契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第1章~チュートリアル~

ヴァルキリーとの初契約です

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「……ヤマト」
「なんだ?」

 声がして振り返ると、そこには誰もいないかった。
 女の子の声だったような。それもまるで、脳に直接訴えるような……。

「……ヤマト」

 まただ。
 呼ばれるがままに進んでいくと、目の前には崖があった。

「おーい、何してるんだー」

 ハヤテが呼んでいるのが分かった。けれど俺の興味は、完全に女の子の声に向いていた。
 崖に向かってに足を踏みだすと、岩にぶつかるどころか、体がのめり込んだ。そのまま前に進むと、そのさきには道があった。

 ハヤテたちも気がついたようで、駆け寄ってきた。

「こんなところに隠し通路があるのか」
「よく気がついたわね」

 そのまま進んでいくと、真っ白な扉があった。
 首を傾げていると、マヤが教えてくれた。

「聞いたことがあるわ。ヴァルキリーは自身の居場所の前の扉を作り、認めた者だけが入れるようにすると」
「どうしたら開くんだ?」
「試練を乗り越えればいいらしいわ」

 試練か。ボスを倒すとかそんなだろうか?
 だとしても、それっぽい敵はどこにもいない。スイッチでもあるのかと思ったが、仕掛けらしいものもない。

「魔法で開いたりはしないのか?」
「やってみるわ。ファイアーボール!」

 杖から炎の弾が放たれ、扉に当たって弾けた。

「駄目みたいね」
「せっかくヴァルキリーの居場所を見つけたんだ。どうせなら加護を受けたいってのに…」

 ヴァルキリーにはどの程度の頻度で出会えるものなのかは分からないが、かけだしにとっては願ってもないチャンスだろう。ここで加護を受けることができれば、多分強くなれる。
 俺としても、ヴァルキリーという存在には興味がある。力を与えてくれた相手であれば、きちんと挨拶しないとな。

「……ヤマト、来て」

 また声がした。さっきよりもだいぶ近い。扉の向こうにいるのだろうか?
 吸い寄せられるように近づくと、腕に魔法陣が浮き上がった。インベントリを開いた時とは違う。扉と同じ白色の光だ。
 腕を扉にかざすと徐々に開いていき、その先の景色が見えてくる。そこにあるのは青いとばりに囲まれたベッドだった。

「どうしてこんなところにベッドが……それに、誰か寝ているのか?」

 疑問に思いつつ、吸い寄せられるように近づいていく。

「勝手に覗いていいのか?」
「マズイわよ。もしヴァルキリーが寝ていたらどうすんのよ」

 小声で相談が始まった。そうだよな、普通に考えたらやばいよな。
 だけど俺には、予感があった。

「開けてみる」
「ちょ、ちょっと待て!」

 止められるのも無視して、帳に触れた。ビリッっと静電気のような痛みが走ったがそれも一瞬で、あっさり中に入ることが出来た。帳を閉じると、外の音はほとんど入ってこない。
 聞こえてくるのは「スースー」という、規則正しい寝息だけだ。
 ベッドに近づいていくと、水色の髪が見えてきた。どうしたものかと悩んでいると、寝返りが打たれ、可愛いらしい顔がこちらを向いた。

 幼い顔立ちながらも細部は整っていて、まるでお人形のようだ。思わず見入っていると、閉じていた目がゆっくりと開かれ、眠そうに目元をこすった。

「ヤマト……?」
「え、うん……そうだけど。もしかして俺を呼んだのは君?」

 少女は立ち上がると、急に抱きついてきた。そしてそのまま寝息を立て始める。

「ちょっと待った。状況が飲み込めないんだけど。君はヴァルキリー?」
「……そう」

 寝言のような返事があった。

「えっと……名前は?」
「……ない」
「ない?」
「……ジークルーネ。それが私の個体名」

 スライムとかゴブリン的なあれだろうか。

「えっと……君が俺に加護をくれているのか?」
「……そう」
「そっか……えーっと、ありがとう」

 少女は俺の顔を見ると、首を傾げた。

「お礼?どうして?」
「どうしてって……力をもらってるんだから当たり前じゃないのか?」

 また首を傾げられた。

「もしかして加護をもらったらそれっきりとか普通なのか?」

 コクリと、今度は頷いた。
 それは不義理にも程があるんじゃないか?まるで道具として思っているようじゃないか。

「そっか……えーっと、名前がないと呼びにくいな。まあいいや、ありがとう」

 これで目的は果たせたな。とっとと脱出を……って動けない。ぴったり体にくっつかれているのだ。
 ヴァルキリーとはこれほどまでに距離が近い存在なのだろうか?

「契約しにきたの……?」
「何のこと……あーそういえば、俺の職業は契約師だったっけ。いまいち何のことか分からなかったけど」
「……おかしな人」

 俺からすれば、この子のほうがよっぽどおかしい。初対面の俺にくっついてきて、挙句の果てにそのまま寝ようとしているのだから。
 こんな可愛い子だ。俺じゃなかったらあれやこれやされていたかもしれないぞ。

「じゃあ、俺はそろそろ戻ろうと思うんだけど……」
「……嫌」
「え、なんで!?」

 急にダダをこねられた。見た目的に違和感はないのだけれど、ヴァルキリーってことは俺よりも歳上なんじゃないか?

「……契約、しよ?」
「契約するとどうなるんだ?」
「……いつでも一緒」

 召喚獣みたいな認識でいいのだろうか?より強い力を使えるぐらいにしか聞いていなかったから予想外だ。
 ヴァルキリーって多分強いな。それが一緒にいてくれるならたしかにありがたい。

「わかった。それで俺はどうしたらいい?」
「名前を、頂戴」
「そんなことでいいのか。そうだな……」

 いざ考えると結構悩むな。
 ゲームで仲間の名前を考えるのは苦手だ。悩みだすときりがない。こうなったら直感だ直感!

「セイラ、とかどうだ?」
「……可愛い」

 名前を言う声は思ったよりも小さくなってしまった。それでも少女はお気に召してくれたようだ。

「気に入ってくれたようでよかったよ」

 コクリと頷くと、またぽつりと言った。

「……屈んで」

 セイラが体から離れたのを確認すると、腰を落とす。どこまでかがめばいいのか分からなくて、とりあえず目線を合わせたその瞬間……視界が肌色に覆われた。考えるまでもない。セイラの顔だった。そして唇には、柔らかい感触が重ねられた。

 これは……キス!?

 自覚したと同時に、地面には魔法陣が現れた。真っ白で、なんだかホッとする感じがする。

「我が名はセイラ……かの者、ヤマトと契約する……」
 
 光が強くなり、俺とセイラの世界は白色に包まれる。魔法陣は小さくなり、やがて同じ模様の魔法陣が俺の右手とセイラの左手に出現した。
 痛みとかはない。ただなんとなく、セイラの呼吸をさっきよりも近く感じた。

「……契約完了」

 ふらつくセイラを慌てて抱きとめた。小さな体は思っていたよりもずっと軽くて、本当に存在しているのか信じられなくなるほどだ。

「終わったのか?」
「……おんぶ」

 背中に回り込んでぴょんぴょんとアピールしてくる。
 契約したんだし一緒にいるのは当然……なのか?
 背中に乗せると、すぐに寝息を立てて寝始めた。本当に可笑しな子だな……ヴァルキリーってみんなこうなのか……?

 帳の外に出ると、ハヤテ達が待っていて、俺の背中の少女に気がつくと駆け寄ってきた。

「その女の子がヴァルキリーなのか?」

 ハヤテが手を伸ばそうとすると、セイラの体から白い光が発せられた。

「いてえ!?」

 ハヤテは手を抑えると、その場で悶だした。

「大丈夫か?」
「あ、ああ……ったく、なにしやがる…」

 天使のような笑みを浮かべる背中を、ハヤテは睨みつけた。
 まるで相手を人と思っていないようだ。

「どうしてヤマトは近づけるんだ?」

 タケヤは盾を構えながら、じっと様子を伺っている。

「よくわからないけど、契約したからか?」
「「「契約!?」」」

 三人の声が重なった。うるさかったのか、セイラが迷惑そうに唸った。また魔法を使われても困るから、赤ん坊にそうするようにあやしてみると、すぐにおとなしくなった。

「そんなに驚くようなことなのか?」
「当然だ。契約するとヴァルキリーの力を使えるようになるんだぞ!?」

 つまり俺は、人でなくなるということか?

「それでヤマト、俺たちは彼女の加護を受けることは出来るのか?」
「どうだろ……起きたときにでも聞いてみるよ」

 こうして俺はヴァルキリーと契約することに成功した。
 
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