契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第1章~チュートリアル~

クランから追放されました

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 異世界に来てから2年が経った。俺はハヤトたちと旅を続け、クランを立ち上げていた。
 レッドラグーン。今や、知らない者はいないほどの有名クランだ。
 
 ハヤテは戦士から剣聖へとランクアップし、クランのリーダーを努めている。
 タケヤとマヤもそれぞれ聖騎士、黒魔道士として、クラン内の部隊を率いている。
 
 俺か?俺は変わらず契約師だ。7人のヴァルキリーと契約を交わし、剣などのすべて武器の扱いに長け、火、水、風、土、光、闇の6属性魔法と補助魔法を使えるようになった。
 自分で言うのも何だが、どんな冒険者よりも強い。

 さぞクエストに引っ張りだこ、と思われるかもしれないが、俺がクエストに行くことはあまりない。
 それよりもやらなければならないことがあるのだ。

「第5の契約者メルロ、我に飛翔の力を与え給え。フライ!」

 男には似つかわしくない、真っ白な羽根が背中に生えた。
 ヴァルキリーとの契約によって得た特性、白馬の羽根だ。これによって上空を一瞬で移動することが出来るのだ。

「それじゃあ行きますか」

 俺が向かうのはレッドラグーンの別支部だ。全部で7つあり、それぞれにはヴァルキリーが一人ずつ滞在している。俺の仕事は彼女たちのご機嫌取りだ。部屋には特殊な魔法陣を設置し、クランメンバーがその加護を受けられるようになっている。一人一人が直接加護を得ているわけではないので、もしヴァルキリーに出て行かれたら力は失われてしまう。
 支社と支社は離れていて、白馬の羽根を使ってもすべて回るのには三日はかかる。

 空を飛んでいると、10キロメートルほど先にモンスターの群れがいるのを感じた。スキル、千里眼によるものだ。
 そういえば第5部隊は飛行モンスター討伐のクエストを受けていたはずだ。多分前方にいるのは討伐対象だ。その数は少なく見積もっても50。まともに戦ったら全滅するだろう。

「半分ぐらいにしておけばいいか」

 一気に加速すると、通りがけにモンスターを倒しておいた。俺だってレッドラグーンの一員だ。表向きにクエストを受けていなくても、クランメンバーが傷つかないように考えている。
 最も、これは多分誰も気がついていない。俺が勝手にやっていることなのだ。

 やがて、クラン第2支社が見えてきた。ここにいるのは俺が最初に契約したヴァルキリー、セイラだ。
 彼女の通称は眠り姫。出会った時もそうだったが、いつも眠そうにしている。塔の一番上に部屋があり、俺がいつでも出入りできるように壁の一部が切り抜かれている。不用心と思われるかもしれないが、ここには俺しか入れない。地上からの階段は続いておらず、周囲には闇魔法の渦が取り巻いていて、下手に近づこうものなら大けがをする。


 部屋に乗り込むと、セイラは相変わらず眠っていた。お気に入りの青い帳に囲まれたベッドの中で、それはもう気持ちよさそうに。
 床の魔法陣も異常はない。問題なくクランメンバーに加護が送られている。

「……ヤマト?」

 俺に気がつくと、セイラはベッドからもぞもぞと出てきた。水色の長い髪がぼさぼさなのも気にせず、猫みたいに引っ付いてくる。

「おはよう。いつも起こして悪いな」
「……いい、私もヤマトと話したい」

 表情はとても眠そうだが、それでも嬉しさがにじみ出ていた。

「何か変わったことはあったか?」
「……ない」
「食べたいものはあるか?」
「……ない」

 セイラと話すことは毎回変わらなくて、カウンセリングみたいだ。俺にもっとトークスキルがあったら良かったのだが、あいにく経験不足だ。
 それでもセイラは体をくっつけたまま、寝息を立てながら頷いている。もしかしたら、俺の話なんて聞いていないのかもしれない。それでも楽しそうにしてくれているのが、せめてもの救いだった。

 滞在時間は3時間前後が多い。セイラをベッドに寝かせると、出口に足をかけた。

「なにやら騒がしいな」

 外を見ると真っ赤な竜紋の刻まれた馬車が入ってきている。それは、クランの権力者に与えられるもので、ハヤテ、タケヤ、マヤだけが乗ることが許されている。しかも三台ある。三人揃ってこんなところに何をしにきたんだ?
 
俺に気がついているのか、真っ赤な旗が振られていた。その中心には、馬車に刻まれたのと同じ竜紋があった。飛び降りると、やはり三人がいた。

「珍しいな、今日は会議だったか?」

 俺にしては気さくに話しかけると、ハヤテが動いた。急加速で俺の前に立つと、一枚の紙を突きつけてきた。

「気安く話しかけるな」
「な、なにを……」

 クラン追放証明書。
 俺に渡されたのは、俺がクランから追い出されたことを示す証明書だった。ハヤテたちの署名があり、冒険者ギルドの許可印まで入っている。

「クランメンバーに示しがつかないんだよ。クエストもこなさず、ただ遊び回っているだけのやつが俺たちと同じ初期メンバーなんてな」
「全くだ。おまけにヴァルキリーを独占しやがって。一人ぐらい分けてくれてもいいだろ」

 何を言っているんだ?俺が遊び回っている?
 それは違う。いまやクランメンバーは100人越えている。ギルドに所属する冒険者のランクはB~Dまで様々だが、全員が戦力になっている。それはひとえに加護によるものだ。俺は加護を維持するために、毎日ヴァルキリーに話をしに行っているのだ。

 それにクエストだって、移動中に手助けをしている。今頃、飛行モンスター討伐に向かった第5部隊は被害者を出すことなく討伐を終えているはずだ。

「そうね。働かざる者食うべからずって言葉を知らないのかしら」

 嘘、だろ……この世界に来てからずっと、こいつらとは旅をしてきた。俺は仲間だと思って、出来ることをしてきた。クランを立ち上げたいと言われて、ヴァルキリーに頼み込んで力を貸してもらった。
 なのにこんな仕打ちは……。

「俺がいなくなったら、ヴァルキリーの加護がなくなるかもしれないぞ」

 せめてものすがりだった。今ならまだ引き返せる。

「何を言っているんだ?彼女達はクランと契約しているんだ。貴様がいなくなろうと関係なかろう」
「そうね。一度結ばれた契約は絶対。加護が消えるなんて聞いたこともないわ」

 こいつらの言っていることは正しい。ヴァルキリーはきまぐれで加護を与え、力を奪うことはほとんどない。
 理由は単純だ。同じヴァルキリーに2回以上会うことが稀だからだ。ヴァルキリーだってそこまで暇じゃない。よほど機嫌をそこねるようなことをしない限りは、会いに行ってまで力を奪ったりはしないのだ。

「さあ出ていけ!」
「もう顔を見せるんじゃねえぞ!」
「さようなら」

 つい数分前まで仲間だと思っていた奴らは、他人のような顔を見せる。
 こいつら……せっかく力を貸してやったのに……。

「……フライ」

 全力で空を翔ける。途中で第5部隊の奴らとすれ違った。手を振ってきてくれたのだが、反応することができなかった。
 悪いな。今はそんな気分じゃないんだ。
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