契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

ヴァルキリーは罠を仕掛けていたようです

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「まったく、シグルズとの逢瀬を邪魔するなんて無粋な真似をするのね、ジークルーネ」

 レティがため息交じりに言うと、セイラはむっとした顔を浮かべた。幼い顔立ちの彼女がそうすると、駄々をこねているようにも見える。
 だが、温度感はそんな可愛らしものではなく、ここにいるだけで足がすくみそうな圧力さえあった。

「…独り占めはだめ」
「あら、バレてたのね」

 レティは片手で髪を払うと、面倒くさそうに足元を見た。悪びれもしない姿に、セイラの顔は更に険しくなった。
 
「…これ以上続けるなら武力行使をする」
「全く…分かったわよ。わたくしも出来れば貴方とは事を構えたくはないですし」
「…約束」
「約束しますわ。少なくともここでは」
「…分かった」

 セイラは頷くと歩き出し、俺の横を素通りしようとした。事態を飲み込めず、慌ててその肩に手を触れた。

「待てよ、セイラ。何の話だったんだ?」
「…ヤマトを独り占めしようとしてた」
「どういうことだ?」
「…言霊」

 加護によって冒険者は力を得る。それは同時に縛りを課されることにもなる。
 火属性魔法の加護であれば、火の魔法を使った時にしか発動しないし、剣の加護であれば剣を持ったときにしか発動しない。当たり前と思うかもしれないが、それは重要な、ヴァルキリーとの契約でもあるのだ。
 
「レティ、お前…」
「わたくしのためにここまで来てくださったのですよ?これはもう他には誰もいなくていいっことでなくっては?」

 レティは悪びれもせず、笑ったままの唇に五本の指を当てた。

「…違う」

 セイラは再び立ち止まり、振り返った。

「おっと、約束は守りますわよ」

 何もしませんよとばかりに、レティは両手を上げると、わざとらしくニヤッと笑った。
 二人の間には見えない火花が散り、空気が凍るようなピリピリとした痛みが肌に突き刺さる。このままでは俺の心が凍りついてしまいそうな気がする。

「と、とりあえずここから出ないか?」

 あからさまかとも思ったが、レティはあっさりと頷いた。

「それは明暗ね。確かにここでなら心の奥までつながることは出来ても、体でつながることは出来ないものね」

 あれ?もしかして俺は間違った選択をしようとしている?
 心の不安から逃げ出しても体に危険があっては意味がない。
 
「…ロスヴァイセが守ってくれる」
「ああ、そうか」

 外ではロスヴァイセメルロが俺の護衛をしながらずっと待っている。あまり心配させるものよくないな。それに彼女なら俺を守ってくれるはずだ。

「頼むよ」
「あら、そんなに私に触れたいのね」

 レティは舌なめずりをした。本心青化、ただセイラを挑発したいだけなのかわからない。
 当の挑発相手は、もう相手をするのも面倒になったようで短い言葉を紡ぐ。

「…崩壊」

 ぴちゃんと音がして、水面が弾けた。真っ暗だった世界にはヒビが入り、砕けていく。

「戻ったか」

 さっきまでセイラがいたはずの場所には、メルロが立っていた。彼女の反応からするに、何事もなく帰ってこられたようだ。

「ああ、たすかった…よ?」

 背中から抱きつかれて、思わず声が上ずった。
 抱きついてきた腕は絡まり着くように俺の胸や腹に触れ、確かめるように一本一本の指先で弄ってくる。くすぐったいを通り越して、妙な感覚に襲われる。

「あのー、レティ?」
「なにかしらシグルズ」

 そうするのが当然かのように、平然と答えた。助けを求めてメルロに目を向けると、ため息が返ってきた。

「あら、どうして別の女がこの場にいるのかしら?」

 優しくまさぐっていた指には力が入り、爪を突き立てられる。
 痛い痛い。きっと内出血してるぞこれ。

「そういえば要件がまだだったな。レティ一緒にここから出よう」
「愛の逃避行かしら。シグルズったら大胆なのね」

 体の拘束が解け、レティは一回転しながら綺麗な黒い髪を揺らし、俺の前に立った。真っ黒なドレスを身に纏い、愛しいものを見つめるような優しい目を向け、頬を赤く染める。そして最後に、舌なめずりをした。

「とりあえずはそれでいいや。レティ、この氷を溶かしてくれないか」

 おかしな契約をさせられないよう、魔術に注意したが大丈夫そうだ。何かあればメルロも教えてくれるはずだ。

「あら、私とシグルズの仲を引き裂こうとしたゴミどもだけれど、許していいの?」

 氷の中に幽閉されているのはレッドラグーンのメンバーだ。ハヤテ、タケヤ、マヤには直々に罰を与えている。さっきの影はタダの映し身ではなく、心のなかを体現している。影がダメージを負えば、少なからず本物にも被害が出る。

「体をぶった斬ったんだ、流石に反省するだろ」
「そう、まあいいわ。氷よ消えなさい」

 足元の氷は粒子となり、青い光が宙を舞う。その光景は幻想的で、氷の妖精が踊っているようだった。
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