契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

文字の大きさ
上 下
13 / 56
第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

遅くなりましたが加護の試練を執り行います

しおりを挟む
 そんなこんなでやってきたのは町から少し離れた場所にある草原だ。出てくるモンスターはスライムぐらいで、危険はないはずだ。

「それで改めて、なんで戦えなんていい出したし」

 相変わらずそっぽを向いたままではあったが、物腰は柔らかくなっている。もうひと押し、と言ったところだろうか。

「改めて俺はカリンと契約したい」
「別に解除するつもりはないし」
「そ、それでも、もういちどきちんとしておきたい」

 カリンが身近な存在すぎてヴァルキリーだと忘れていた。こんなことはもう二度あってはいけない。
 俺自身への戒めとして、一度戦っておく必要があった。

「そ、そこまで言うなら……分かったし。けど、もしウチが勝ったらどうする?」
「それは……」

 考えてなかった。契約を解除するつもりがないと言ってくれた以上、好きなところに行っていいなんて言えない。そんなことをしたら今度こそブチギレかねない。

「言うことを一つ聞くとかでどうだろうか?」
「まじで!?あ……」

 思いっきり目が合って、カリンは気まずそうに目をそらした。想像以上の反応だ。

「出来る範囲でだけどな。それで、勝敗はどうやって決めるんだ?」
「ウチが満足するまで立っていたらヤマトっちの勝ちだし」

 なんとも曖昧な条件だ。つまり、俺が攻撃をすべて捌き切ればいいのか?

「それじゃあ準備するし」

 その言葉を合図にしたように、カリンの手の中には丸い光が現れる。金色の、カリンの髪の色のように眩しい光は形を変え、一本の剣が姿を現した。

「試練の剣、レーヴァテイン。この剣の前ではどんな魔法も無意味になるし」
「つまり、純粋な剣での戦いになると」
「そうだし」

 そいつは困った。魔法による補助に期待していたのだ。
 なにせ俺は剣なんて握ったことはない。

「やるしかないか」

 ミサからもらった剣の鞘を抜いていく。すると、きれいに反っていて、片側だけが綺麗に磨き上げられた刃が見えてきた。
 これは剣ではない、刀だ。久しぶりに見た…と言っても昔行った刀剣博物で見たぐらいだ。少なくとも、この世界に来てからは見ていない。

「なにそれ、はじめて見るし」

 カリンは興味深々だ。やはり、この世界に刀は存在しないらしい。
 それもそうか。ヴァルキリーが侍の話を好むぐらいだ。

 まて、じゃあミサはなんで刀なんて持っていたんだ?

「早く構えるし」

 そうだった。今は余計なことを考えている場合ではない。カリンを満足させるのが第一優先だ。
 
 俺の前に立ちはだかるのはヴァルキリー、シュヴェルトライテ。剣を構える姿は美しく、一ミリのスキも見られない。
 対する俺は、完全な初心者だ。両手で刀を持ったが、肩や肘に力が入りまくっているのが自分でもわかる。傍から見たらスキだらけに違いない。

「いくし」

 カリンは金色の髪をなびかせながら、ダンスのように軽やかなステップで近づいてくる。剣先が動き、一瞬で見えなくなった。
 次の瞬間、刀は剣で弾かれ、俺は3歩ほど後退した。

「へーやるじゃん」
 
 カリンはなぜか楽しそうだ。今度は右にステップを踏むと、視界から消えた。
 カキン。目よりも早く、耳が情報を伝えてきた。また刀が、剣で弾かれた。

 いや、おかしい。なんで俺の正面にあった刀が右から来た攻撃を食らっているんだ?

 今度は左からカリンの剣が来る。そして俺は、正面から刀で受け止めた。

「なにそれぇ、動きは素人以下なのに全部反応してるぅ、まじうけるー」

 心底この状況を楽しんでいる様だった。まさかこれが、加護の力なのか?
 そういえばクランに来たばかりの奴が話しているのを聞いたことがある。剣なんて握ったことがなかったのに、体が勝手に動いていた、と。

「ヤマトっちー、受けてばっかりじゃつまらないっしょ。攻めてくるし」
「安い挑発だな」

 けどあえて乗ってやる。攻めたい。そう思うだけで、頭に情報が流れてくる。
 刀の使い方、カリンが構えから何をしようとしているのか、どのタイミングで動くのがいいのか。

「いくぞカリン!」
「ヤマトっち来るし!!」

 それから俺たちは、時間が経つのも忘れて刃を交え続けた。体は思ったよりも疲れていて、体を草原に投げ出すと、太陽が沈みかけていることに気が付いた。

「やるじゃんヤマトっち」

 カリンは言いながら。俺の隣に大の字になった。

「あーあ、こんなところを見られたら怒らちゃうし」

 満足した顔を浮かべながら、カレンは目を閉じた。草原の風が俺たちの間を吹き抜け、疲れた体を癒していく。
 いっそこのまま眠ってしまって…って、それじゃあダメだ!

「カリン、行くぞ」

 勢いよく立ち上がると、何事かという顔をしながら、カリンもゆっくりと立ち上がった。俺はすかさず膝裏に手を当てると、そのまま抱き抱えた。

「え?え?なに?」
「フライ」

 状況を理解できずにいるカリンを無視して、俺はそのまま飛び上がった。来たときは綺麗な緑だった草原は、太陽に照らされて赤く染まっていた。

「さっきは悪かったな。今度はゆっくり空の旅をしよう」
「ヤマトっち、まさか昼間のこと気にして…」
「そんなところかな」

 カリンの顔は夕日に照らされて赤く染まる。綺麗だ。前世にいそうな見た目なのに、芸能人やアイドルよりもずっと可愛い。思えば当たり前のことか。だって彼女は、ヴァルキリー……女神なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...