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出会い~始まりと終わり~
無茶振り好きな担任教師
しおりを挟む入学翌日から学園生活はハードだ。
登校早々、教師に裏山に連れてこられた。
「ここは訓練施設の一つで、難易度の最も低い場所だ。この奥には祭壇があり、札が置いてある。それを取ったら戻ってこい。帰りは魔法陣があるからそいつに乗ってこい。札を取る前に乗ったらもう一度行かせるから、それだけは気をつけろよ。質問のあるものは」
一方的に説明をされて、入学初日と同じくきょとんとした顔が並んだ。
その中で手を上げたのは、やはりと言うか、ツンツン頭はだった。
「全員で一緒に行くんすか?」
「いや。二人一組で行ってもらう」
ざわつき、皆が視線を巡らせる。
誰と組むのか。
これは死活問題だ。
と言っても、俺に知り合いらしい知り合いはいない。
強いて言うならルームメイトのレイモンドぐらいだ。
「黒沢、私と組まないか?」
同じことを思ったらしく、向こうから話しかけてきた。
もちろん、断る理由なんてどこにもない。
「分かった」
俺たちを見て、他の連中もルームメイトと組み始めた。
教師は満足そうに見つめると、大きく頷いた。
「さて、どの組から行く?」
「私が行きます」
レイモンドがまっさきに名乗り出た。
新入生代表の一番槍に、クラスも連中も当然とばかりに頷いていている。
「分かった。道は3つに分かれている。一組目は右、二組目は真ん中、三組目は左。以下は分かるよな?それじゃあ行って来い」
☆☆
クラスメイトに見送られて早5分。未だにモンスターには出会わない。本当に平和そのものだ。
レイモンドは終始周りを警戒し、いつでも戦えるように腰の剣に手を触れている。
「随分と熱心だな」
「いつ襲われるかわからないからね」
話しながらも、目は上から下、右から左と動き続けている。
「そんなにずっと集中していたら疲れないか?」
「ならば、君も少しぐらい手伝ってはくれないか。見たところ、何も考えず歩いているように見えるが」
「言われてもな…」
あからさまにしていないだけで、ずっと気配を探り続けている。
多分この山にモンスターはいない。
けどちょうどいい。
ちょっと仕掛けてみるか。
「じゃあ少しばかりやってみるよ」
剣を抜くと、進む先に向かって掲げる。
剣は光を帯びて、とか目に見えた変化はない。
あくまでこれはブラフだ。
「剣よ、我らの進む道の闇を照らし給え」
発動したのは探索魔法だ。
目を閉じると、周囲に潜む気配を感じ取れる。
やはり、モンスターは”いなかった”。
「君はそんなことも出来るのかい?それで、何か感じたのか?」
「そうだな…もうすぐ来そうだ」
木々が揺れ、大量のサルが姿を現した。
胸元には鎧をつけ、手にはクナイを持っている。
「忍者サルだとっ!?ここは難易度の低い場所ではなかったのか!?」
忍者サルはBランクモンスターだ。その特徴は武器を扱うことと集団で襲い掛かってくること。群れの規模次第ではAランクにも相当する。
っと、驚いてばかりもいられない。
大量のクナイが俺たちに向かって降ってくる。
「はぁ!」
レイモンドが剣を振るうと、その軌跡には光の弧が生まれ、クナイを弾き落とした。
そのまま反転すると、俺の手を取って走り出す。
このまま戦っても無理だと判断したようだ。
「逃げるぞっ」
だが、歩いて来てた道は既に塞がれていた。
それどころか、右も左も囲まれてしまっている。
「ウキッ」
鳴き声が合図だったのだろう。
全方角から同時にクナイが飛んできた。
「このっ」
レイモンドは自分に迫るすべてを弾き落とした。
主席の力は伊達じゃない。
だが俺は違う。
一般人だ。
「グハッ」
数本を避けるのがやっとで、腕や足に突き刺さり、傷口から血が流れ出す。
痛みのあまり、その場で悶えることしかできない。
「大丈夫かっ!」
俺を心配しながらも、次々と飛んでくるクナイを剣ではたき落としていく。
その何本かは顔をかすめたが、大事には至っていない
「くそっ。剣よ、我が声に答えよ」
レイモンドの体は光に包まれ、姿が消えた。
いや、目に見えない速さで走っているのだ。
彼の通った後には光の線が残り、立っていたモンスターは地面に倒れている。
何とか見えたのは、動きに合わせて揺れるブロンズの太陽だ。
だがその太陽も、まもなく沈む。
「黒沢、大丈夫かっ!?」
忍者サルを倒し終えたレイモンドはかけよってくる。
そして俺に手を伸ばそうとして、動きが止まった。視線は俺から外れ、ゆっくりと右腕を見た。そこには、忍者サルが持っていたクナイが突き刺さっていた。
「ぐはああああああ」
レイモンドは腕を抑え、その場にへたり込んだ。それでも必死に目を凝らし、あたりを見渡す。だが、どこを見ても、倒れた忍者サルしかいない。
「まだどこかにいるのか…?」
刺さっているクナイを抜こうと手を伸ばしたーその時、また一本、手のひらを貫通した。
「うがああああああああああああ」
痛みのあまり、今度は地面に倒れた。
ひれ伏す影に別の影が重なった。
レイモンドは顔を上げ、きれいなエメラルドの瞳には、影が落ちる。
「どうして君が…」
レイモンドを見下ろすのは誰でしょう。
残虐で、だけど楽しそうに笑うのは…そう、俺です。
「恐ろしい力だな。すでにBランク相当と言ったところか」
「何を…」
きれいな顔は痛みで歪み、腕も、手も血まみれだ。
今の俺は、どれだけ悪い顔をしているのだろうか。
想像するだけでも心が弾む。
「見ての通りさ。クエスト対象の討伐」
「クエストだと…?わつぃたちのクエストはお札を持ち帰ることだ」
「そうだな」
レイモンドと実技を受けるとなった段階で、俺は自身にクエストを課した。
メインクエスト:祭壇の札を持ち帰る。
サブクエスト:レイモンドの弱点を探る。ついでに殺してしまっても構わない。
「いやさ、邪魔なんだよね。資質のある魔術師の芽は早めに摘んでおかないと。その方がみんな喜ぶんだよ」
サブクエストの達成を前にして、笑いをこらえることが出来ない。
邪魔が入る前に、さっさと終わらせてしまおう。
右腕を振り上げると、手の中には真っ黒な槍が現れた。
あーあ、刺さったら痛いだろうな。
「その先端…忍者サルが持っていたのと同じものじゃないか…」
「ご明察。じゃあこいつが刺さると、どれだけ痛いかは知っているよな?」
レイモンドは睨みつけてくる。
いよいよ俺を敵と認識したらしい。
けれどもう遅い。
「ルームメイトになったヨシミだ。楽に逝かせてやるよ」
心臓に向かってグサリ。
のはずだったが、ギリギリのところで先端を掴まれた。
「なかなかやるじゃないか」
「君はまさか…闇のギルドの者か…ならば早急に報告を…」
「いいぜ。やれるものならやってみな」
今度は左手を振り上げると、新たな槍を生み出した。
「それはっ、一体どこから!?」
「あーこれか。いくらでも作れるぜ」
そのへんに投げ捨てると、また一本作り出す。
「あとついでに教えてやるよ。長さも、形も変えられるぜ?」
レイモンドの掴んでいる先端は形を無くし、黒い液体となって指の間を抜けていく。そして、胸の前まで到達する。
「ああそうそう、俺の正体だけどさ、影だぜ…ってもう聞こえていないか」
液体は刃となり、心臓を貫いていた。
真っ赤な血が地面に流れ、ぴくりとも動かない。
「流石にこいつを運んでいくのは面倒だな。俺もしばらく寝るとするか」
レイモンドの体を参考に、俺も全身に傷を作った。
もちろん、真似だけどな。
けれど9割9分の人間は気が付かない。
偽造ではなく、実際に傷が出来ているのだから。
「それじゃあおやすみ」
太陽の照らす大地の上で、地面に突っ伏して大の字になった。
俺たちが発見されたのは、それから10分ほど経ってからのことだった。
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