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143.幼なじみの形見分け①(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
ええ、あれは僕が、まだ小学生だったときです。
そのころ、仲が良かった女の子がいたんですよ。
いわゆる幼なじみ、ってやつでしょうか。
隣に住んでいる女の子で、
そこの家とは家族ぐるみの付き合いだったんです。
ただ、残念ながらその子との甘酸っぱい青春、
みたいなものはありませんでした。
彼女は、僕が小学校三年生になるときに、
事故で亡くなってしまったんですから。
さすがに小さいとはいえど、小学三年生にもなると、
『死』がどういうものだかは、なんとなく理解はできます。
僕は着なれない喪服を着て、
母につれられ、彼女のお葬式に行きました。
棺の中に眠る彼女には、あの元気だったころの面影はなくて、
生きていないものが持つ、特有の死の雰囲気が、
なんだかとても寂しくて、そして恐ろしかったのを覚えています。
そうして、彼女の死から、しばらく経った頃、でしょうか。
今思えば、たぶん四十九日が過ぎた頃だったんでしょうね。
おとなりの家から、形見分けの話がきたんです。
形見分け、と言っても、子どもの形見です。
うちの親も『もらうには忍びない』と最初は断ったみたいなんです。
でも、彼女にはほかに兄弟もおらず、
同年代の子にもらってもらった方が彼女もうれしいだろうから、
と重ねて言われて、両親も断り切れなかったようでした。
だから、僕は母に連れられて、
彼女がいなくなってからは初めて、
おとなりの家を訪問することになったんです。
「あらー、いらっしゃい。来てくれてありがとうね」
家に上がると、幼なじみのお母さんは暖かい笑顔で迎え入れてくれました。
家の中は静か、と思いきや、どうやら他にも来客があるようです。
リビングの方からは、他の子どもや大人たちの声が、ワイワイと聞こえてきました。
「知り合いの女の子たちも呼んでいるのよ。お洋服とかお人形もいっぱいあるからね」
ボーっとリビングを見ている僕の視線をたどって、
説明するように彼女のお母さんは言い、そして、
「はい! それじゃあ、注目!」
パンパン! と彼女が手を叩くと、
リビングで遊んでいた女の子たちも、
ワイワイとはしゃぎながら廊下に飛び出してきました。
「それじゃあ、あの子の部屋に行きましょうか。みんな、ちゃんとついてきてね」
僕の母や、他の親たちはリビングで待っている、ということで、
幼なじみの母につれられて、僕たち子どもは二階の部屋へと入りました。
(……なにも、変わってない……)
何度も通ったその部屋は、
記憶にあるのとまったくいっしょの光景でした。
小学生になるから買ってもらった! と自慢していたオリーブ色のベッドと、
まだ小さい彼女には少し大きな学習机。
幼なじみが好きだった少女マンガと絵本がずらっと並べられた本棚。
部屋の真ん中には、クマの形をしたマットが敷かれていて、
飾り棚の上には、同じくクマのぬいぐるみがいくつも飾られていました。
(そういえば、大好きだったもんな……クマのぬいぐるみ)
ベッドや学習机の上にも、小さなクマのぬいぐるみが置かれています。
いっしょに公園に遊びに行くときも、
彼女のカバンには、いつもクマのキーホルダーがついていました。
そういえば、棺の中にも入っていたなぁ。
そんなことを思い出して、僕は少しだけ気分が落ち込みました。
「わあーっ、カワイイ! これ、もらっていいの!?」
「ええ、いいわよ。でも、他の子もいるから、2つ3つくらいにしておいてね」
「はーい!」
詳しい事情を知らないのか、僕よりも年下の子どもたちが、
ワイワイと騒ぎながら、あちこちのものをさわり始めました。
やっぱり人気なのは、ぬいぐるみやおもちゃ類です。
僕は彼らの横を通りすぎて、ベッドの横、マンガや絵本がつめこまれている本棚の方へ向かいました。
特に、欲しいものはありません。
でも、彼女とはよくマンガの貸し借りをしたこともあって、
せっかくもらうならコレかな、と、本棚の前に座って、一冊一冊を抜き出し始めました。
(これ、ラクガキしてある……あ、こっちにも。あいつ、イタズラしてんだなぁ……)
と、幼なじみの痕跡を見つけて、
なんともいえないしんみりした気分になっていると、
なにやら、背中に強烈な視線を感じたんです。
なんだろう。
不思議に思って振り返ってみると、
ニッコリと笑顔を浮かべた、彼女のお母さんが立っていました。
「どう? なにをもらっていくか、決まった?」
「えっと……まだ悩んでるところ……」
「そっか。……きみにはあの子が本当に親しくしてくれていた子だから、よく選んでくれると嬉しいわ。大切にできるものを、もっていってね」
お母さんは、笑顔です。
言葉も口調も優しくて、本当に、
心からそう思っているんだと伝わってきます。
でも、ふしぎと。
何故だか、僕はほんの少しだけ、それを怖いと思ってしまいました。
「じゃあ、おばちゃんは下に行ってるからね。ほかのみんなもゆっくり見てね」
幼なじみのお母さんは、そう言ってみんなを見回した後、
部屋を出て、トントン、と階段を下りていきました。
もしかして、選ぶところをずっと見ていられるのかと思っていた僕は、
ホッと安心して、再びマンガを選ぶ作業に戻りました。
他の女の子たちはなにも気にならないようで、
ワイワイとはしゃぎながら、彼女のおもちゃを選んでいます。
そんな僕たちの様子を、あちこちに置かれたクマのぬいぐるみが、
ジイッと静かに見下ろしていました。
見られていないのに、なんだか見られている気がする。
なんとも言えない居心地の悪さを感じつつ、
僕が何冊かマンガを選び出した、そんなときでした。
>>
ええ、あれは僕が、まだ小学生だったときです。
そのころ、仲が良かった女の子がいたんですよ。
いわゆる幼なじみ、ってやつでしょうか。
隣に住んでいる女の子で、
そこの家とは家族ぐるみの付き合いだったんです。
ただ、残念ながらその子との甘酸っぱい青春、
みたいなものはありませんでした。
彼女は、僕が小学校三年生になるときに、
事故で亡くなってしまったんですから。
さすがに小さいとはいえど、小学三年生にもなると、
『死』がどういうものだかは、なんとなく理解はできます。
僕は着なれない喪服を着て、
母につれられ、彼女のお葬式に行きました。
棺の中に眠る彼女には、あの元気だったころの面影はなくて、
生きていないものが持つ、特有の死の雰囲気が、
なんだかとても寂しくて、そして恐ろしかったのを覚えています。
そうして、彼女の死から、しばらく経った頃、でしょうか。
今思えば、たぶん四十九日が過ぎた頃だったんでしょうね。
おとなりの家から、形見分けの話がきたんです。
形見分け、と言っても、子どもの形見です。
うちの親も『もらうには忍びない』と最初は断ったみたいなんです。
でも、彼女にはほかに兄弟もおらず、
同年代の子にもらってもらった方が彼女もうれしいだろうから、
と重ねて言われて、両親も断り切れなかったようでした。
だから、僕は母に連れられて、
彼女がいなくなってからは初めて、
おとなりの家を訪問することになったんです。
「あらー、いらっしゃい。来てくれてありがとうね」
家に上がると、幼なじみのお母さんは暖かい笑顔で迎え入れてくれました。
家の中は静か、と思いきや、どうやら他にも来客があるようです。
リビングの方からは、他の子どもや大人たちの声が、ワイワイと聞こえてきました。
「知り合いの女の子たちも呼んでいるのよ。お洋服とかお人形もいっぱいあるからね」
ボーっとリビングを見ている僕の視線をたどって、
説明するように彼女のお母さんは言い、そして、
「はい! それじゃあ、注目!」
パンパン! と彼女が手を叩くと、
リビングで遊んでいた女の子たちも、
ワイワイとはしゃぎながら廊下に飛び出してきました。
「それじゃあ、あの子の部屋に行きましょうか。みんな、ちゃんとついてきてね」
僕の母や、他の親たちはリビングで待っている、ということで、
幼なじみの母につれられて、僕たち子どもは二階の部屋へと入りました。
(……なにも、変わってない……)
何度も通ったその部屋は、
記憶にあるのとまったくいっしょの光景でした。
小学生になるから買ってもらった! と自慢していたオリーブ色のベッドと、
まだ小さい彼女には少し大きな学習机。
幼なじみが好きだった少女マンガと絵本がずらっと並べられた本棚。
部屋の真ん中には、クマの形をしたマットが敷かれていて、
飾り棚の上には、同じくクマのぬいぐるみがいくつも飾られていました。
(そういえば、大好きだったもんな……クマのぬいぐるみ)
ベッドや学習机の上にも、小さなクマのぬいぐるみが置かれています。
いっしょに公園に遊びに行くときも、
彼女のカバンには、いつもクマのキーホルダーがついていました。
そういえば、棺の中にも入っていたなぁ。
そんなことを思い出して、僕は少しだけ気分が落ち込みました。
「わあーっ、カワイイ! これ、もらっていいの!?」
「ええ、いいわよ。でも、他の子もいるから、2つ3つくらいにしておいてね」
「はーい!」
詳しい事情を知らないのか、僕よりも年下の子どもたちが、
ワイワイと騒ぎながら、あちこちのものをさわり始めました。
やっぱり人気なのは、ぬいぐるみやおもちゃ類です。
僕は彼らの横を通りすぎて、ベッドの横、マンガや絵本がつめこまれている本棚の方へ向かいました。
特に、欲しいものはありません。
でも、彼女とはよくマンガの貸し借りをしたこともあって、
せっかくもらうならコレかな、と、本棚の前に座って、一冊一冊を抜き出し始めました。
(これ、ラクガキしてある……あ、こっちにも。あいつ、イタズラしてんだなぁ……)
と、幼なじみの痕跡を見つけて、
なんともいえないしんみりした気分になっていると、
なにやら、背中に強烈な視線を感じたんです。
なんだろう。
不思議に思って振り返ってみると、
ニッコリと笑顔を浮かべた、彼女のお母さんが立っていました。
「どう? なにをもらっていくか、決まった?」
「えっと……まだ悩んでるところ……」
「そっか。……きみにはあの子が本当に親しくしてくれていた子だから、よく選んでくれると嬉しいわ。大切にできるものを、もっていってね」
お母さんは、笑顔です。
言葉も口調も優しくて、本当に、
心からそう思っているんだと伝わってきます。
でも、ふしぎと。
何故だか、僕はほんの少しだけ、それを怖いと思ってしまいました。
「じゃあ、おばちゃんは下に行ってるからね。ほかのみんなもゆっくり見てね」
幼なじみのお母さんは、そう言ってみんなを見回した後、
部屋を出て、トントン、と階段を下りていきました。
もしかして、選ぶところをずっと見ていられるのかと思っていた僕は、
ホッと安心して、再びマンガを選ぶ作業に戻りました。
他の女の子たちはなにも気にならないようで、
ワイワイとはしゃぎながら、彼女のおもちゃを選んでいます。
そんな僕たちの様子を、あちこちに置かれたクマのぬいぐるみが、
ジイッと静かに見下ろしていました。
見られていないのに、なんだか見られている気がする。
なんとも言えない居心地の悪さを感じつつ、
僕が何冊かマンガを選び出した、そんなときでした。
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