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出会い~始まりと終わり~
魔術学園の入学式
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アトラス魔術学園。
たった60人の、魔法の才を認められた者だけが入学を許される学園だ。
本土から遠く離れた島の真ん中に建てられた学園は、そのほとんどは木々を覆われていて、普段は緑一色だ。
だが、この日ばかりは違った。一面に桜の花が咲き誇り、島全体が桃色に染まる。まるで、新入生たちを祝福するかのように。
島からの祝福に応えるように、新入生の代表は堂々と答辞を終えた。
とまあ盛大に言ってみたが、そんなものを真面目に聞く生徒なんて数えるぐらいしかいなくて、終わると同時に、気持ちばかりの拍手だけが聞こえた。
それでも代表のレイモンド=サーティスは誇らしげに頭を下げると、壇上から降りてきて、俺の隣に座った。
背が高く、すらっとした体の後ろでは金色の髪が揺れ、エメラルド色の瞳はまっすぐ前を見つめる。
王子様みたい。誰かがそんなことを言った。
それに異を唱える者はいないだろう。
なんでもどっかの国から来た留学生らしい。もしかしたら本当に王子様だってこともありえる。
「いい挨拶だったな」
ほっと息をつく王子様に声をかけると、嬉しそうに笑った。
「ありがとう。けれど君とて、真面目に聞いていなかったのだろう?」
「さあな」
おどけて見せると、今度はおかしそうに笑った。
見た目はお高く見えるが、表情は優しく、話しやすい印象だ。
「そういえば入試の時は一緒だったが、名はなんと言ったか?」
「黒沢カケル」
「そうか黒沢。私はレイモンド=サーティスだよろしく」
レイモンドは背筋を伸ばすと、学園長の挨拶に耳を傾ける。
試しに俺も聞いてみたが、「青春を謳歌しろ」とか「君達は国の宝だ」とか、つまらないことばかり言っていた。
☆☆
笹ヶ瀬修一。
教室の黒板にでかでかと書かれたのは教師の名だった。
ジーパンに革ジャンというなんともワイルドな格好に、オールバックに無精髭のおまけ付きだ。いかにも悪そうな顔は、俺達を見るとにやっと笑っている。
「よく来たなクソども、俺が担任だ。三年間しっかり学ぶ準備はできているか?」
緊張からか、はたまはやばそうな教師を前にしたせいか、皆の表情はこわばっている。
その中でたった一人、ツンツン頭の男だけは立ち上がった。
「あったりめえよ!俺は最強の魔術師になるんだ!」
拳を天に向かって振り上げると、そう叫んだ。
その一言を合図に、あちこちから声が上がる。隣の席ではレイモンドも頷いている。
「いいねえ、いいねえ。その元気がどこまで続くか見せてもらおうか!」
「うおおおおおおおお」
今度は一斉に歓声が上がった。
これが体育会系的なノリってやつだろうか?正直苦手だ。
「細けえことは明後日以降に説明する。今日はとっとと寮に帰って、荷物整理なり休むなり好きにしな」
教師がここに現れてからまだ5分未満で、終了の宣言がなされた。
おかげで生徒は置いてきぼりだ。
全員のほうけた顔を見て流石にマズイと思ったのか、担任は頭を掻くとめんどくさそうに言った。
「何か質問はあるか」
ガンをつけるみたいに、順番に生徒の顔を見ていく。
一人、また一人と目をそらす。
今度は坊主頭と目が合った。そいつはひるむことなく、担任に頭を下げると立ち上がった。
「説明は明後日と言いましたが、明日は何をするんですか?」
「あーそれか。実技だ。実際に死を体験してもらう。その方が真面目に授業を受けるようになるだろうからな。他に質問は…なさそうか。それじゃあな」
全員分の顔を見るのは面倒になったのか、今度こそ教師は出て行った。
残された生徒は驚いた顔を浮かべ、不穏な空気だけが残される。
「死を経験って、何をさせられるんだ!?死ぬのか?」
ツンツン頭が叫ぶと、続けて坊主頭も嘆いた。
「入学二日目で死ぬなんて嫌だぞ俺は!」
不満というよりかは、悲鳴に近い。
『死を体験』。そのワードは、新入生たちの心をえぐる。
「みんな、落ち着くんだ」
レイモンドは立ち上がると、教室の前に立った。
誰だ誰だと騒ぎ立てる声がしたが、その正体が新入生代表だと気がつくと、こぞって耳を傾けた。
「ここは学園だ。本当に死ぬような課題を出すはずはない。だが実戦では、いつ死んでもおかしくないはずだ。その心構えをしておけ。少なくとも僕はそう受け取った。君達はどうだろうか?」
静寂の中、皆が顔を見合わせると、大きく頷いた。
「そ、そうだよな。ったくあの教師、もう少し言い方を考えろっての」
「お前こそ騒ぎ過ぎなんだよ」
「そうよそうよ」
「なんだよ、おめらも同じだったじゃねえか!」
レイモンドの言葉で教室には落ち着きが戻った。まったく素晴らしいことだ。
彼の実力は入学試験で見させてもらっている。今すぐに軍に入っても、それなりに活躍できるだろう。
加えてこのカリスマ性。
少なくともこのクラスは、彼を中心として回っていくことだろう。
ほっとしたところで、少しずつ生徒が帰り始めた。
レイモンドは前に立ったまま、笑顔で最後まで見送りを続けた。そして教室に二人しかいなくなたっところで、元の席に戻ってくる。
「君は帰らないのかい?」
「別に急ぎの用事もないからな。それにしても凄いな。全員が一気に立ち直った」
「僕は思ったことを言っただけさ」
その目はとても澄んでいて、迷いなんて感じさせなかった。
「随分と冷静なんだな」
「そんなことはない。死ぬかもしれない、そう思うだけで心臓がバクバク言っているよ。それよりも君だ。君は僕なんかよりもずっと冷静に見える」
「気のせいだよ」
手を振ってあしらうと、まっすぐな目で否定された。
「入学試験のことは覚えているよ。正直私はテンパっていた。まさかAランクモンスターに襲われるなんて。けれど、君の一言に救われた。もし君がいなかったら落ちていたと言っても過言じゃない」
「過言だよ。それにAランクモンスターを倒す力なんて俺にはないさ。倒したのはお前だ」
月を象った、ブロンズ色の紋章を見せてやる。
こいつは魔術師の証で、AからFランクまである階級を示している。
上から順に、ゴールド、シルバー、ブロンズの3色があり、同じ色でも太陽と月で上下に分けられている。
ブロンズの月を持つ俺は、一番下のFランクってことだ。
「まだ実力が反映されていないだけさ。君がなんと言おうと、明日の実技で結果は出る」
レイモンドの胸元では、シルバーの太陽が揺れていた。
Cランク。新入生にはFランクが与えられる決まりがある中で、こいつは特別だ。
「それもは俺も同感だ。せいぜい死人がでないことを祈るよ」
「怖いことを言うね君は」
レイモンドは苦笑いを浮かべると、先に帰っていった。
俺は別に、冗談を言ったつもりはなかったんだけどな。
たった60人の、魔法の才を認められた者だけが入学を許される学園だ。
本土から遠く離れた島の真ん中に建てられた学園は、そのほとんどは木々を覆われていて、普段は緑一色だ。
だが、この日ばかりは違った。一面に桜の花が咲き誇り、島全体が桃色に染まる。まるで、新入生たちを祝福するかのように。
島からの祝福に応えるように、新入生の代表は堂々と答辞を終えた。
とまあ盛大に言ってみたが、そんなものを真面目に聞く生徒なんて数えるぐらいしかいなくて、終わると同時に、気持ちばかりの拍手だけが聞こえた。
それでも代表のレイモンド=サーティスは誇らしげに頭を下げると、壇上から降りてきて、俺の隣に座った。
背が高く、すらっとした体の後ろでは金色の髪が揺れ、エメラルド色の瞳はまっすぐ前を見つめる。
王子様みたい。誰かがそんなことを言った。
それに異を唱える者はいないだろう。
なんでもどっかの国から来た留学生らしい。もしかしたら本当に王子様だってこともありえる。
「いい挨拶だったな」
ほっと息をつく王子様に声をかけると、嬉しそうに笑った。
「ありがとう。けれど君とて、真面目に聞いていなかったのだろう?」
「さあな」
おどけて見せると、今度はおかしそうに笑った。
見た目はお高く見えるが、表情は優しく、話しやすい印象だ。
「そういえば入試の時は一緒だったが、名はなんと言ったか?」
「黒沢カケル」
「そうか黒沢。私はレイモンド=サーティスだよろしく」
レイモンドは背筋を伸ばすと、学園長の挨拶に耳を傾ける。
試しに俺も聞いてみたが、「青春を謳歌しろ」とか「君達は国の宝だ」とか、つまらないことばかり言っていた。
☆☆
笹ヶ瀬修一。
教室の黒板にでかでかと書かれたのは教師の名だった。
ジーパンに革ジャンというなんともワイルドな格好に、オールバックに無精髭のおまけ付きだ。いかにも悪そうな顔は、俺達を見るとにやっと笑っている。
「よく来たなクソども、俺が担任だ。三年間しっかり学ぶ準備はできているか?」
緊張からか、はたまはやばそうな教師を前にしたせいか、皆の表情はこわばっている。
その中でたった一人、ツンツン頭の男だけは立ち上がった。
「あったりめえよ!俺は最強の魔術師になるんだ!」
拳を天に向かって振り上げると、そう叫んだ。
その一言を合図に、あちこちから声が上がる。隣の席ではレイモンドも頷いている。
「いいねえ、いいねえ。その元気がどこまで続くか見せてもらおうか!」
「うおおおおおおおお」
今度は一斉に歓声が上がった。
これが体育会系的なノリってやつだろうか?正直苦手だ。
「細けえことは明後日以降に説明する。今日はとっとと寮に帰って、荷物整理なり休むなり好きにしな」
教師がここに現れてからまだ5分未満で、終了の宣言がなされた。
おかげで生徒は置いてきぼりだ。
全員のほうけた顔を見て流石にマズイと思ったのか、担任は頭を掻くとめんどくさそうに言った。
「何か質問はあるか」
ガンをつけるみたいに、順番に生徒の顔を見ていく。
一人、また一人と目をそらす。
今度は坊主頭と目が合った。そいつはひるむことなく、担任に頭を下げると立ち上がった。
「説明は明後日と言いましたが、明日は何をするんですか?」
「あーそれか。実技だ。実際に死を体験してもらう。その方が真面目に授業を受けるようになるだろうからな。他に質問は…なさそうか。それじゃあな」
全員分の顔を見るのは面倒になったのか、今度こそ教師は出て行った。
残された生徒は驚いた顔を浮かべ、不穏な空気だけが残される。
「死を経験って、何をさせられるんだ!?死ぬのか?」
ツンツン頭が叫ぶと、続けて坊主頭も嘆いた。
「入学二日目で死ぬなんて嫌だぞ俺は!」
不満というよりかは、悲鳴に近い。
『死を体験』。そのワードは、新入生たちの心をえぐる。
「みんな、落ち着くんだ」
レイモンドは立ち上がると、教室の前に立った。
誰だ誰だと騒ぎ立てる声がしたが、その正体が新入生代表だと気がつくと、こぞって耳を傾けた。
「ここは学園だ。本当に死ぬような課題を出すはずはない。だが実戦では、いつ死んでもおかしくないはずだ。その心構えをしておけ。少なくとも僕はそう受け取った。君達はどうだろうか?」
静寂の中、皆が顔を見合わせると、大きく頷いた。
「そ、そうだよな。ったくあの教師、もう少し言い方を考えろっての」
「お前こそ騒ぎ過ぎなんだよ」
「そうよそうよ」
「なんだよ、おめらも同じだったじゃねえか!」
レイモンドの言葉で教室には落ち着きが戻った。まったく素晴らしいことだ。
彼の実力は入学試験で見させてもらっている。今すぐに軍に入っても、それなりに活躍できるだろう。
加えてこのカリスマ性。
少なくともこのクラスは、彼を中心として回っていくことだろう。
ほっとしたところで、少しずつ生徒が帰り始めた。
レイモンドは前に立ったまま、笑顔で最後まで見送りを続けた。そして教室に二人しかいなくなたっところで、元の席に戻ってくる。
「君は帰らないのかい?」
「別に急ぎの用事もないからな。それにしても凄いな。全員が一気に立ち直った」
「僕は思ったことを言っただけさ」
その目はとても澄んでいて、迷いなんて感じさせなかった。
「随分と冷静なんだな」
「そんなことはない。死ぬかもしれない、そう思うだけで心臓がバクバク言っているよ。それよりも君だ。君は僕なんかよりもずっと冷静に見える」
「気のせいだよ」
手を振ってあしらうと、まっすぐな目で否定された。
「入学試験のことは覚えているよ。正直私はテンパっていた。まさかAランクモンスターに襲われるなんて。けれど、君の一言に救われた。もし君がいなかったら落ちていたと言っても過言じゃない」
「過言だよ。それにAランクモンスターを倒す力なんて俺にはないさ。倒したのはお前だ」
月を象った、ブロンズ色の紋章を見せてやる。
こいつは魔術師の証で、AからFランクまである階級を示している。
上から順に、ゴールド、シルバー、ブロンズの3色があり、同じ色でも太陽と月で上下に分けられている。
ブロンズの月を持つ俺は、一番下のFランクってことだ。
「まだ実力が反映されていないだけさ。君がなんと言おうと、明日の実技で結果は出る」
レイモンドの胸元では、シルバーの太陽が揺れていた。
Cランク。新入生にはFランクが与えられる決まりがある中で、こいつは特別だ。
「それもは俺も同感だ。せいぜい死人がでないことを祈るよ」
「怖いことを言うね君は」
レイモンドは苦笑いを浮かべると、先に帰っていった。
俺は別に、冗談を言ったつもりはなかったんだけどな。
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