になってきた。

「ティア、どうして男がここにいるの?」
「彼は特別なのよ」

 決まってそう答えるが、誰も納得した様子を見せない。ただ、村長が立ち入りを許可したことを告げると、渋々ながらも見逃してくれた。
 村の奥に進んでいくと、少し大きめの小屋が見えてきた。サイズ感的には、お祭りの神輿がちょうど入るぐらいだ。ティアが扉を開けると、中には、女神像があった。この世界には、ヴァルキリーを神聖な存在として崇めている土地もいくつかある。きっとここもそのひとつなのだろう。
 ただ気になるのは、この女神にやけに既視感があると言うことだ。着ている服は、ティアが舞を踊った時の格好そのままなのだが、長い髪に虚ろな目。これはまるで、出会った時のレティ…ジークルーネそのままだ。

「どう思う?」
「どうって…レティ、だよな?」

 率直に答えると、「やっぱりね」とティアが呟いた。

「まさか、これを見せるために俺を連れてきたのか?」
「いいえ、これからすることがあるのよ。入り口を閉めてもらっていいかしら」

 言われるがままに扉を閉じると、密閉された空間が出来上がった。空気の流れをほとんど感じず、息をするだけで苦しくなってくる。こんなところに長時間いたら倒れてしまう。
 ティアに声をかけようとすると、なんと、再び服を脱ぎだしたのだ。現れたのは、さっき見たばかりの露出の多い民族衣装。全身汗だくで、孔雀色の布なんて体に張り付いていたと言うのに、傍目には汚れ一つないように見えた。

「それじゃあ始めるわね、踊り子の舞を」

 その言葉を合図に、ティアの足元と女神像の下に魔法陣が展開される。ジョブ、踊り子のスキルは強力なバフをつける事ができる。多分、この女神像にはなんらかの力があって、ティアは強化しようとしているのだろう。
 ティアは右にステップを踏むと、女神像の回りを踊りだす。まだたった数歩ステップを踏んだだけなのに、すでに全身汗だくだ。きっと、さっきのダメージがまだ残っているのだろう。
 変化はそれだけじゃなかった。この狭い空間は、一瞬にして魔力で満たされていく。細かい粒子状の光が飛び交い、視界のほとんどを覆う。同時に、体が温かくなり、ほっとするような感覚に包まれた。
 光は女神像に吸い込まれていき、やがて視界が戻ってくる頃には、ティアは背中を壁に預けるようにしてその場に倒れた。

「大丈夫かっ!?」

 ダンジョンで舞った時にもかなり疲労していた。それが今日だけで二度目、それも一度目とは比較にならないほどの密度で、魔力も体力の消費も激しいはずだ。

「回復魔法は…だめなんだったか」
「ええ、ちょっと休むわね…そうだ、それまでお話をしましょう」

 寝たほうがいいんじゃないかとも思ったが、ティアが話をしたいというのならその方がいいのだろう。話しているうちに寝てしまうかもしれないしな。

「この村に来てから、女の子しかいなくて驚かなかった?」
「そうだな」

 女の子と呼ぶには、いささか歳が行き過ぎている人もたくさんいるが、女性しかいないことには驚いた。まるで男子禁制の女子寮…いや、女子校だ。

「ふふふ、今失礼なことを考えたでしょ?それは置いといて、ここにいるのはみんな、男の人にひどい目に合わされた子ばかりなの」

 俺に向けられた嫌悪感の正体が分かった。いや待てよ、ということはティアもそういう経験をしたのか?

「私?そうね、嫌なことはあったわね。踊り子なんてやっていたら仕方ないわ。私はジョブで与えられたから逃げようもなかったのだけどね」

 ティアの口から、悲観的な言葉を聞くのは初めてだった。極端に肌を露出しない格好をしていたのも、男の目を避けるためだったのだろう。

「ふふふ、私ね、男性と話すのが苦手だろ」
「嘘だろ?」

 俺とは普通に話している。ああ、いや、俺が男として見られていないだけなのかもしれないけれど。

「苦手と言っても、変な目で見てくる人がね。ヤマトなんて、私のこと女として見てないでしょ?」
「そんなことはないと思うけど…」
「じゃあ、私を丸裸にしたいと思ったことはある?」
「ないな」

 そんなことをすればヴァルキリー達にボコボコにされる…って、これはいいわけか。
 ティアのことは綺麗だと思っている。と同時に、もう一つ、これはティアだけではないがイレギュラーのメンバー全員に抱いている感情があるからだろう。

「ほらね、やっぱり女として見ていないじゃない」
「そういう意味では、そうなのかもな」
「ち・な・み・に、今の私を見て襲おうと思わないでしょ?」
「は?」

 心配が先に来て考えもしなかった。ここは密室で、布面積の少ない服の女の子と二人っきりだ。
 部屋こそ少々古めだが、踊り場…踊り子のお店で指名をして個室に案内された状況と変わらない。

「今襲われたら、私は抵抗出来ないわよ?」
「俺にはそんな趣味はないよ」
「健全なのね」
「いいや、そうじゃない。俺は怖いんだ」

 見つめる先にあるのは、ブリュンヒルデの女神像だ。

「レティにそんなところ見つかったら、村どころか、世界が滅びちまうよ」
「ふふふ、そうかもね…」

 そう言って笑うティアの呼吸はさっきよりも整っていた。
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