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103.もらい物のFAX③(怖さレベル:★★★)
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「うん、まさかそんな……ねぇ?」
イヤな想像をふり払うように、あたしも頷いた、その時。
ガガガ……
再び、FAX機器が作動し始めました。
「え、ちょ……ウソでしょ?」
声が裏返るのをおさえきれず、よたよたとあたしは後ずさりました。
他の二人も恐怖によるものか、
目玉がとびださんばかりに機器を凝視しています。
「……っ」
印字されてきた紙を、奥村さんが思い切ってひっくり返しました。
「え……これ」
それの表面を見て、多田野さんがけげんな声をあげます。
それもそのはず。それはさきほどの血しぶきまがいの印刷ではなく、
白い紙の中央に、ポツンと黒いシミが二つ、あるだけのものでした。
「は、はは……さっきのヤツより、怖くなくなったね」
どこか力が抜けて、あたしは乾いた笑い声を上げました。
「ね、ねぇ……もう帰りましょう! FAXは明日、どうするか決めればいいし」
多田野さんは、再度機械を見るのもイヤなようで、
そそくさと自分の机の方へと移動していってしまいます。
「そうだねぇ。奥村さん、上がろうか」
「そうねぇ……ん?」
ガガガ……
あたしたちも諦めてFAXの側から離れようとすると、
再び、稼働音が響いてきました。
どうせ、さきほどのイタズラのくり返し。
明日まとめて確認すればいいか、と気にせずに身支度を始めたのですが、
ガガガ……
ガガガ……
ガガガガ……
聞こえて来る印字の音が、いっこうに止まりません。
まるで壊れたレコードのように、ずっと同じ音を続ける機械。
はきだされる紙が、次々と排出口に溜まっていきます。
「あれ……どうします? イタズラにしてもタチ悪い……」
「うーん……コンセント、抜いちゃう?」
いくら客や得意先からなにか送られてくるかもしれないとはいえ、
このままでは、紙もインクもムダに消費される一方です。
もはやここまでくると、不気味さや恐怖よりも、
FAXを送ってくる相手のぶしつけさに腹が立って、
のっしのっしと大股で機械に近寄りました。
「まったく! なにを大量に送り付けて……」
怒りの声は、そこで途切れました。
何枚も、何枚も印刷されたそれ。
白い紙に、二つの黒いシミ。
それは、何枚も何枚も枚数を重ねるごとに――
ハッキリと、その物体の輪郭をあらわにしました。
「ひぃっ……!」
白と黒の濃淡であらわされた、男の顔。
目を見開き、口をだらしなくゆがめたその顔は、
とても生者のものとは思えぬおぞましさです。
まさにデスマスク。
死者の顔が、ハッキリと紙面には写されていました。
「なん……うわぁっ!?」
あたしの悲鳴をふしぎに思ったのでしょう。
奥村さんが後ろからそれを覗きこみ、腰をぬかしてしゃがみこみました。
ガガガ……
その間も、FAXは止まることなく流れ続けています。
ガガガガ……
新しい紙が印刷されるたび。
新しい紙が、上に重なっていくたびに。
男のゆがんだ死に顔は、くっきりと、目元の小さなシワの一本まで
わかるように、鮮明に、濃密に印刷されていきます。
まるで、怨念を体現するかのように。
まがまがしいなにかを、送りつけようとでもするかのように――。
ガガガ……プツッ
「……あ」
と、振動していたFAXが、突如停止しました。
シン、と静けさに包まれる社内。
苦し紛れにはきだされた一枚が、ヒラ、と排出口に収まりきらずに床に落下します。
状況が理解できず、ポカンと固まるあたしと奥村さんの目の前で、
「これで……大丈夫、ですかね」
多田野さんが、機械のコンセントを掴んで立っていました。
翌日……判明したこと、なんですがねぇ。
例のアルバイトの子……佐山くん、ね。
名簿から調べて、念のためと思って連絡をいれたんだけど、つながらなくて。
一応、イタズラだとは思うけどと前置いて、社長にも相談したら、
血気盛んなうちの社長は「たしかめて来るわ!」ととび出していってしまいまして。
奥村さんや多田野さんと、大丈夫かなぁ、なんて心配をしていたら、
それから四時間も経った頃ですかねぇ……電話がかかってきて。
受話器をとった奥村さんが、なにやらいろいろと話こんだ後、
電話を終えて、神妙な顔で言ったんです。
「……亡くなってた、って。あの、佐山って子」と。
それからすぐに戻ってきた社長は、
興奮と落胆、そして戸惑いを含んだ口調で事情を話し始めました。
住所登録されていたアパートへ向かったところ、何度ノックしても無反応。
不在なのか、とドアを開けたら、カギがかかっていなかったそうで。
ちくしょう居留守か、と怒り心頭でなかへ飛び込んだら――
奇妙な姿で倒れ伏している、彼の姿を発見したのだと。
フローリングにひっくり返ったノートパソコン。
それに接続された、床に直置きのスキャナー機器。
そのフタ部分と液晶画面に頭をはさみこみ、
四肢をぐんにゃりと拡げて脱力した体。
どう見ても普通ではないそれに、
慌てて社長は救急車を呼んだ、といういきさつだったようでした。
残念ながら、すでに彼は息がなく、不審死と言うことで警察も入り、
社長にはもちろん、うちの事務所にも警察がやってきました。
とはいっても、聴取されても話せる内容など怪奇現象まがいのことだけで、
一連の流れは説明したものの、話を聞いた警官も苦笑いするばかりでした。
結局その後、突然死として処理された、と聞いています。
……あの日。二度目のFAXを受信した、あの時。
偶然、スキャナーに頭を挟みこみ。
偶然、そのタイミングで心臓が止まり。
偶然、それがかつてアルバイトしていた会社に送られてきた。
そんな偶然……ほんとうにあり得るのでしょうか。
それに、それ以前に送られてきた血痕のイタズラ。
あれだって、いったいどういう意図だったというのでしょう。
彼が挟まっていた、スキャナーですが……。
あれも……あの、ゴミ屋敷からもらってきた品物だったようなんです。
偶然の一致としては……あまりにも、できすぎていますよね。
さすがに奥村さんや社長も、あれをそのまま使用し続ける気にはならなかったようで、
事件後すぐに新品を購入し、例の機械は廃棄処分となりました。
……やはり、あの家は曰く付きの家、だったのでしょうか。
それとも、最初から最後まで、ただの偶然、だったのでしょうか。
あの日、最後に見たデスマスクのFAX。
……今でも、とても忘れられません。
イヤな想像をふり払うように、あたしも頷いた、その時。
ガガガ……
再び、FAX機器が作動し始めました。
「え、ちょ……ウソでしょ?」
声が裏返るのをおさえきれず、よたよたとあたしは後ずさりました。
他の二人も恐怖によるものか、
目玉がとびださんばかりに機器を凝視しています。
「……っ」
印字されてきた紙を、奥村さんが思い切ってひっくり返しました。
「え……これ」
それの表面を見て、多田野さんがけげんな声をあげます。
それもそのはず。それはさきほどの血しぶきまがいの印刷ではなく、
白い紙の中央に、ポツンと黒いシミが二つ、あるだけのものでした。
「は、はは……さっきのヤツより、怖くなくなったね」
どこか力が抜けて、あたしは乾いた笑い声を上げました。
「ね、ねぇ……もう帰りましょう! FAXは明日、どうするか決めればいいし」
多田野さんは、再度機械を見るのもイヤなようで、
そそくさと自分の机の方へと移動していってしまいます。
「そうだねぇ。奥村さん、上がろうか」
「そうねぇ……ん?」
ガガガ……
あたしたちも諦めてFAXの側から離れようとすると、
再び、稼働音が響いてきました。
どうせ、さきほどのイタズラのくり返し。
明日まとめて確認すればいいか、と気にせずに身支度を始めたのですが、
ガガガ……
ガガガ……
ガガガガ……
聞こえて来る印字の音が、いっこうに止まりません。
まるで壊れたレコードのように、ずっと同じ音を続ける機械。
はきだされる紙が、次々と排出口に溜まっていきます。
「あれ……どうします? イタズラにしてもタチ悪い……」
「うーん……コンセント、抜いちゃう?」
いくら客や得意先からなにか送られてくるかもしれないとはいえ、
このままでは、紙もインクもムダに消費される一方です。
もはやここまでくると、不気味さや恐怖よりも、
FAXを送ってくる相手のぶしつけさに腹が立って、
のっしのっしと大股で機械に近寄りました。
「まったく! なにを大量に送り付けて……」
怒りの声は、そこで途切れました。
何枚も、何枚も印刷されたそれ。
白い紙に、二つの黒いシミ。
それは、何枚も何枚も枚数を重ねるごとに――
ハッキリと、その物体の輪郭をあらわにしました。
「ひぃっ……!」
白と黒の濃淡であらわされた、男の顔。
目を見開き、口をだらしなくゆがめたその顔は、
とても生者のものとは思えぬおぞましさです。
まさにデスマスク。
死者の顔が、ハッキリと紙面には写されていました。
「なん……うわぁっ!?」
あたしの悲鳴をふしぎに思ったのでしょう。
奥村さんが後ろからそれを覗きこみ、腰をぬかしてしゃがみこみました。
ガガガ……
その間も、FAXは止まることなく流れ続けています。
ガガガガ……
新しい紙が印刷されるたび。
新しい紙が、上に重なっていくたびに。
男のゆがんだ死に顔は、くっきりと、目元の小さなシワの一本まで
わかるように、鮮明に、濃密に印刷されていきます。
まるで、怨念を体現するかのように。
まがまがしいなにかを、送りつけようとでもするかのように――。
ガガガ……プツッ
「……あ」
と、振動していたFAXが、突如停止しました。
シン、と静けさに包まれる社内。
苦し紛れにはきだされた一枚が、ヒラ、と排出口に収まりきらずに床に落下します。
状況が理解できず、ポカンと固まるあたしと奥村さんの目の前で、
「これで……大丈夫、ですかね」
多田野さんが、機械のコンセントを掴んで立っていました。
翌日……判明したこと、なんですがねぇ。
例のアルバイトの子……佐山くん、ね。
名簿から調べて、念のためと思って連絡をいれたんだけど、つながらなくて。
一応、イタズラだとは思うけどと前置いて、社長にも相談したら、
血気盛んなうちの社長は「たしかめて来るわ!」ととび出していってしまいまして。
奥村さんや多田野さんと、大丈夫かなぁ、なんて心配をしていたら、
それから四時間も経った頃ですかねぇ……電話がかかってきて。
受話器をとった奥村さんが、なにやらいろいろと話こんだ後、
電話を終えて、神妙な顔で言ったんです。
「……亡くなってた、って。あの、佐山って子」と。
それからすぐに戻ってきた社長は、
興奮と落胆、そして戸惑いを含んだ口調で事情を話し始めました。
住所登録されていたアパートへ向かったところ、何度ノックしても無反応。
不在なのか、とドアを開けたら、カギがかかっていなかったそうで。
ちくしょう居留守か、と怒り心頭でなかへ飛び込んだら――
奇妙な姿で倒れ伏している、彼の姿を発見したのだと。
フローリングにひっくり返ったノートパソコン。
それに接続された、床に直置きのスキャナー機器。
そのフタ部分と液晶画面に頭をはさみこみ、
四肢をぐんにゃりと拡げて脱力した体。
どう見ても普通ではないそれに、
慌てて社長は救急車を呼んだ、といういきさつだったようでした。
残念ながら、すでに彼は息がなく、不審死と言うことで警察も入り、
社長にはもちろん、うちの事務所にも警察がやってきました。
とはいっても、聴取されても話せる内容など怪奇現象まがいのことだけで、
一連の流れは説明したものの、話を聞いた警官も苦笑いするばかりでした。
結局その後、突然死として処理された、と聞いています。
……あの日。二度目のFAXを受信した、あの時。
偶然、スキャナーに頭を挟みこみ。
偶然、そのタイミングで心臓が止まり。
偶然、それがかつてアルバイトしていた会社に送られてきた。
そんな偶然……ほんとうにあり得るのでしょうか。
それに、それ以前に送られてきた血痕のイタズラ。
あれだって、いったいどういう意図だったというのでしょう。
彼が挟まっていた、スキャナーですが……。
あれも……あの、ゴミ屋敷からもらってきた品物だったようなんです。
偶然の一致としては……あまりにも、できすぎていますよね。
さすがに奥村さんや社長も、あれをそのまま使用し続ける気にはならなかったようで、
事件後すぐに新品を購入し、例の機械は廃棄処分となりました。
……やはり、あの家は曰く付きの家、だったのでしょうか。
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