契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

冒険者ギルドの使者が来ました

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「大丈夫ですか!!」

 叫び声はハヤテに向けられた。
 ひれ伏すハヤテ達に一人無傷な俺。ついでに俺はクランから追放され、ギルドに指名手配されていると来ている。どう見ても俺の方が悪者だなこりゃ。

「この反逆者め!」

 一人が襲い掛かってきた。遅い。これなら受け止めることだって容易だ。あえて反応を見せずにいると、間に一人が割り入ってきて、そいつを吹き飛ばした。

「ご無事ですか、ヤマト様!」
「エミールか。どうしてこんなことを」

 彼は第二支社所属の聖騎士だ。クランの加護ではなく、自力ででヴァルキリーの加護を手に入れた正真正銘の実力者だ。セイラも彼のことは認めてくれていて、加護を与えられている。

「エミール。貴様っ、拾ってやった恩を忘れたか!」

 怒り狂ったのはハヤテだった。道端で倒れていたエミールのクラン加入を許諾したのはハヤテだ。
 だが最初にこうも言っている。そんな負け犬放っておけと。俺がその場から動こうとしないのが鬱陶しくなって、最終的に許容しただけだ。

「そんなものは初めから存在しない。俺が感謝するのはヤマト様だけだ!」

 エミールの名は、レッドラグーンでも広く知れ渡っている。その彼がリーダーに異見したのだ。
 言われるがまま俺が悪いと思っていた連中の間には動揺が走り、保たれていた統率は一瞬で乱れた。

「エミール!反逆した罪は重いぞ」
「あっそ」

 地面に言葉を吐きすてると、エミールはハヤテに剣を向けた。聖騎士が剣聖に勝てるはずはない。普通ならそのはずだ。
 エミールは一瞬で距離を詰めると、その剣先がハヤテの首筋に突きつけられた。
  
「どうした、その程度なら彼や彼や彼の方がよっぽど強いぞ」

 近くにいる冒険者を順番に指差していく。

「ほざけ!おいお前とお前、それからお前。その反逆者を取り押さえろ!」

 エミールの指差したのと同じ冒険者をハヤテは指名する。そういえば彼らには見覚えがある。エミールの同期で過去にクエストを助けたことがある。

「おい早くしろ!」

 ハヤテの命令を聞きたくないのは嫌というほど伝わってきた。それでも最大規模のクランから抜けるほどの気概はないようだ。渋々ながらも俺との距離を詰めてくる。

「ちょっと待って」

 女性の声が響き、人の波が割れて道が開ける。その中を通ってやってきたのはマユミさんだった。

「ギルドの受付がなぜこんなところにいる。そうだちょうどいい、その反逆者どもを即刻ギルドから追放してくれ!」

 ハヤテの必死の叫びに緊張感が生まれる。
 マユミさんはいつものように目を閉じたまま微笑むと、子供でもあやすように優しく言った。

「それは出来ません」
「なに?まさか貴様も反逆者なのか!?」

 まくしたてるように言われてもマユミさんは笑みを消さない。その閉じられた目があざ笑っているのを知っているのは、この場では俺だけであろう。

「いいえ、私はギルドからの使いですよ」
「ならば援軍か。早く反逆者を始末しろ!」
「そう焦らなくてもいいではないですか。まずは話を聞いてください」

 マユミさんはギルドのマークの入った封書を取り出すと、中身を広げた。

「読み上げるわね。クランレッドラグーンには多数の不正が見つかりました。よって活動停止とし、ハヤテ、タケヤ、マヤの三名には厳重処分を下すこととします。速やかに冒険者ギルドに出頭すること。以上よ」

 後半に行くにつれて、ハヤテの顔が怒りで歪んでいく。そして読み終えると同時に、掴みかかっていく。

「ふざけるな!悪いのはそこの無能だろ!」

 近くにいた冒険者に体を抑えられながらも、俺に向かって腕を伸ばす。

「罪の一部を伝えます。まずひとつ、クエストへの不正な報告が見受けられました」
「何だと?」
「クエストに失敗した冒険者をクランから追放。クエスト中にクランへの不都合を働いたこととし、クランとしてのクエストの失敗をなかったことにしています。これについては?」
「何を言っているんだ?レッドラグーンの冒険者がクエストに失敗するはずがないだろ」

 当たり前のように言い切った。その言葉に嘘をついているような素振りは見られなかった。

「ヤマト、心たありはあるかしら?」
「それぞれの支社にはクエストに派遣するメンバーを決める人物がいます。示し合わせたんじゃないでしょうか」
「そう。ちなみに中心人物は?」
「ホリですね」

 さっきから姿が見えないが、真っ先に逃げたんだろうか。だとしても、5キロ四方で第一支社は取り囲まれている。誰かしら目撃しているはずだ。

「もういいだろ。俺は関係ない」

 ハヤテは無実が証明されたと思うや、解放を求めてきた。

「駄目です。他にも聞かなければならないことがあります。追放された元クランメンバーからは環境が過酷だったと多数の報告も入っています。それと創設メンバーのひとり、ヤマトの追放も果たして適切だったのでしょうか」

 矢継ぎ早に罪を並べれ、ハヤテは苛立ちを募らせていく。特に俺の名前が出たときには、あからさまに顔色が変わった。

「クエストにも参加せず、ただ支社を飛び回っていたやつなど、追放して何が悪いと言うんだ!」

 暴れながら、近くにいる冒険者を見ていく。目があった冒険者は等しく、バツが悪そうに目をそらす。
 俺の追放に対する是非についてなど、一般のクランメンバーは知らないのだ。

「ほら見ろ。誰も俺の行為を否定しない。俺が正しいんだ!」

 回答拒否の沈黙を言いように受けとると、ハヤテは高笑いを始める。
 だが、この場でたったひとり、中立の立場であるサナエさんだけは許さなかった。

「それを決めるのはギルドです。一緒に来てください」
「黙れクソアマが。俺は悪くないと言っているだろう」

 マユミさんの眉がピクリと動き、額にシワがよった。シワの中心からは僅かに切れ目が入り、ほんの一瞬ではあったが瞳が覗いた。
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