35 / 56
第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~
最終ジャッジが下されます
しおりを挟む
「ということなんだが、どうだろうマユミさん」
確認をするのはミサの役目だった。そうだ、まだ一人、重要人物がオッケーしていない。ここからの大どんでん返しが起こってもおかしくない。
マユミさんは立ち上がると、俺の前に立った。白と黒の2個の目にくらえて、額にある最後の目も開かれた。ビューンと、室内にも関わらず、突風が吹いた。いや、それは気のせいだ。一斉に解き放たれた膨大な魔力をまともに受け、強烈な風を受けたと錯覚しただけだ。
通り過ぎていった魔法は、俺を囲むように戻ってきて、全身を包み込む。決して嫌な感じはしない。むしろ、温かい。
「ようこそヤマト。光に帰れない世界へ」
そうだ、俺が選んだのは裏の世界。表舞台に出られない者の集まる場所だ。
「とてつもなく不吉な歓迎の文句ですね」
「あら、嫌だった?」
後悔はない。むしろ、心が弾んでいる。
「いえ。むしろ…そっちの方がワクワクしますね」
冒険者ギルドに所属し、クエストを受け、最後は魔物を倒して勇者になる。そんな物語も面白いと思う。ヴァルキリー達がいる限り、俺にはその力がある。
だけどもし、俺と同じように味方に騙され、苦しんだ冒険者がいたとして、魔王討伐に精を出し始めた俺が見つけられるだろうか?きっとノーだ。ハヤテ達のように、大事なことを忘れたくはない。
「ふふふ、貴方は元よりこちら側だったようね」
マユミさんは近づいてくると、抱きしめてくれる。魔法とは違う、実体のある温かみだで、すべてを受け入れ、やさしく諭しくくれるようだ。
目を閉じると思い出す。俺の毎日を楽しくし彩ってくれる顔を。俺の想像をかき消すように激しい音がして、脳裏に浮かんだ顔がなだれ込んできた。
「何してるんだよ…」
執務室のドアが急に開き、ヴァルキリーたちは倒れるようにして重なった。その数7。俺の契約しているヴァルキリー全員だ。
「ちーっす、ヤマトっち」
真っ先にカリンと目が合い、気まずそうにしながらも、ウインクとピースを埋めてくる。その体は、他のヴァルキリーたちの体に埋まっている。
「重いぞ。どいてくれないか」
一番の下敷きになったユミネは、いつものように落ち着いた口調ながらも、不快そうに上を向いた。というか、一番したってことは一番前で聞き耳を立てていたってことだよな?
目が合うと、俺の思っていることに気がついたのか、珍しく顔を赤くしながら、そっぽを向いてしまった。
「重いのには同感だ。腑抜けて太ったのではないよな?」
メルロは腕をつき、立ち上がろうとするが、上手くバランスを取れずに倒れてしまう。その度に、下にいるユミネとカリンは「やめろ」「きゃっ」などと、それぞれの抵抗を示す。
「ちょっと、太ったかなんて失礼じゃない!?確かにここに来てから食べる量は増えたけど…って、きゃあ、ちょっとガラナ、どこ触ってんのよ!」
「ノー。身動きが取れません」
仲がいいのは嬉しいことだが、なんとも目に毒な光景だ。鎧を纏ったメルロの腕がアンナの服に潜り込み、膨らみになって服の下を弄っている。位置的には脇腹あたりなんだろうけど、顔を真赤にして、今にでも火を吹きそうだ…って、比喩じゃな済まない。まじで火事になる可能性がある。
そんな騒がしいヴァルキリーの山の頂上では、セイラが「すー、すー」といつものように寝息を立てて眠っている。うつ伏せで上手くバランスを取っていて、下がいくら揺れても落ちる様子はない。
その隣にはもうひとり、足を組み、顎の下に手の甲をつけて高笑いをするヴァルキリーがいた。
「いい機会ね。私が一番だと刻み込んであげましょう」
レティは下を向くと、暴れる妹達を見下ろした。
「レティ姉早くどくし!」
「そうだ、上がどかなければ動きが取れない」
「そうだ、重いんだからな」
「きゃ、あはははは…ちょっと、どこ触ってんの…って、きゃあっ!?そこはだめよ!」
「ノー、助けてください」
下から聞こえる苦情に、レティは眉をぴくぴくと動かした。
「わたくしは太ってなんかいませんことよ!」
声を上げると、土台にしていたラガナの背中を叩いた。振動は一気に下稀伝わり、保たれていたバランスは崩れ、ヴァルキリー達は床を転がっていく。ガチャやらドンやらぶつかる音がして、急に音は静かになった。仰向けに、うつ向けに、それぞれの体勢で、7人のヴァルキリーによる雑魚寝の風景が完成した。修学旅行で旅館に泊まっているみたいな光景に、微笑ましささえ感じた。
やがて、寝そべっている体が一斉に震え、建物が揺れ、外では雨が振りはじめ、雷と火まで加わった。おまけに冬みたいに一気に気温が下がった。これはもう、異常気象ってレベルじゃない。
「お、おちつけ…」
「ぷ、あははははははは」
怒りで暴れるものかと思って止めようとしたら、今度は一斉に笑い出した。もうなにがなんだかわからん。
異常気象もいつの間にか止んでて、窓からは日が差し込み、空には虹がかかっていた。
「これは退屈しなさそうね」
マユミさんは笑みを浮かべると、俺に向かって手を伸ばした。イレギュラーの四人も、それに習うかのように手を伸ばす。そして一斉に口を開いた。
「ようこそ、イレギュラーへ!」
確認をするのはミサの役目だった。そうだ、まだ一人、重要人物がオッケーしていない。ここからの大どんでん返しが起こってもおかしくない。
マユミさんは立ち上がると、俺の前に立った。白と黒の2個の目にくらえて、額にある最後の目も開かれた。ビューンと、室内にも関わらず、突風が吹いた。いや、それは気のせいだ。一斉に解き放たれた膨大な魔力をまともに受け、強烈な風を受けたと錯覚しただけだ。
通り過ぎていった魔法は、俺を囲むように戻ってきて、全身を包み込む。決して嫌な感じはしない。むしろ、温かい。
「ようこそヤマト。光に帰れない世界へ」
そうだ、俺が選んだのは裏の世界。表舞台に出られない者の集まる場所だ。
「とてつもなく不吉な歓迎の文句ですね」
「あら、嫌だった?」
後悔はない。むしろ、心が弾んでいる。
「いえ。むしろ…そっちの方がワクワクしますね」
冒険者ギルドに所属し、クエストを受け、最後は魔物を倒して勇者になる。そんな物語も面白いと思う。ヴァルキリー達がいる限り、俺にはその力がある。
だけどもし、俺と同じように味方に騙され、苦しんだ冒険者がいたとして、魔王討伐に精を出し始めた俺が見つけられるだろうか?きっとノーだ。ハヤテ達のように、大事なことを忘れたくはない。
「ふふふ、貴方は元よりこちら側だったようね」
マユミさんは近づいてくると、抱きしめてくれる。魔法とは違う、実体のある温かみだで、すべてを受け入れ、やさしく諭しくくれるようだ。
目を閉じると思い出す。俺の毎日を楽しくし彩ってくれる顔を。俺の想像をかき消すように激しい音がして、脳裏に浮かんだ顔がなだれ込んできた。
「何してるんだよ…」
執務室のドアが急に開き、ヴァルキリーたちは倒れるようにして重なった。その数7。俺の契約しているヴァルキリー全員だ。
「ちーっす、ヤマトっち」
真っ先にカリンと目が合い、気まずそうにしながらも、ウインクとピースを埋めてくる。その体は、他のヴァルキリーたちの体に埋まっている。
「重いぞ。どいてくれないか」
一番の下敷きになったユミネは、いつものように落ち着いた口調ながらも、不快そうに上を向いた。というか、一番したってことは一番前で聞き耳を立てていたってことだよな?
目が合うと、俺の思っていることに気がついたのか、珍しく顔を赤くしながら、そっぽを向いてしまった。
「重いのには同感だ。腑抜けて太ったのではないよな?」
メルロは腕をつき、立ち上がろうとするが、上手くバランスを取れずに倒れてしまう。その度に、下にいるユミネとカリンは「やめろ」「きゃっ」などと、それぞれの抵抗を示す。
「ちょっと、太ったかなんて失礼じゃない!?確かにここに来てから食べる量は増えたけど…って、きゃあ、ちょっとガラナ、どこ触ってんのよ!」
「ノー。身動きが取れません」
仲がいいのは嬉しいことだが、なんとも目に毒な光景だ。鎧を纏ったメルロの腕がアンナの服に潜り込み、膨らみになって服の下を弄っている。位置的には脇腹あたりなんだろうけど、顔を真赤にして、今にでも火を吹きそうだ…って、比喩じゃな済まない。まじで火事になる可能性がある。
そんな騒がしいヴァルキリーの山の頂上では、セイラが「すー、すー」といつものように寝息を立てて眠っている。うつ伏せで上手くバランスを取っていて、下がいくら揺れても落ちる様子はない。
その隣にはもうひとり、足を組み、顎の下に手の甲をつけて高笑いをするヴァルキリーがいた。
「いい機会ね。私が一番だと刻み込んであげましょう」
レティは下を向くと、暴れる妹達を見下ろした。
「レティ姉早くどくし!」
「そうだ、上がどかなければ動きが取れない」
「そうだ、重いんだからな」
「きゃ、あはははは…ちょっと、どこ触ってんの…って、きゃあっ!?そこはだめよ!」
「ノー、助けてください」
下から聞こえる苦情に、レティは眉をぴくぴくと動かした。
「わたくしは太ってなんかいませんことよ!」
声を上げると、土台にしていたラガナの背中を叩いた。振動は一気に下稀伝わり、保たれていたバランスは崩れ、ヴァルキリー達は床を転がっていく。ガチャやらドンやらぶつかる音がして、急に音は静かになった。仰向けに、うつ向けに、それぞれの体勢で、7人のヴァルキリーによる雑魚寝の風景が完成した。修学旅行で旅館に泊まっているみたいな光景に、微笑ましささえ感じた。
やがて、寝そべっている体が一斉に震え、建物が揺れ、外では雨が振りはじめ、雷と火まで加わった。おまけに冬みたいに一気に気温が下がった。これはもう、異常気象ってレベルじゃない。
「お、おちつけ…」
「ぷ、あははははははは」
怒りで暴れるものかと思って止めようとしたら、今度は一斉に笑い出した。もうなにがなんだかわからん。
異常気象もいつの間にか止んでて、窓からは日が差し込み、空には虹がかかっていた。
「これは退屈しなさそうね」
マユミさんは笑みを浮かべると、俺に向かって手を伸ばした。イレギュラーの四人も、それに習うかのように手を伸ばす。そして一斉に口を開いた。
「ようこそ、イレギュラーへ!」
1
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる