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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~
後日談
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イレギュラーに残ると決めてから数日後、俺は冒険者ギルドを訪れていた。クエストを受けるためではない。ある人物と会う約束をしていたのだ。
俺が行ったときには、彼は既にいて、一番奥のテーブルに座っていた。向かうがてらクエストカウンターを見ると、サナエさんが立派に受付をこなしていた。
「待たせたな、エミール」
声をかけると、立ち上がり、頭を下げてくる。俺が冒険者ギルドに戻らないことは既に伝えてある。その上で、一度話をしたいと言われたのだ。
「来ていただきありがとうございます、ヤマト様」
「様はやめてくれ。それで話ってのはなんだ?」
「はい。実は俺がリーダーでクランを作ることになりました」
「そいつはおめでとう」
エミールがリーダーにぴったりだ。実力も人望も十分ある。
何よりもレッドラグーンの一件を間近で見ている。間違えたりはしないだろう。
「ありがとうございます。それでクランの名前がまだ決まっていないのです」
「悩み出すととことん決まらないよな」
レッドラグーンがどう決まったかと言うと、直前のクエストで赤い竜を倒したからだ。それはギルドの定期クエストだったが、報告の時にクラン設立を勧められてそのまま作ったのだ。
「はい。それで是非ともヤマト様に決めていただきたいのです」
「え、なんで俺が?」
有名人や権力者ならいざ知らず、俺は一般人だ。
「俺たちがヤマト様に憧れているからです」
「え?」
まじで意味がわからん。手助けをしたことがあるから多少感謝されるのはわかるが、憧れるほどに立派な立ち振舞をした覚えはない。
「ある者は言いました。こっそりとクエストの討伐モンスターを倒して負担を減らしてくれていると」
身に覚えは…うん、あるな。というかバレてたのか。
「ある者は言いました。悩んでいた時にアドバイスを貰い、迷いが吹っ切れたと」
前に聞いたことがある。エミールのことだな。
「ある者は言いました」
「いや、うん、もういいや」
内容は分からないが、延々と俺が褒められることは分かった。なんだかむず痒い。
「名前、ねえ…」
すぐに浮かぶものじゃない。だけどどうせ付けるならいい名前にしたい。
華々しく門出を飾れるようなそんな名前は…。
ふと浮かんだのは日本の景色だ。
3月から4月の別れと出会いで移ろう季節。寄り添うように咲き誇る桃色の花。
「サクラ…」
俺がその名前を口にすると、エミールは首を傾げた。
「はて、サクラとはなんでしょう?」
「花の名前だ。俺が住んでいた地では、始まりの季節に満開に咲いてお祝いをしてくれるんだ」
「それは素敵な名前ですね。出来たらその、我々自身がその祝福する存在になれるような呼び名にはならないでしょうか?」
サクラは祝福する時、咲き誇る。風に吹かれて散る花びらもまた美しい。
「だったらサクラフブキなんてどうだろう。花びらが散って、祝福するように見える光景のことだ」
「それはいいですね。素敵なお名前をありがとうございます」
エミールは満足したようで、おもむろにクラン申請書を取り出すと、あろうことかこの場で名前を記入した。
サクラフブキ。一語一句間違いなく、そう書かれていた。
「ヤマト様、もし冒険者ギルドに戻るようでしたら我々のクランのことも一考ください。いつでも歓迎します」
「ありがとう」
握手を終えると、エミールはその足でカウンターへと向かっていった。
そこで待っていたのは、笑顔のマユミさんだった。
俺が行ったときには、彼は既にいて、一番奥のテーブルに座っていた。向かうがてらクエストカウンターを見ると、サナエさんが立派に受付をこなしていた。
「待たせたな、エミール」
声をかけると、立ち上がり、頭を下げてくる。俺が冒険者ギルドに戻らないことは既に伝えてある。その上で、一度話をしたいと言われたのだ。
「来ていただきありがとうございます、ヤマト様」
「様はやめてくれ。それで話ってのはなんだ?」
「はい。実は俺がリーダーでクランを作ることになりました」
「そいつはおめでとう」
エミールがリーダーにぴったりだ。実力も人望も十分ある。
何よりもレッドラグーンの一件を間近で見ている。間違えたりはしないだろう。
「ありがとうございます。それでクランの名前がまだ決まっていないのです」
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レッドラグーンがどう決まったかと言うと、直前のクエストで赤い竜を倒したからだ。それはギルドの定期クエストだったが、報告の時にクラン設立を勧められてそのまま作ったのだ。
「はい。それで是非ともヤマト様に決めていただきたいのです」
「え、なんで俺が?」
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「俺たちがヤマト様に憧れているからです」
「え?」
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「ある者は言いました。こっそりとクエストの討伐モンスターを倒して負担を減らしてくれていると」
身に覚えは…うん、あるな。というかバレてたのか。
「ある者は言いました。悩んでいた時にアドバイスを貰い、迷いが吹っ切れたと」
前に聞いたことがある。エミールのことだな。
「ある者は言いました」
「いや、うん、もういいや」
内容は分からないが、延々と俺が褒められることは分かった。なんだかむず痒い。
「名前、ねえ…」
すぐに浮かぶものじゃない。だけどどうせ付けるならいい名前にしたい。
華々しく門出を飾れるようなそんな名前は…。
ふと浮かんだのは日本の景色だ。
3月から4月の別れと出会いで移ろう季節。寄り添うように咲き誇る桃色の花。
「サクラ…」
俺がその名前を口にすると、エミールは首を傾げた。
「はて、サクラとはなんでしょう?」
「花の名前だ。俺が住んでいた地では、始まりの季節に満開に咲いてお祝いをしてくれるんだ」
「それは素敵な名前ですね。出来たらその、我々自身がその祝福する存在になれるような呼び名にはならないでしょうか?」
サクラは祝福する時、咲き誇る。風に吹かれて散る花びらもまた美しい。
「だったらサクラフブキなんてどうだろう。花びらが散って、祝福するように見える光景のことだ」
「それはいいですね。素敵なお名前をありがとうございます」
エミールは満足したようで、おもむろにクラン申請書を取り出すと、あろうことかこの場で名前を記入した。
サクラフブキ。一語一句間違いなく、そう書かれていた。
「ヤマト様、もし冒険者ギルドに戻るようでしたら我々のクランのことも一考ください。いつでも歓迎します」
「ありがとう」
握手を終えると、エミールはその足でカウンターへと向かっていった。
そこで待っていたのは、笑顔のマユミさんだった。
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