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144.冬のビニールハウス①(怖さレベル:★★☆)

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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


今から数年前、ものすごい大雪が降った年がありましたよね。

関東でも、めずらしいくらいの積雪量になって、
交通網も軒並み止まってしまった、という年が。

あの時、おれはちょうど仕事を辞めて実家に帰っていた頃で、
幸い、そんな都心の混乱には、巻き込まれずに済んだんですけど。

でも、代わりに、と言いますか、
雪かきはさんざんさせられましたよ。

うちの実家はぼちぼちの田舎でして、
周りはだいたい、田んぼか畑です。

だから、そこらへん一体はみんな雪だらけで真っ白くなっていて、
見るだけなら、すごくキレイな光景でした。

大人が雪かきでヘトヘトになっているさなか、
子どもたちだけがやたら元気で、
寒い中、もりもり雪だるまやら、かまくらやらを作りまくっていたのも、よく覚えていますよ。

ただ、まぁ……それだけ降られると、
当然、損害もひどいモンでしたね。

あまりの雪の重さに、カーポートがブッ壊れてしまったり、
コンテナ倉庫がぺしゃんこになってしまったり、などなど。

あと、一番はコレですね。ビニールハウス。

うちの実家のそばは農業やってる人がなにせ多かったもんだから、
被害額はかなり多かったみたいですよ。

時期的にも、イチゴの収穫シーズンでもあったから、
せっかくここまで育てたのに、なんて悲鳴じみた声も聞きました。

国や県から、雪害に対する補助金もでたみたいですけど、
もともと、後継ぎがなく、ギリギリでやっていたところなんかは、
これを機に、と辞めちゃう家もけっこう多くって。

そうすると、畑の中にくしゃくしゃにつぶれたままのビニールハウスが、
そのままの状態で残っている、という光景が出来上がります。

積もった雪が溶けて崩れても、ビニールハウスの骨組みだけが残って、
長く伸びた雑草が突き出している様子は、
なんだかうちの田舎のすたれ具合を現しているようで、見ていて悲しかったですね……。

先に話した通り、おれは仕事を辞めて実家に帰っていた頃で、
職業安定所にいろいろ申請をしたり、新しい仕事を探したりするのに、
よく畑の前を行き来していました。

だから、あちこちに壊れたビニールハウスがそのまま残っていて、
あれ、直したりしないで、ずっとそのままにしておくのかなぁ、なんてよく思ったものです。

そして、長い冬が終わって、
だいぶ雪が消えてきた頃でしょうか。

おれは夕方、チェーンをしっかり巻いたタイヤで、
田舎道をガタガタと車で走っていました。

夕暮れの五時過ぎの景色は、
溶け残った白い雪とも相まって、なかなか幻想的です。

ところどころ、影になっている部分がやけに濃く見えて、
田舎特有の、まったくひと気のない道が、寒々しくも思えましたが。

積もった雪と氷を踏みしめるジャリジャリという音が、
車のエンジン音だけが響くなか、やけに耳につきます。

おれはなんとなく、カーステレオのボリュームを上げて、
エンジンを少し強く踏みしめました。

と、そんなとき。

ドサッ

「……ん?」

道のわきから大きな音が聞こえて、
おれは思わずブレーキを踏みしめました。

なんだろう、と、窓を開けてみると、
ドサドサドサッ、とさらに追加で大きな音。

よくよく見てみると、畑の中に置かれたビニールハウスに積もっていた雪が、
まとめて土の上に崩れた音のようでした。

「ああ……あれかぁ」

白い雪が、うす茶けた雪の上に落下して崩れ、
その中に、くしゃくしゃになったビニールハウスの残骸の姿が見えました。

ビニールの中には、枯れたイチゴの苗らしきものが見えて、
なんともいえない、寂しいような残念な気分になっている、と。

ガサッ……

つぶれたビニールハウスの中で、なにかが動いたんです。

「なんだ……? 動物……?」

黒っぽい、小型の生き物ような影が、チラチラと動いています。

実家では、もともとキツネやタヌキなどをちょくちょく見かけていたので、
そういう野生動物が入り込んだんだろう、と、おれはあまり気にせずに、再び車を発進させました。

少し走ってから、ルームミラーで後ろを確認すると、
つぶれたビニールハウスの中で動く影は、
どうやら、ひとつやふたつではないようでした。

何匹かが一か所に集まって、ゴソゴソ、と動いている感じといえばいいでしょうか。

薄暮の空の色の中で、
おれはなんだか少しだけゾッと寒気を覚えて、
スピードを上げて、家へと帰りつきました。

なんだかその光景がやけに心に引っかかっていたので、
夕食時、ふと、両親にそのことをチラっと話してみたんです。

「ビニールハウスに黒い影があった。たぶん獣が集まってたっぽい」
と。

ほら、よくあるじゃないですか。
田舎だと、獣だと思ってたものが古くから伝わるヤバイもので……という話。

でも、両親は「へ~そうなの」とほぼ興味がないような反応。

おれは(まぁ実際はそんなもんだよな)と納得し、
そのまま、そんな出来事があったことは、しばらく忘れていたんです。

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