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131.スキマに現れるもの①(怖さレベル:★★★)

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(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)

みなさんの部屋に、収納ってありますか?

クローゼット、タンス、戸棚以外にも、
衣装ケースだとか、プラスチックケースも含めれば、
たいていのおうちには収納場所、もとい、なにかをしまう場所はあると思います。

その中で、特に両開きのクローゼットや、
壁に埋め込まれた押し入れなどは、
入ろうと思えば、人が入れるくらいの大きさがありますよね。

あぁいう、扉やふすまで開閉するタイプって、
ちゃんと閉めないと、うっすらとスキマができるじゃないですか。

あの、うす暗い細い闇……あれって、なんだか恐ろしくありませんか。

例えば、夜中。

ふっと目が覚めたとき、ほんの少しだけ開いたクローゼットの間から、
白い目玉がふたつ、覗いていたら?

押し入れのふすまの間から、数年前に亡くなった、
親戚の顔と目があってしまったら?

あの、うっすらと開いたスキマを見ると、
そんな風に怖い妄想が浮かぶこと、ありませんか。

ええ……なにせ、今回お話させていただくのは、
そんなスキマにまつわる、わたし自身の体験談なんです。

たしか、当時付き合っていた彼氏と、
同棲をきっかけに、賃貸アパートを借りたのがキッカケでした。

実家を離れて、好きな人との同居生活。

炊事や洗濯、料理に掃除など、やらなきゃならないことも多かったけれど、
いろいろ役割分担をしたり、効率よくできるよう試行錯誤したり、
ときにはいっしょに共同作業したりと、すごく充実した毎日でした。

もちろん、大変ではあったんですけどね。

でも、そんなある日。
ふと、妙なことに気がついたんです。

(……押し入れの扉が、開いてる?)

と。

私たちの寝室には、壁に埋め込まれた収納があって、
スライド式のドアで、開け閉めができるようになっていました。

その扉が、なぜかいつも、ほんの少しだけ開いているんです。

最初は、ただの閉め忘れかな、なんて思っていました。

でも、どこかへ外出して帰ったときだとか、
夜眠って朝起きたときだとか、
たしかに閉めたはずなのに開いているんです。

一度気になって彼にも聞いてみたんですが、
「知らない」って言うし。

でも――まぁ、言ってしまえば、別に実害はないわけです。
なぜか、ちょっとだけ扉が開いている。ただそれだけ。

それに、まだ同棲生活を始めたばかりの頃ですし、
新しい環境になじむ方が優先で、気づいてはいたものの、
その扉のことは放っておいていました。

結婚も視野に入れていたし、今はここで我慢して、
いずれは新居を買おう、なんて夢も見ていましたしね。

そうして、だいたい、暮らし始めて半年も過ぎた頃でしょうか。
ついに、彼からプロポーズされたんです。

その夜は、ドキドキしてしまって、
なかなか寝付くことができませんでした。

目を閉じて、なんとなく意識が薄れても、
うとうとしたと思ったら目が覚めて、またうとうとして……のくり返し。

ずーっとそんな調子で、ふと時計を見れば深夜三時。

気晴らしに、なにか暖かいものでも飲もうと、
ふと、上半身を布団から起こしたんです。

「ん……あれ?」

ちょうど、顔を上げた先にいつもの押し入れがあるんですが、
そのスライドドアが、キッチリと閉じていたんです。

いつもだったら、どんなにちゃんと閉めておいても、
いつの間にか開いてしまっている、というのに。

(この時間だと、ちゃんと閉まってる、ってこと……?)

常夜灯のぼんやりしたオレンジ色の明かりが、
押し入れと、部屋の中を照らし出します。

シン、と静かな深夜三時の温度感に、
私はなんだか、ぶるっと身震いしました。

(……どういうこと、なんだろ)

今まで深く考えなかったけれど、
こうして改めて起きている現象を気にし始めると、
なんだか、不気味に思えてきます。

朝にはいつもうっすら開いているのに、
いったいどういう仕組みなのか。

私は、薄気味悪さと妙な不安を感じつつも、
とりあえず台所に行くために、立ち上がろうとしたんです。

キィー……

腰を上げようとした私の、まさに目の前で、
ゆっくり、収納のスライドドアが動きました。

キィー……ギギッ

木材の、甲高い音をたてながら、
扉は、ほんの少し、指いっぽん分ほどのスキマを開けて止まりました。

…………

私は、まるでかなしばりにでもあったかのように、
その場でピシリと動きをとめ、目の前の光景を見つめました。

だって、どう考えたって、おかしい。

彼は私のとなりですっかり熟睡しているし、
この家には、私たちの他には当然誰もいません。

それなのに。
まるで、誰かが手を伸ばしてドアを開けようとしたかのように、
スムーズに、扉が横に動く、なんて。

その時期は、四月の半ば。

エアコンもつけていなければ、扇風機も回っていません。

窓は少し開けているけれど、
突風でも吹かないかぎり、扉を動かすことなんて不可能です。

「…………」

私は思わず息を止めて、
じいっとそのスキマを凝視しました。

いえ、目をそらせなかった、という方が正しいかもしれません。

指一本分ほどの、なにも見えない暗闇。

そこになにかがいるんじゃないか、
なんてイヤな空想ばかりが膨らみます。

一秒、二秒、三秒……
シン、と、耳に痛いほどの静寂。

コップに水をなみなみとついで、
今にもこぼれてしまうのを見つめるような、
張り詰めた緊張感が、その場には漂っていました。

(……なにも、起きない……?)

無言の。無言の、時間が過ぎました。
とめていた息をはいて、また吸って、それでもなにも起こりません。

(……なんだ。なにも、ないじゃない)

古いアパートです。
きっと、スライドドア式のドアはたてつけが悪くて、
なにかの振動で開いてしまっただけでしょう。

時間が過ぎていくにつれて、
私は、そうやって今見た光景を、いちばんまともなものへ正当化しました。

とはいえ、布団から起きて台所まで行く気力はなくなって、
私はどこか不安を抱えながら、布団のなかに潜り込もうとしたんです。

キィー……

また、スライドドアが動く音がしました。
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