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105.祭りの日の公園①(怖さレベル:★★☆)

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「10代男性 長山様(仮)」

あれは、オレがまたヤンチャ盛りの小学生のときの話です。
ほら、あの頃って、とにかく向こう見ずな年頃でしょう?

オレも例にもれず、一般的にクソガキと言われるような、
とにかくイタズラ坊主だったわけですよ。

親でも制御できないくらい、いろいろやらかしていまして。
中学に入って部活に体力が向くまで、さんざん手を焼いたと思いますよ。

まぁそんなだから、同年代にすらちょっと疎まれたりして……
六年生の夏。地元の夏祭り、という一大行事に、
だれからもお誘いの声がかからなかったんですよね。

ならば、諦めて親か兄弟とでも行けばよかったかもしれませんが、
その年頃のときって、身内にはなおさら反発する年頃でしょ?

「友だちと待ち合わせしてるから!」なんてウソをついて、
オレは一人、家をとび出したんです。

とはいえ、当然連れなんていない、ひとりきり。
外に出て来たはいいものの、オレは自転車にまたがったままうなだれました。

もし祭りの会場へ行って、クラスメイトたちが
仲むつまじく遊んでいるトコロなんて見てしまったら。

それどころか、だれか知り合いにでも見つかって、
アイツ、ひとりで祭りに来てるぜ! なんて笑われたりしたら。

いくらヤンチャ坊主だったとはいえ、
想像するだけでゆううつな気分になります。

オレは祭り会場へむけていた自転車の行き先を変えて、
ひと気の少ない、町の反対側へとこぎだしました。

自転車を使って十分も走らせれば、
学校の放課後などによく人が集まる児童公園にたどりつきます。

平日の夕方は、いつもたくさんの生徒でにぎわっている場所ですが、
今日はお祭りということもあってか、ほかに誰の姿もありません。

「……はぁ」

入ってすぐの砂場は、こげ茶とうす茶がまじりあって、雑に砂がとび散って、
唯一の遊具のブランコはあちこちがさびて、ペンキもはがれかけていました。

自転車をその砂場のわきに立てかけて、
オレは四つあるブランコのうち、一番端の席にトボトボと座りました。

夏の日ざしで焼かれた座席はまだ熱をもっていて、
すでに暮れかけてもまだ残る暑さに、額から汗がふき出してきます。

「……あーあ」

口を開けば、でてくるのはため息ばかり。

一年に一度の夏祭り。
まさか、誰からも声をかけられないなんて。

ギーコ、ギーコ……

ブランコの揺れる、古びた鉄のきしむ音。

ザク、ザク

靴が足元の砂を蹴って、さびしい音を鳴らしています。

公園の中の大きな桜の木がブランコの上に影を落として、
わずかな青くささを運んできました。

「…………」

たったひとりで、公園でブランコをこいでいる。
その事実に、ドンドン悲しさが増してきます。

クラスメイトのうっとおしがるような表情だとか、
めんどくさそうなリアクション。

あの時笑ってくれていたけれど、実はイヤがられていたんじゃないか?
こないだ茶化した台詞、言い過ぎたんじゃないか?

考え始めれば暗い思考は止められず、グルグルと頭のなかをかけ回りました。

気分は暗く沈んで、キュッと結んだ唇の端からも、小さくうめき声がもれます。
今にも涙がこぼれそうなくらい、視界もぼやけてきました。

「う……うぅ」

さみしい、悲しい。
気持ちがごちゃまぜになってあふれ出そうとした、その時。

……ザッ……

公園の砂地を歩く、足音が聞こえました。

(…………!)

人が、来た。
ハッとして、あわてて目をパチパチと瞬きして、
オレはそしらぬ顔でブランコを強くこぎ出しました。

さもブランコに夢中です、といった素振りで足をけり出しつつ、
それとなく、音のした入口の方へ視線を向けました。

(……女の子?)

入り口にたたずんでいるのは同い年くらいの少女で、
うす紫の浴衣をまとって、髪をお団子にまとめていました。

顔出しは、美人とも不細工ともいいがたい、
中間的な、あまり印象に残らないような目鼻立ちです。

女の子は、ブランコを揺らす自分をジィッと見つめて、
静かにそっと近づいてきました。

(うちの学校の子、じゃないなぁ)

祭りの日ですし、遠方からやってきているのでしょうか。

親が近くにいるのかなぁ、と彼女から目を離して、
キョロキョロと公園の周りを見回していると、

……ギィー……

「えっ……」

真横のブランコの、きしむ音。

となりを見ると、さきほどの少女がゆっくりとブランコをこぎ出したところでした。

(早っ……)

公園の入り口のところから、目を離した数秒の所業です。
どんなに全力疾走したとしても、考えられないほどの速度。

おまけに女の子は浴衣に下駄で、どうしたってそんな速さで走れるとは思えません。

ギィ、ギィ、とブランコをこぐ少女は、
なんの感情もうかばない顔で、前をむいて揺れています。

いたって普通であるのに、だからこそわき上がる、うす気味の悪さ。

オレはギコギコとブランコを揺らしながら、
そっと横目で彼女の足が存在するかを盗み見ました。

(ある。……たしかに、二本)

それに、彼女はとてもお化けとは思えないほどハッキリと輪郭があります。
ホラー番組で見るような、おどろおどろしい顔もしていません。

考えすぎ、考えすぎなんだ、と自分自身に言い聞かせて、
オレはふたたび、強くブランコをこぎ出しました。

ギーコ、ギーコ、と鎖をはげしく鳴らしていると。

気になったのでしょうか。ふと、少女がこちらを見ている気配がしました。

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