380 / 415
150.アパートの隣人①(怖さレベル:★★☆)
しおりを挟む
(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
隣人トラブルというのは、現代においても、
よく遭遇するお悩みのひとつだと思います。
一軒家はもちろん、集合住宅となると隣と隣、上と下。
騒音トラブルが大問題になる、なんてこと、往々にしてあることですよね。
おれが大学を卒業し、就職を機にひとり暮らしを始めたときには、
そんなこと、ちっとも頭にありませんでした。
まぁ、うちの親がわりと放任主義で、
独立したら好きに暮らせ、みたいな感じで、
住宅や暮らしに関するアドバイスが何一つなかった、というのも大きいかもしれません。
もちろん、高校、大学と費用を出してもらったんだから、
感謝はしていますけどね。
おれの一番の条件は、
勤める会社にとにかく近い、ということ。
なんせ、出社ギリギリまで寝てたかったもんで、
通勤時間が短いってのが最重要だったんです。
そして二番目はもちろん、賃貸費用が安い、ということ。
収入を考えれば、安けりゃ安い方がいい。
ただ、おれは大の怖がりだったんで、
いっくら安くても、事故物件だけはNGでした。
だから、ネット上でいくつかめぼしい賃貸をチェックした後、
念には念を入れ、事故物件を表示するサイトもしっかり調べました。
実は「瑕疵あり」だった、なんて洒落になりませんからね。
順調に決まった、そのアパートの一室。
築三十年ほどの、ワンフロア五部屋、二階の202号室。
ちゃんと内見もすませ、引っ越しは兄弟に手伝ってもらって、
あっさりと終わりました。
兄に「一応引っ越しの粗品配っといた方がいいよ」と言われ、
おれは洗剤を用意して、上下左右の部屋に、ついでに回ったんです。
上と下、つまり102と302は、どちらも年下の大学生の男子。
となりの201号室は表札もなく、管理人に確認したら空き室とのことでパス。
最後、203号室は表札はあるものの不在。
仕方がないので、後日伺おうと、その日はスルーしました。
でも、おれがひとり暮らしを始めて一週間。
朝、夜、休みの日の昼間とチャイムを鳴らしても、
いっつも不在にしているようなんですよね。
念のため管理人に聞いてみたところ、
203号室は、ひとり暮らしの女性が住んでいるようでした。
おれが男ということで警戒しているのか、
もしくは夜職とかで時間が合わないのか。
このままダラダラ待っていてもしょうがないので、
ドアノブにビニール袋ごと洗剤をひっかけて、
引っ越しの挨拶の手紙を同封しておいたんです。
すると、翌日の朝。
おれが出勤するときに確認すると、洗剤の袋は消えていました。
もしかして、ずっと居留守だったのか?
おれはちょっとだけ不気味に感じたものの、
深く関わることもないだろうし、と、気にしないようにしていました。
そうして、特になにか問題が起きることもなく、
二カ月ほど経過した頃。
おれの隣の201号室に、新しい人が引っ越してきました。
そいつは、おれと同じ新社会人。
なんでも、実家からしばらく通っていたものの、
通勤に時間がかかり過ぎるっていうんで、
ここに引っ越してきたんだ、と話していました。
同年代で男同士。
203号室の謎の女性に比べて気楽で、
おれはホッと一安心したのを覚えています。
ただ、です。
この隣人――新社会人の男が、ちょっと厄介なヤツだったんです。
というのもコイツ、夜、めっちゃ騒ぐんですよ。
会社の同僚なのか、大学時代の友だちを呼んでるのかわかりませんが、
男数人で、ギャーギャーうるさいのなんのって。
毎日ってわけでもないんですが、
休みの前の日となると、深夜帯でも遠慮なしです。
クレームをつけに行こうか、と思ったこともあるんですが、
その……おれは、お恥ずかしいことにビビリでして。
ひとりでとなりの部屋に乗り込む、なんつーこと、とてもできません。
だからその日。夜、騒がしい音が鳴り始めた頃に、
おれは荷物を持って部屋を出ました。
こんなうるさいんじゃ、ロクに眠れない。
せっかくだし、実家にでも帰って過ごそう。そう、思ったんです。
(はぁ……なんで、こっちが気をつかわなきゃいけないんだ……?)
部屋の鍵を閉めつつ、ため息をつきます。
今度、管理人へチクッてやろうか。
そうすれば、少しは収まるか?
そんなことを考えつつ、カバンにカギをしまいこみ、
階段に向かおうとした時でした。
キィ……
となりの、203号室の扉が、開いたんです。
(……え、っ?)
このアパートに入ってから今日まで、
一度も開いたのを見たことがなかったのに。
思いもよらないできごとに、
階段へ向かっていた足が、ピタリと止まります。
廊下についた蛍光灯がほんのわずかに、
203号室の入口を照らして、
ドアノブを握る手だけが、やけに白く見えました。
「あ……ど……どーも……」
素通りするのも気まずくて、
おれはかすれ声で、小さくあいさつだけを言いました。
すると、薄く開いたドアのスキマから、
か細い声が聞こえてきたんです。
「……オマエか……?」
一瞬、男かと思うくらい低い声です。
「え……?」
なにを問われているかわからず、
おれはただ、困惑することしかできません。
「……騒いでいるのは……オマエか……?」
か細い声が再び、ゆっくりと尋ねてきました。
言葉の意味が脳に回って――瞬間、おれはブンブンと首を横に振りました。
「ま、まさか……っ!! あれはとなりの201号室のヤツで……その、おれじゃありません……!」
こっちだって迷惑をこうむっているのに、カン違いされるなんてとんでもない!
もし管理人に、おれがうるさくしているなんて通報されたら、たまったもんじゃありません。
おれがハッキリと否定すると、
うっすらと開いていた扉は、
――バタンッ!!
と激しい音を立てて閉まりました。
「ええ……??」
疑いをかけるだけかけられて、謝罪の言葉もなしです。
(せっかく良いところに引っ越せたと思ってたのに……大外れだったかなぁ……)
おれはいろいろなことに後悔をしつつ、
トボトボと実家に帰ったのでした。
>>
隣人トラブルというのは、現代においても、
よく遭遇するお悩みのひとつだと思います。
一軒家はもちろん、集合住宅となると隣と隣、上と下。
騒音トラブルが大問題になる、なんてこと、往々にしてあることですよね。
おれが大学を卒業し、就職を機にひとり暮らしを始めたときには、
そんなこと、ちっとも頭にありませんでした。
まぁ、うちの親がわりと放任主義で、
独立したら好きに暮らせ、みたいな感じで、
住宅や暮らしに関するアドバイスが何一つなかった、というのも大きいかもしれません。
もちろん、高校、大学と費用を出してもらったんだから、
感謝はしていますけどね。
おれの一番の条件は、
勤める会社にとにかく近い、ということ。
なんせ、出社ギリギリまで寝てたかったもんで、
通勤時間が短いってのが最重要だったんです。
そして二番目はもちろん、賃貸費用が安い、ということ。
収入を考えれば、安けりゃ安い方がいい。
ただ、おれは大の怖がりだったんで、
いっくら安くても、事故物件だけはNGでした。
だから、ネット上でいくつかめぼしい賃貸をチェックした後、
念には念を入れ、事故物件を表示するサイトもしっかり調べました。
実は「瑕疵あり」だった、なんて洒落になりませんからね。
順調に決まった、そのアパートの一室。
築三十年ほどの、ワンフロア五部屋、二階の202号室。
ちゃんと内見もすませ、引っ越しは兄弟に手伝ってもらって、
あっさりと終わりました。
兄に「一応引っ越しの粗品配っといた方がいいよ」と言われ、
おれは洗剤を用意して、上下左右の部屋に、ついでに回ったんです。
上と下、つまり102と302は、どちらも年下の大学生の男子。
となりの201号室は表札もなく、管理人に確認したら空き室とのことでパス。
最後、203号室は表札はあるものの不在。
仕方がないので、後日伺おうと、その日はスルーしました。
でも、おれがひとり暮らしを始めて一週間。
朝、夜、休みの日の昼間とチャイムを鳴らしても、
いっつも不在にしているようなんですよね。
念のため管理人に聞いてみたところ、
203号室は、ひとり暮らしの女性が住んでいるようでした。
おれが男ということで警戒しているのか、
もしくは夜職とかで時間が合わないのか。
このままダラダラ待っていてもしょうがないので、
ドアノブにビニール袋ごと洗剤をひっかけて、
引っ越しの挨拶の手紙を同封しておいたんです。
すると、翌日の朝。
おれが出勤するときに確認すると、洗剤の袋は消えていました。
もしかして、ずっと居留守だったのか?
おれはちょっとだけ不気味に感じたものの、
深く関わることもないだろうし、と、気にしないようにしていました。
そうして、特になにか問題が起きることもなく、
二カ月ほど経過した頃。
おれの隣の201号室に、新しい人が引っ越してきました。
そいつは、おれと同じ新社会人。
なんでも、実家からしばらく通っていたものの、
通勤に時間がかかり過ぎるっていうんで、
ここに引っ越してきたんだ、と話していました。
同年代で男同士。
203号室の謎の女性に比べて気楽で、
おれはホッと一安心したのを覚えています。
ただ、です。
この隣人――新社会人の男が、ちょっと厄介なヤツだったんです。
というのもコイツ、夜、めっちゃ騒ぐんですよ。
会社の同僚なのか、大学時代の友だちを呼んでるのかわかりませんが、
男数人で、ギャーギャーうるさいのなんのって。
毎日ってわけでもないんですが、
休みの前の日となると、深夜帯でも遠慮なしです。
クレームをつけに行こうか、と思ったこともあるんですが、
その……おれは、お恥ずかしいことにビビリでして。
ひとりでとなりの部屋に乗り込む、なんつーこと、とてもできません。
だからその日。夜、騒がしい音が鳴り始めた頃に、
おれは荷物を持って部屋を出ました。
こんなうるさいんじゃ、ロクに眠れない。
せっかくだし、実家にでも帰って過ごそう。そう、思ったんです。
(はぁ……なんで、こっちが気をつかわなきゃいけないんだ……?)
部屋の鍵を閉めつつ、ため息をつきます。
今度、管理人へチクッてやろうか。
そうすれば、少しは収まるか?
そんなことを考えつつ、カバンにカギをしまいこみ、
階段に向かおうとした時でした。
キィ……
となりの、203号室の扉が、開いたんです。
(……え、っ?)
このアパートに入ってから今日まで、
一度も開いたのを見たことがなかったのに。
思いもよらないできごとに、
階段へ向かっていた足が、ピタリと止まります。
廊下についた蛍光灯がほんのわずかに、
203号室の入口を照らして、
ドアノブを握る手だけが、やけに白く見えました。
「あ……ど……どーも……」
素通りするのも気まずくて、
おれはかすれ声で、小さくあいさつだけを言いました。
すると、薄く開いたドアのスキマから、
か細い声が聞こえてきたんです。
「……オマエか……?」
一瞬、男かと思うくらい低い声です。
「え……?」
なにを問われているかわからず、
おれはただ、困惑することしかできません。
「……騒いでいるのは……オマエか……?」
か細い声が再び、ゆっくりと尋ねてきました。
言葉の意味が脳に回って――瞬間、おれはブンブンと首を横に振りました。
「ま、まさか……っ!! あれはとなりの201号室のヤツで……その、おれじゃありません……!」
こっちだって迷惑をこうむっているのに、カン違いされるなんてとんでもない!
もし管理人に、おれがうるさくしているなんて通報されたら、たまったもんじゃありません。
おれがハッキリと否定すると、
うっすらと開いていた扉は、
――バタンッ!!
と激しい音を立てて閉まりました。
「ええ……??」
疑いをかけるだけかけられて、謝罪の言葉もなしです。
(せっかく良いところに引っ越せたと思ってたのに……大外れだったかなぁ……)
おれはいろいろなことに後悔をしつつ、
トボトボと実家に帰ったのでした。
>>
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
都市伝説レポート
君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/6:『まどのそと』の章を追加。2026/1/13の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる