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130.お経のサウンドロップ①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
おれ、昔っからガチャガチャが好きだったんですよ。
あぁいう何が出るかランダムなものがあると、
つい一回だけ、なんて思って回しちゃってね。
まあ、今はそういう人が多いのか、
ショッピングモールや駅ビルには、必ずと言っていいほど、
専用のコーナーもできてますよね。
見てると、やってるのは若い子が多いけど、
それに混ざって大人も、なんて光景もあって、
なんだか微笑ましい気もしますね。
……と、ああ、すいません。
おれが話す話は、コレに関わってくるんですよ。
それで、ガチャガチャ……いえ、
正式名称はガシャポン、になるんですかね?
知ってます? アレって今、ものすごい種類があるんですよ。
エコバックやポーチなどの女子が喜ぶようなものから、
ミニカーや動くおもちゃ、ちょっとしたフィギュアなど男子や子どもが喜ぶもの。
日々、いろいろな商品が開発されているようですが……
今回おれが話すのは、そのうちのひとつである、
【サウンドロップ】と呼ばれるモノです。
知ってます? サウンドロップ。
名前からなんとなく察しがつくかもしれませんが、
これは、音が鳴るおもちゃのことなんですよ。
まるっこい形をしている本体に、
ボタンがついているというシンプルなもので、
押すとメロディーが流れたり、キャラクターが決め台詞を言ったりする。
これが、いろいろ種類があって、
かなり集めがいがあるんですよ……っと、いけない、話が脱線してしまいましたね。
そう、このサウンドロップ。
コイツを使って起きた事件について、
話をさせていただきたいと思います。
あれは……そうだな、だいたい三年くらい前のことでしょうか。
おれは仕事の出張で、
となりの県に日帰りで行くことになったんです。
出張と言っても、ほとんど名ばかりの研修みたいなもんで、
それ自体は午後三時くらいで終わってしまって。
せっかく隣の県に来たんだから、
地元に戻る前に、職場のやつらにご当地土産でも買って帰ろうと、
駅構内の土産物屋や、併設されている駅ビルをぶらぶらしていたんですよ。
で、見つけちまったわけです。
ご当地ガシャポンを。
たいがい、ご当地モンってのは、そこの場所のゆるキャラだとか、
有名観光スポットにちなんだモノが入ってるのが多いんですけど、
そこで見つけたのは、なんと、コレですよ。
その名も【お経ストラップ】。
サウンドロップのボタンを押すと般若心経の一文が流れるっていう、
考えようによっては、なんとも罰あたりなシロモノでした。
そのあたりは別に有名な寺があるわけでもなかったし、
企画したヤツの悪ふざけ、っていうんですかね。
そういう、チープでありつつも独特の感性を感じる、面白いガシャポンの匂いがしたんですよ。
ただまぁ、あんまりやる人はいないのか、
ガシャポンコーナーの一番端っこにで、
いかにも目立たない、撤去寸前といった風情で置かれていました。
まぁでも、めったに来ない隣の県。
せっかくの機会だし、と、いっちょ回してみることにしたんです。
「じゃあやるか……って、うわ、安ッ」
価格を見ると、なんと100円。
今のご時世、500円のものが当たり前にある中、
きわめて破格のシロモノです。
脳裏に、逆に(ものすごくチープなのでは?)という疑念が浮かびましたが、
ネタにもなるし、一回だけ引いてみよう。
そう自分自身に言い聞かせるようにして、
100円を投入して、ハンドルをぐるっと一回転させました。
ガシャンーーコロン
ずいぶんと軽い音を立てて、
それは取り出し口に転がり落ちてきました。
カプセルを開けると、中に入っていたのは
まっしろい雫型のサウンドロップで、
真ん中には、大きな白いボタンが配置されています。
さっそく、試しに押してみようかな、とうずいたものの、
なんせ、他にひと目もある駅の構内です。
いきなりお経を垂れ流すのもな、と思いまして、
トイレに行くついでに、ちょっと試してみよう、と思ったんですよ。
運よく、おれがトイレに入ったときには、中には誰も利用者はいませんでした。
個室に入って用を足す前に、ポチッとボタンを押してみたんです。
『……観自在菩薩(かんじざいぼさつ)……行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみったじ)……照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)……』
おそらくは坊さんの、男性の声。
電子っぽいガビガビとくぐもった感じをまとって、
お経の一節であるその部分が、十秒ほど再生されました。
さすがに、お経のすべてが流れるわけではなく、
本当にその一節の部分だけのようです。
その上、音も決してキレイとはいえない、
なんとも作り物じみた安っぽさを感じました。
(まぁ……100円だし、こんなもんだよな)
正直、ガシャポンは当たりはずれが結構激しいので、
こういった期待外れのシロモノというのもよくあるんです。
いや、100円という値段を考えれば、
十分、と言えるかもしれませんが。
(ま、ちょっとしたネタくらいにはなるか)
おれはそそくさとサウンドロップをカバンにしまうと、
用を済ませて手洗い場を通ってトイレから出ました。
すると、トイレの入り口の方で、言い争う声が聞こえます。
「……ウソじゃねぇんだって! ホントなんだよ!!」
「おまえ、いい年してありえねぇだろ。バカなこと言ってんじゃねぇよ」
二十代も半ばといった年ごろの男性三人が、
戸惑うような表情で、なにごとかを言い合っています。
(こんな駅のトイレで、なにケンカしてんだか……)
おれはあきれ半分でそんなことを考えつつ、
関わり合いにならないよう、素知らぬフリで通り過ぎようとしました。
しかし、
「マジなんだって! ほんとにこのトイレの中から、なんかお経みてぇな声がしたんだよ!!」
と叫ぶ男性の声に、一瞬、足が止まりそうになりました。
「はぁ、お前なぁ……こんなとこで怪談でも作るつもりかよ?」
「ウソじゃねぇっての!!」
彼は両手でグッとこぶしを握って、必死の表情で力説しています。
これは、マズい。
察したおれは、そそくさとその場から退散しようとしましたが、
「……あっ! そこの人、さっきトイレ入ってるとき、変な声……その、お経みたいな声、しなかったか!?」
と、すがるような声で話しかけてきたんです。
…………。
あぁいうときって、とっさに返事できないものなんですねぇ。
おれは一瞬、固まってしまって、
「え、えぇと……? すみません。おれは、特に気づきませんでしたけど……」
と、思わず知らんぷりしてしまったんです。
おれ、昔っからガチャガチャが好きだったんですよ。
あぁいう何が出るかランダムなものがあると、
つい一回だけ、なんて思って回しちゃってね。
まあ、今はそういう人が多いのか、
ショッピングモールや駅ビルには、必ずと言っていいほど、
専用のコーナーもできてますよね。
見てると、やってるのは若い子が多いけど、
それに混ざって大人も、なんて光景もあって、
なんだか微笑ましい気もしますね。
……と、ああ、すいません。
おれが話す話は、コレに関わってくるんですよ。
それで、ガチャガチャ……いえ、
正式名称はガシャポン、になるんですかね?
知ってます? アレって今、ものすごい種類があるんですよ。
エコバックやポーチなどの女子が喜ぶようなものから、
ミニカーや動くおもちゃ、ちょっとしたフィギュアなど男子や子どもが喜ぶもの。
日々、いろいろな商品が開発されているようですが……
今回おれが話すのは、そのうちのひとつである、
【サウンドロップ】と呼ばれるモノです。
知ってます? サウンドロップ。
名前からなんとなく察しがつくかもしれませんが、
これは、音が鳴るおもちゃのことなんですよ。
まるっこい形をしている本体に、
ボタンがついているというシンプルなもので、
押すとメロディーが流れたり、キャラクターが決め台詞を言ったりする。
これが、いろいろ種類があって、
かなり集めがいがあるんですよ……っと、いけない、話が脱線してしまいましたね。
そう、このサウンドロップ。
コイツを使って起きた事件について、
話をさせていただきたいと思います。
あれは……そうだな、だいたい三年くらい前のことでしょうか。
おれは仕事の出張で、
となりの県に日帰りで行くことになったんです。
出張と言っても、ほとんど名ばかりの研修みたいなもんで、
それ自体は午後三時くらいで終わってしまって。
せっかく隣の県に来たんだから、
地元に戻る前に、職場のやつらにご当地土産でも買って帰ろうと、
駅構内の土産物屋や、併設されている駅ビルをぶらぶらしていたんですよ。
で、見つけちまったわけです。
ご当地ガシャポンを。
たいがい、ご当地モンってのは、そこの場所のゆるキャラだとか、
有名観光スポットにちなんだモノが入ってるのが多いんですけど、
そこで見つけたのは、なんと、コレですよ。
その名も【お経ストラップ】。
サウンドロップのボタンを押すと般若心経の一文が流れるっていう、
考えようによっては、なんとも罰あたりなシロモノでした。
そのあたりは別に有名な寺があるわけでもなかったし、
企画したヤツの悪ふざけ、っていうんですかね。
そういう、チープでありつつも独特の感性を感じる、面白いガシャポンの匂いがしたんですよ。
ただまぁ、あんまりやる人はいないのか、
ガシャポンコーナーの一番端っこにで、
いかにも目立たない、撤去寸前といった風情で置かれていました。
まぁでも、めったに来ない隣の県。
せっかくの機会だし、と、いっちょ回してみることにしたんです。
「じゃあやるか……って、うわ、安ッ」
価格を見ると、なんと100円。
今のご時世、500円のものが当たり前にある中、
きわめて破格のシロモノです。
脳裏に、逆に(ものすごくチープなのでは?)という疑念が浮かびましたが、
ネタにもなるし、一回だけ引いてみよう。
そう自分自身に言い聞かせるようにして、
100円を投入して、ハンドルをぐるっと一回転させました。
ガシャンーーコロン
ずいぶんと軽い音を立てて、
それは取り出し口に転がり落ちてきました。
カプセルを開けると、中に入っていたのは
まっしろい雫型のサウンドロップで、
真ん中には、大きな白いボタンが配置されています。
さっそく、試しに押してみようかな、とうずいたものの、
なんせ、他にひと目もある駅の構内です。
いきなりお経を垂れ流すのもな、と思いまして、
トイレに行くついでに、ちょっと試してみよう、と思ったんですよ。
運よく、おれがトイレに入ったときには、中には誰も利用者はいませんでした。
個室に入って用を足す前に、ポチッとボタンを押してみたんです。
『……観自在菩薩(かんじざいぼさつ)……行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみったじ)……照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)……』
おそらくは坊さんの、男性の声。
電子っぽいガビガビとくぐもった感じをまとって、
お経の一節であるその部分が、十秒ほど再生されました。
さすがに、お経のすべてが流れるわけではなく、
本当にその一節の部分だけのようです。
その上、音も決してキレイとはいえない、
なんとも作り物じみた安っぽさを感じました。
(まぁ……100円だし、こんなもんだよな)
正直、ガシャポンは当たりはずれが結構激しいので、
こういった期待外れのシロモノというのもよくあるんです。
いや、100円という値段を考えれば、
十分、と言えるかもしれませんが。
(ま、ちょっとしたネタくらいにはなるか)
おれはそそくさとサウンドロップをカバンにしまうと、
用を済ませて手洗い場を通ってトイレから出ました。
すると、トイレの入り口の方で、言い争う声が聞こえます。
「……ウソじゃねぇんだって! ホントなんだよ!!」
「おまえ、いい年してありえねぇだろ。バカなこと言ってんじゃねぇよ」
二十代も半ばといった年ごろの男性三人が、
戸惑うような表情で、なにごとかを言い合っています。
(こんな駅のトイレで、なにケンカしてんだか……)
おれはあきれ半分でそんなことを考えつつ、
関わり合いにならないよう、素知らぬフリで通り過ぎようとしました。
しかし、
「マジなんだって! ほんとにこのトイレの中から、なんかお経みてぇな声がしたんだよ!!」
と叫ぶ男性の声に、一瞬、足が止まりそうになりました。
「はぁ、お前なぁ……こんなとこで怪談でも作るつもりかよ?」
「ウソじゃねぇっての!!」
彼は両手でグッとこぶしを握って、必死の表情で力説しています。
これは、マズい。
察したおれは、そそくさとその場から退散しようとしましたが、
「……あっ! そこの人、さっきトイレ入ってるとき、変な声……その、お経みたいな声、しなかったか!?」
と、すがるような声で話しかけてきたんです。
…………。
あぁいうときって、とっさに返事できないものなんですねぇ。
おれは一瞬、固まってしまって、
「え、えぇと……? すみません。おれは、特に気づきませんでしたけど……」
と、思わず知らんぷりしてしまったんです。
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