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143.幼なじみの形見分け②(怖さレベル:★☆☆)

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「やーだー! これ、なーちゃんのーっ!」
「だーめ! これ、みぃちゃんのだもん!!」

後ろの方から、甲高い言い争いの声が聞こえてきました。
女子特有の、ちょっと耳にキーンとくるような、アレです。

僕が「えっ?」と思って振り返ると、
そこにはひときわ大きなクマのぬいぐるみをもって、
二人の女子がひっぱり合いをしている図がありました。

「ねぇ、みぃちゃん! こっちにもクマさんのぬいぐるみあるよ!」
「ちょっとななちゃん、それじゃクマさんの手がとれちゃうから!」

それぞれ、彼女たちの友だちか、それとも姉妹か、
他の女の子たちが慌ててぬいぐるみから手を離させようとしました。

しかし、二人はそれぞれ譲ることなく、
争いはどんどんヒートアップしていってしまいます。

「ヤーダー!! これじゃなきゃヤー、なの!!」
「みーちゃんも!! ぜったい、ぜーったい、このクマさんをもらっていくんだもん!!」

グイグイと、左右からクマは引っ張られ、
ビキッ、という、糸がほつれるような音が聞こえました。

僕は慌てて立ち上がり、
ひっぱられ続けているクマのもとへ向かいました。

「ちょっと!! このクマ、元はここんちの家の子の宝物だよ!! そんな風に扱ったらダメだろ!!」
「やーだー!! やだーっ!!」
「みーちゃんの! 今はみーちゃんのだもん!!」

自分が怖い顔をして叱っても、二人はお互いに一歩も引きません。

ひっぱられつづけたクマは、右手と左手がグイグイと伸びて、
ぎゅぎゅぎゅ、という不穏な音を上げ始めました。

「ほら、手を離しなさい! クマさん、ちぎれちゃってもいいのか!?」
「やーだー、なーちゃん、離さないもん!!」
「みーちゃんも、ヤダー!!」

ギャアギャアと、半分泣きが入ってきた二人の声に気づいたらしく、
一階から上がってきた大人たちが、ドアをギイッと開けました。

「あらみんな、どうしたの?」
「もう、遊びに来たんじゃないんだから。ほら、もうちょっとおとなしく……」

と、困り顔の大人たちが、部屋に入ってきたときです。

ぎゅぎゅぎゅ――バツンッ

「あっ!」「わーっ!!」

ドテンッ、と女の子ふたりはその場にひっくり返りました。

「ああ……」

目の前の光景に、僕はため息をもらす他ありません。

あの大きなクマのぬいぐるみは、真っ二つに裂けてました。

茶色かった体の真ん中からは、
内臓のようにモコモコと白い綿があふれだしています。

かわいかった顔も、目玉がひとつ取れて床に落ちて、
口は半分に大きく裂けてしまっていました。

「うっ……や、ヤダって……ヤダって言ったのにぃ……」
「み、みーちゃんの……っ、みーちゃんのぬいぐるみ、がぁ……!!」

二人は、手に残ったぬいぐるみの残骸と、
二人の間にこんもりと残った綿のかたまりを見て、
急にワーッと泣き出してしまいました。

「あ、あの……えっと……」

僕は焦りました。

二人の女の子は泣きじゃくってしまって、
目の前にはバラバラになったクマのぬいぐるみが横たわっています。

とりあえず、破片を集めてしまわないと。
僕はしゃがみ込んで、ぬいぐるみから
飛び出した綿のかたまりを拾い始めました。

すると、さっきから様子を見守っていた他の女の子たちも手伝ってくれて、
バラバラに避けたぬいぐるみを、どうにかそれらしい形に集めることができたんです。

「すみませんっ、本当に、すみませんっ!!」

と、僕らがぬいぐるみを集め終わった頃でしょうか、
部屋の入り口の方で、そんな謝罪の声が聞こえてきたのは。

「ほら、みぃこ! ちゃんとあんたも謝りなさい!」
「なな! 泣いてばっかりじゃダメでしょう。悪いことしたんだから、ちゃんと謝らないと」

さっきまで、ギャースカ泣いていた女の子二人。
彼女たちは、お互いの親御さんの隣で、必死に頭を下げさせられていました。

向かいには、幼なじみのお母さん。
彼女は、眉を下げて困り顔で、四人の謝罪を受け入れていました。

「まあまあ、しょうがありませんよ。それだけ、あの子のぬいぐるみを気にいってくれた、ってことでしょうから」
「本当に申し訳ありません……! よくこの子には言ってきかせますから……!!」
「まだ小さいし、もらえると思って嬉しくなっちゃったのよね。大丈夫よ、あの子も、よくわかってるだろうから」
「そう言っていただけると……本当にすみません……!」

彼女のお母さんに向かって、二人の母親はぺこぺこと何度も頭を下げています。

ぬいぐるみをちぎった二人は反省しているのかはわからないものの、
母親に合わせて、頭を下げているのが見えました。

それを見たら、なんだか僕も気分が落ちてしまって、
貰おうと思っていたマンガ5冊を棚に戻して、1冊だけ、
適当に抜き出しました。

他の子たちもどうやら同じような気持ちだったようで、
両手いっぱいにぬいぐるみを持っていた子も、
だいぶもらう数を減らしていたようでした。

ええ、これだけなら、そういうことがあったね、で終わる話なんです。

亡くなった子のぬいぐるみをぶっ壊したのを見た、という、
ただ後味が悪いだけの話、なんですが。

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