6 / 56
第1章~チュートリアル~
怪しい男に声をかけられました
しおりを挟む
気づけば俺は、最初の町にたどり着いていた。
始めて来た時には新鮮に映った町並みも、今では見慣れたものだ。
「さて、これからどうしようか……」
特に目的もない。というか、今までだって目的があったわけじゃない。
クランのために……違うな、力を貸してくれたヴァルキリーのために頑張っていただけだ。それもついさっき、終わりを告げた。
「おっとすまない」
ふらふらと歩いていると、フードを被った男とぶつかった。明らかに俺が悪いのに、向こうから謝られた。
世の中には、こんないい人もいるんだな……。
「こちらこそすみません」
俺の声は震えていた。くそっ、人前で泣くなんて許されない。
あーでも、もうどうでもいいか……。
立ち去ろうとすると、肩に手が触れた。妙な感触だ。触られているはずなのに、熱を感じない。
「君はまさか、レアジョブの持ち主ではないか?」
「え?」
レアジョブって普通のジョブと違うってことか?
だったら答えはイエスだ。俺は契約師、ギルドには一人しかいない。それを知っているのはマユミさんだけのはずだ。
不審に思って男を見つめる。
スキル、可視化。相手のオーラを見て、感情を読み取ることが出来るのだが……どうなっているんだ?この男からはなんのオーラも感じない。ただなんとなく、全身が黒く、モヤがかかっているようだ。
「話をしないか?」
少し悩んだが、行く宛もない。本当にヤバそうなら逃げることだって十分可能だ。
「分かりました」
俺が頷くと、男は歩き出した。
☆☆
連れてこられたのは薄暗い路地にある古ぼけた屋敷だった。中も見た目通りにボロボロで、あちこちに蜘蛛の巣が張っている。ギシギシと軋む床を、男はためらうことなく進んでいく。
可視化を発動したままにしているが、相変わらず感情は読み取れない。それにこの建物も妙だ。
これは力によるものではなくタダの勘だ。見えているものと、感覚が一致しないのだ。音はいかにもぼろぼろなのに、空気は澄んでいて、埃一つ感じない。薄暗くてわかりにくいが、床はピカピカに磨かれているようだった。
「あの、俺はどこに連れて行かれるのでしょうか?」
「もうすぐ着く」
階段を上がった先に部屋に入ると中は、明るかった。
「いらっしゃーい!!」
パンパンパンと、クラッカーがいくつも弾け、やたら楽しそうな笑顔と、困ったような顔と、無表情が出迎えてくれた。
部屋の奥には高そうな机があって、楽しそうな笑顔の女性が立ち上がった。
「いらっしゃい!!私はミサ。君のことを歓迎するよ!!」
真っ赤な髪を揺らし、白い歯見せ、腕を前で組んで仁王立ちをする。思わず『姉御』とでも呼んでしまいようになるような、頼りがいを感じた。
「もうミサ……びっくりしてるじゃない。ごめんなさい、まったくこの子ったら粗暴で……」
困った顔を浮かべていた女性は、更に眉間にシワをよせると、俺の顔を覗き込んできた。肩の上でウエーブのかかった黄緑色の髪は揺れ、優しそうな目が俺を見つめてくる。
ミサが姉御ならば、この人はお姉さまとでも呼ぶべきだろうか。動きの一つ一つに品がある。
「ティアこそ、そんなに急に近づくから彼が困っているぞ」
「え、嘘っ」と言いながら口に手を当てると、女性は離れていき、話しかけたであろう男が俺を見つめていた。
細身で背は高く、真っ白な髪に、感情のない目。スーツが良く似合っていて、いかにも『執事』と言った感じだ。
「私はユエ。さっき君を覗き込んでいたのがティア」
「よろしくね」
ごめんなさいと手を合わせながら、ティアは控えめに笑った。
「それでユレイル、なぜ彼を連れてきたんだ」
感情のないユエの目が、俺をここまで連れてきたローブの男に向けられた。
「彼はイレギュラーだ」
「そいつは愉快だな。それで、ジョブはなんだい」
ミサは椅子に座りなおすと、机に足を乗せた。
なんなんだこの集団は。可視化のスキルでも誰一人として素性が掴めない。
「駄目よミサ。相手に聞く時はこちらから話さなくては」
「それもそうか……アタイのジョブは武器屋だ」
「ジョブ?職業ではなくて?」
ジョブは与えられた才能のようなものでギルド証によって示される。
一方で職業は仕事の内容だ。なろうと思えば何にでもなれる。
武器屋といえば道具屋や宿屋といった選んで行う仕事に含まれるはずだ。
「いい反応だねえ……けど残念ながら、ジョブで合っている」
「ち・な・みに私は……何だと思う?」
ティアがウインクをしてくる。天然の垂らしだろうか?気を抜くと見とれてしまいそうになる。
夜の店にいたら人気が出るだろうな。そうだな、例えば…。
「踊り子……とか?」
「え?なんでわかったの?」
正解だったらしい。じゃあ俺が落とされそうになっているのも自然なことだな……多分。
「まったくお前たちは…はじめての相手にべらべらと……」
文句を言うユエに向かって、ティアのにこにこした目が向けられていた。正直言って怖い。言うことを聞かないと刺されそうだ。
「まったく……ビーストだ」
やっとまともにそれっぽいのが出てきた。獣に変身出来たりするのだろうか?
「私は影だ」
俺を連れてきた男は、ユラユラとシルエットを揺らしながら答えた。
「影って、もしかして全身が?」
「そうだ」
だから可視化を使っても正体が分からなかったのか。それでも不気味なことに変わりはないが。
「さて、アタイたちの正体を晒したところで、アンタも教えてくれないかい?」
期待と疑惑の目が俺に向けられた。果たして言っていいものだろうか?マユミさんには口止めされている。けどあの人もギルドの人か。もう関わることもないかもしれない。
「俺は……」
「ちょっとまってくれ。どうやら我々のマスターが来るようだ」
部屋の外から足音が近づいてきて、また一人、女性がやってきた。
それはなんと、マユミさんだった。
始めて来た時には新鮮に映った町並みも、今では見慣れたものだ。
「さて、これからどうしようか……」
特に目的もない。というか、今までだって目的があったわけじゃない。
クランのために……違うな、力を貸してくれたヴァルキリーのために頑張っていただけだ。それもついさっき、終わりを告げた。
「おっとすまない」
ふらふらと歩いていると、フードを被った男とぶつかった。明らかに俺が悪いのに、向こうから謝られた。
世の中には、こんないい人もいるんだな……。
「こちらこそすみません」
俺の声は震えていた。くそっ、人前で泣くなんて許されない。
あーでも、もうどうでもいいか……。
立ち去ろうとすると、肩に手が触れた。妙な感触だ。触られているはずなのに、熱を感じない。
「君はまさか、レアジョブの持ち主ではないか?」
「え?」
レアジョブって普通のジョブと違うってことか?
だったら答えはイエスだ。俺は契約師、ギルドには一人しかいない。それを知っているのはマユミさんだけのはずだ。
不審に思って男を見つめる。
スキル、可視化。相手のオーラを見て、感情を読み取ることが出来るのだが……どうなっているんだ?この男からはなんのオーラも感じない。ただなんとなく、全身が黒く、モヤがかかっているようだ。
「話をしないか?」
少し悩んだが、行く宛もない。本当にヤバそうなら逃げることだって十分可能だ。
「分かりました」
俺が頷くと、男は歩き出した。
☆☆
連れてこられたのは薄暗い路地にある古ぼけた屋敷だった。中も見た目通りにボロボロで、あちこちに蜘蛛の巣が張っている。ギシギシと軋む床を、男はためらうことなく進んでいく。
可視化を発動したままにしているが、相変わらず感情は読み取れない。それにこの建物も妙だ。
これは力によるものではなくタダの勘だ。見えているものと、感覚が一致しないのだ。音はいかにもぼろぼろなのに、空気は澄んでいて、埃一つ感じない。薄暗くてわかりにくいが、床はピカピカに磨かれているようだった。
「あの、俺はどこに連れて行かれるのでしょうか?」
「もうすぐ着く」
階段を上がった先に部屋に入ると中は、明るかった。
「いらっしゃーい!!」
パンパンパンと、クラッカーがいくつも弾け、やたら楽しそうな笑顔と、困ったような顔と、無表情が出迎えてくれた。
部屋の奥には高そうな机があって、楽しそうな笑顔の女性が立ち上がった。
「いらっしゃい!!私はミサ。君のことを歓迎するよ!!」
真っ赤な髪を揺らし、白い歯見せ、腕を前で組んで仁王立ちをする。思わず『姉御』とでも呼んでしまいようになるような、頼りがいを感じた。
「もうミサ……びっくりしてるじゃない。ごめんなさい、まったくこの子ったら粗暴で……」
困った顔を浮かべていた女性は、更に眉間にシワをよせると、俺の顔を覗き込んできた。肩の上でウエーブのかかった黄緑色の髪は揺れ、優しそうな目が俺を見つめてくる。
ミサが姉御ならば、この人はお姉さまとでも呼ぶべきだろうか。動きの一つ一つに品がある。
「ティアこそ、そんなに急に近づくから彼が困っているぞ」
「え、嘘っ」と言いながら口に手を当てると、女性は離れていき、話しかけたであろう男が俺を見つめていた。
細身で背は高く、真っ白な髪に、感情のない目。スーツが良く似合っていて、いかにも『執事』と言った感じだ。
「私はユエ。さっき君を覗き込んでいたのがティア」
「よろしくね」
ごめんなさいと手を合わせながら、ティアは控えめに笑った。
「それでユレイル、なぜ彼を連れてきたんだ」
感情のないユエの目が、俺をここまで連れてきたローブの男に向けられた。
「彼はイレギュラーだ」
「そいつは愉快だな。それで、ジョブはなんだい」
ミサは椅子に座りなおすと、机に足を乗せた。
なんなんだこの集団は。可視化のスキルでも誰一人として素性が掴めない。
「駄目よミサ。相手に聞く時はこちらから話さなくては」
「それもそうか……アタイのジョブは武器屋だ」
「ジョブ?職業ではなくて?」
ジョブは与えられた才能のようなものでギルド証によって示される。
一方で職業は仕事の内容だ。なろうと思えば何にでもなれる。
武器屋といえば道具屋や宿屋といった選んで行う仕事に含まれるはずだ。
「いい反応だねえ……けど残念ながら、ジョブで合っている」
「ち・な・みに私は……何だと思う?」
ティアがウインクをしてくる。天然の垂らしだろうか?気を抜くと見とれてしまいそうになる。
夜の店にいたら人気が出るだろうな。そうだな、例えば…。
「踊り子……とか?」
「え?なんでわかったの?」
正解だったらしい。じゃあ俺が落とされそうになっているのも自然なことだな……多分。
「まったくお前たちは…はじめての相手にべらべらと……」
文句を言うユエに向かって、ティアのにこにこした目が向けられていた。正直言って怖い。言うことを聞かないと刺されそうだ。
「まったく……ビーストだ」
やっとまともにそれっぽいのが出てきた。獣に変身出来たりするのだろうか?
「私は影だ」
俺を連れてきた男は、ユラユラとシルエットを揺らしながら答えた。
「影って、もしかして全身が?」
「そうだ」
だから可視化を使っても正体が分からなかったのか。それでも不気味なことに変わりはないが。
「さて、アタイたちの正体を晒したところで、アンタも教えてくれないかい?」
期待と疑惑の目が俺に向けられた。果たして言っていいものだろうか?マユミさんには口止めされている。けどあの人もギルドの人か。もう関わることもないかもしれない。
「俺は……」
「ちょっとまってくれ。どうやら我々のマスターが来るようだ」
部屋の外から足音が近づいてきて、また一人、女性がやってきた。
それはなんと、マユミさんだった。
2
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる