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117.人を呪わば①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
いやぁ……なんというか。
お恥ずかしい、過去の話、なんですよ。
あれは、ボクがまだ二十歳をすこし過ぎたばかりの、
まだ初々しいの残る青年だった頃のことです。
ボクには、高校生の時からずっとお付き合いしている彼女がいました。
ほんわかした優しい性格に惚れこんで、だんだんと距離をちぢめて、
がんばって付き合うまでにいたった、大事な彼女。
社会人になっても熱は冷めず、休日はかならず彼女を優先して出かけたり、
そろそろ結婚も視野に、なんて考えていた頃でした。
ボクの就職した会社から、長期出張の辞令がくだったのは。
場所は県外。
もともとは関東地方に勤めていたのに、
出張先は四国の方と、かなりの遠距離になってしまいます。
転勤ではあく、あくまで長期出張。
昇進にも影響する、そう言われてしまえば、イヤということはできません。
彼女に伝えると、悲しがってはくれましたが、
彼女自身も大手企業に勤めている身分。
上司からの辞令の重さはよく理解しています
幸い、今はビデオ通話もできるし、
長めの連休をとれたら戻ってくるから、と話をつけて、
泣く泣く、一人新天地へと旅立つことになったのでした。
遠距離状態になって、はや半年が過ぎたころ。
会社の研修のため、関東の本社へ戻る用事ができたのです。
(あいつ……ビックリするだろうな)
前日の夜の通話でも、地元にもどることは内緒にしていて、
今回、突然行ってビックリさせよう! という魂胆でした。
もはや習慣になったビデオ通話でも、
お互いに「会いたい」「さみしい」なんて言い合っていて、
おまけに彼女の誕生日も近かったため、プレゼントも用意してのドッキリ企画。
移動日で一日休みももらっていたため、一度実家にもどって荷物を置いた後、
ワクワクと心を躍らせながら、彼女がひとり暮らしをしているアパートへと向かいました。
(なんか、この景色もなつかしいなぁ)
本社勤務のときには、毎週のようにおとずれたアパート。
周囲の建物や駐車場、新しくなった看板やふるぼけた家の屋根など、
ほんの半年ぶりでも、どこかノスタルジーを感じます。
ボクは上機嫌で彼女の部屋の前に立ち、
ピンポーン、とチャイムを鳴らしました。
…………
シン、と辺りは静まり返っています。
「……あれ?」
昨日の通話で、今日は休みで家でのんびりする予定、
だとか言っていたのに。
(昼ごはんでも、買いに出かけたかな?)
時間はすでに十一時を回ろうか、というところ。
久しぶりに会って、いっしょに食事して、なんて考えていたけれど、
コンビニ辺りでお弁当でも買いに行っているのかもしれません。
「あっ……車、ないな」
アパートの欄干のところから駐車場を見下ろせば、
彼女のかわいらしい軽自動車があるはずのところは空っぽです。
せっかく驚かせようとしたのに残念だなぁと思いながら、
ボクはトボトボと階段をおりて、実家へ戻ろうとした、そんな時。
……ガタガタガタ
車のタイヤが、水路のフタの上を走る音。
なんの気なしにふと顔を上げると、
視界の奥に、見慣れた車が見えました。
(ナイスタイミング……!)
待ちに待っていた彼女の乗っている車。
ここまで来てバレてしまったらつまらないと、
ボクはとっさに、アパートの脇にある自動販売機の横に身をひそめました。
ガタガタガタ……キィー
車はゆるやかにカーブして、
アパートの駐車場へと乗り入れました。
バタン、と音がして、運転席から夢にまで見た彼女の顔がのぞきます。
(あー……本物なんだなぁ。なんか、なつかしい)
毎日のようにビデオ通話で見慣れているとはいえ、
こうして彼女の実物をまじまじと目にするのは本当にひさしぶりです。
「うぅー……買いすぎちゃった」
彼女は、後部座席の扉を開けて、
なにやらガサゴソと荷物をとりだそうとしています。
このタイミングを逃してなるものかと、
ボクはさっそうと自動販売機の横から姿を現そうとしました。
「オイオイ、なにやってんだよ。オレが持つから」
「やった! 頼りになるねー、お願い」
「ああ、先に部屋に行ってろよ」
「うん!」
助手席から降りてきた、男の姿を目にするまでは。
(えっ……?)
硬直したボクの目の前で、男はヒョイヒョイと座席から
大きなビニール袋をとりだし、腕にひっかけていきます。
そしてそのまま車のカギをしめると、
先に歩いて行った彼女の後へついて、アパートのなかへ入って行ってしまいました。
(今の……今の、男は)
もし、見覚えのない男であったなら、
彼女のただの友だち、と自分に言い聞かすこともできたでしょう。
しかし今、彼女の家へ入っていった人物。
それは――ボクが大学生だった頃、彼女に横恋慕しかけた、ライバルの男であったのです。
「う……ウソだ。なんで……」
忘れるはずもありません。
だってそのライバルの男は、
自分と同じ会社に勤務する、同僚でもあったのですから。
長期出張になった自分とはちがい、
人事部に勤めている彼は、いまだ本社勤務であったはず。
(まさか、ボクが出張でいない間に……?)
毎日のように通話して、寂しいなんて言いあっていたのに、
影ではまさか、同僚と仲良くやっていた?
一度考え始めれば、疑念は膨らんでいくばかり。
(いや、いや……偶然、どっかで会って、なつかしくて……とかかもしれないし。
浮気だなんて、そんな簡単に決めつけるのも……)
決定的な証拠があるわけではありません。
しかし、ただの友だち関係、と信じるには、
過去、同僚が彼女に言い寄っていた記憶が、許してはくれませんでした。
>>
いやぁ……なんというか。
お恥ずかしい、過去の話、なんですよ。
あれは、ボクがまだ二十歳をすこし過ぎたばかりの、
まだ初々しいの残る青年だった頃のことです。
ボクには、高校生の時からずっとお付き合いしている彼女がいました。
ほんわかした優しい性格に惚れこんで、だんだんと距離をちぢめて、
がんばって付き合うまでにいたった、大事な彼女。
社会人になっても熱は冷めず、休日はかならず彼女を優先して出かけたり、
そろそろ結婚も視野に、なんて考えていた頃でした。
ボクの就職した会社から、長期出張の辞令がくだったのは。
場所は県外。
もともとは関東地方に勤めていたのに、
出張先は四国の方と、かなりの遠距離になってしまいます。
転勤ではあく、あくまで長期出張。
昇進にも影響する、そう言われてしまえば、イヤということはできません。
彼女に伝えると、悲しがってはくれましたが、
彼女自身も大手企業に勤めている身分。
上司からの辞令の重さはよく理解しています
幸い、今はビデオ通話もできるし、
長めの連休をとれたら戻ってくるから、と話をつけて、
泣く泣く、一人新天地へと旅立つことになったのでした。
遠距離状態になって、はや半年が過ぎたころ。
会社の研修のため、関東の本社へ戻る用事ができたのです。
(あいつ……ビックリするだろうな)
前日の夜の通話でも、地元にもどることは内緒にしていて、
今回、突然行ってビックリさせよう! という魂胆でした。
もはや習慣になったビデオ通話でも、
お互いに「会いたい」「さみしい」なんて言い合っていて、
おまけに彼女の誕生日も近かったため、プレゼントも用意してのドッキリ企画。
移動日で一日休みももらっていたため、一度実家にもどって荷物を置いた後、
ワクワクと心を躍らせながら、彼女がひとり暮らしをしているアパートへと向かいました。
(なんか、この景色もなつかしいなぁ)
本社勤務のときには、毎週のようにおとずれたアパート。
周囲の建物や駐車場、新しくなった看板やふるぼけた家の屋根など、
ほんの半年ぶりでも、どこかノスタルジーを感じます。
ボクは上機嫌で彼女の部屋の前に立ち、
ピンポーン、とチャイムを鳴らしました。
…………
シン、と辺りは静まり返っています。
「……あれ?」
昨日の通話で、今日は休みで家でのんびりする予定、
だとか言っていたのに。
(昼ごはんでも、買いに出かけたかな?)
時間はすでに十一時を回ろうか、というところ。
久しぶりに会って、いっしょに食事して、なんて考えていたけれど、
コンビニ辺りでお弁当でも買いに行っているのかもしれません。
「あっ……車、ないな」
アパートの欄干のところから駐車場を見下ろせば、
彼女のかわいらしい軽自動車があるはずのところは空っぽです。
せっかく驚かせようとしたのに残念だなぁと思いながら、
ボクはトボトボと階段をおりて、実家へ戻ろうとした、そんな時。
……ガタガタガタ
車のタイヤが、水路のフタの上を走る音。
なんの気なしにふと顔を上げると、
視界の奥に、見慣れた車が見えました。
(ナイスタイミング……!)
待ちに待っていた彼女の乗っている車。
ここまで来てバレてしまったらつまらないと、
ボクはとっさに、アパートの脇にある自動販売機の横に身をひそめました。
ガタガタガタ……キィー
車はゆるやかにカーブして、
アパートの駐車場へと乗り入れました。
バタン、と音がして、運転席から夢にまで見た彼女の顔がのぞきます。
(あー……本物なんだなぁ。なんか、なつかしい)
毎日のようにビデオ通話で見慣れているとはいえ、
こうして彼女の実物をまじまじと目にするのは本当にひさしぶりです。
「うぅー……買いすぎちゃった」
彼女は、後部座席の扉を開けて、
なにやらガサゴソと荷物をとりだそうとしています。
このタイミングを逃してなるものかと、
ボクはさっそうと自動販売機の横から姿を現そうとしました。
「オイオイ、なにやってんだよ。オレが持つから」
「やった! 頼りになるねー、お願い」
「ああ、先に部屋に行ってろよ」
「うん!」
助手席から降りてきた、男の姿を目にするまでは。
(えっ……?)
硬直したボクの目の前で、男はヒョイヒョイと座席から
大きなビニール袋をとりだし、腕にひっかけていきます。
そしてそのまま車のカギをしめると、
先に歩いて行った彼女の後へついて、アパートのなかへ入って行ってしまいました。
(今の……今の、男は)
もし、見覚えのない男であったなら、
彼女のただの友だち、と自分に言い聞かすこともできたでしょう。
しかし今、彼女の家へ入っていった人物。
それは――ボクが大学生だった頃、彼女に横恋慕しかけた、ライバルの男であったのです。
「う……ウソだ。なんで……」
忘れるはずもありません。
だってそのライバルの男は、
自分と同じ会社に勤務する、同僚でもあったのですから。
長期出張になった自分とはちがい、
人事部に勤めている彼は、いまだ本社勤務であったはず。
(まさか、ボクが出張でいない間に……?)
毎日のように通話して、寂しいなんて言いあっていたのに、
影ではまさか、同僚と仲良くやっていた?
一度考え始めれば、疑念は膨らんでいくばかり。
(いや、いや……偶然、どっかで会って、なつかしくて……とかかもしれないし。
浮気だなんて、そんな簡単に決めつけるのも……)
決定的な証拠があるわけではありません。
しかし、ただの友だち関係、と信じるには、
過去、同僚が彼女に言い寄っていた記憶が、許してはくれませんでした。
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