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138.新しい家①(怖さレベル:★★☆)

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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

怖い話では、『家』が話題にのぼることって多いですよね。

家そのものに怨念が宿り、立ち入るものを殺していく、
という映画もありますし、そもそも”地縛霊”という言葉自体、
幽霊は場所に居つく、というイメージを濃くしているような気がします。

それに、神社仏閣でも神様を移動させるときには、
細心の注意を払うと聞きますし、
そういう人智を超えた立場のモノというのは、
場所や空間に存在している、という認識が強いのかもしれませんね。

わたしがお話するのは、そんな『家』に関する話になります。

あれは、そうですね。
私がたしか、中学一年生の頃でした。

ずっと転勤族であった父が、めでたく転職に成功し、
しばらく離れていた地元に戻ることになったのです。

今まではずっと、父と一緒に移動してのアパート生活。

あちこちを点々として友人が少なかった私と弟は、
なつかしい小学校の時の友人がいる場所に戻れると喜んだし、
両親も慣れ親しんだ土地に戻れるということで、ホッとひと安心したようでした。

地元は、もともと都市部のベッドタウンとして人気だった場所です。

中古住宅も大量にあり、かなりの数が売り出されているようでした。

うちの両親はさっそく家をいくつかピックアップし、
次の週末には、内見に私たちも同行することになったんです。





「こちらは、築三十年ほどのお宅となっています。内装は――」

一軒目。

案内の男性が、両親になにごとかを説明している中、
私は駐車場から、目の前に立つ家をみあげました。

四角い家。

初見の印象は、そのひとことです。

家自体も四角いし、窓も正方形で、正面から見て4つ。

2階のベランダと玄関が対角線上にあって、
色合いはベージュと茶色がメインで、落ち着いた雰囲気があります。

オシャレな家だなぁ。

中学生ながらに、わたしはそんな感想を抱きました。

「では、さっそく中へご案内いたしますね」

男性が正面玄関のカギを開けて、
両親がその後に続きます。

私もついていこうとして、
弟がまだその場につったったままだということに気づきました。

「カズマ? なにしてんの」
「えっ……い、いや、べつに」

いつも生意気な弟にしては、珍しくひかえめな反応です。

でも、私がさらになにか聞く前に、そそくさと両親の後を追って、
家の中へと入っていってしまいました。

(なんなのアイツ、いつもと違うような……)

ふだんと異なる態度に不信感がわき上がりましたが、
まぁ、思春期だしそういうこともあるのかな、と、
私も家族の後について家の中へ上がりこみました。

(あれ……思ったより、ふつうの家だ)

フローリングの床を歩きながら、
私はキョロキョロと周囲を見回しました。

外から見たオシャレな雰囲気と違い、室内に真新しさはなく、
築三十年に見合った薄いシミや、床には変色もあります。

ただ、今住んでいるアパートに比べれば、
廊下は広くて長いし、二階もあって解放感がありました。

(へぇ……いいなぁ、広くって)

私は今までとまったく違う間取りにテンションが上がってしまい、
リビングにいる家族と案内人を放って、
ウロウロと家のなかを探索し始めたんです。

トイレやふろ場、キッチン。
どこもかしこも、今まで住んでいたアパートより広い。

私はウキウキと足取り軽く、あちこちを見て回っていました。

「あ……二階!」

外から見て、気になっていた二階への階段です。
よし、と私はさっそく、足を踏み出しました。

キィー……ギギッ

「わっ」

いきなり木が激しくしなる音がして、
私は慌てて右足を離しました。

(だ……大丈夫、だよね……?)

まさか割れてしまうのでは、と怖くなった私は、
軽くこぶしで一段目を叩きました。

コツンッ、コンッ

音は軽く、あのきしむような不穏な音はしません。

「平気……かな?」

慎重に、もう一度。
そっと足を載せました。

……キィ

「……大丈夫そう、かな」

両足をのせ、体重をかけてみても、
今度は大きな音はありません。

ホッと一安心して、二段目の階段を上っていきます。

キシッ……キシッ……

木のしなる軽い音が、
まるで追いかけてくるように響きました。

階段の音以外、シン、と静かな家の中。

家族の声はリビングの戸に阻まれて聞こえず、
なんだか、急に心細くなってきました。

「……わ、っ」

タン、と足を乗せた階段の木の模様が
なんとなく顔に見えて、私はビクッと震えました。

(バカみたい、ビビッちゃって)

私が自分自身に苦笑して、
一番上の階段を上った時でした。

「痛ッ……!?」

スリッパがなにかに引っ掛かり、
私はフローリングにひざを打ち付けて転びかけたんです。

ガクン、と崩れたひざが板にぶつかって、
私は痛めた場所をおさえてその場で身もだえました。

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