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89.ゴミ屋敷の真実②(怖さレベル:★★☆)
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「いえ……そこまでお世話になるわけにはいきません。
ただでさえ、あの子が元気なとき、皆さんにはご迷惑をかけてきたんですし……」
「そんな、気にしなくっていいのよ。むしろ、
助けてあげられなくって申し訳ない、ってみんな思っていたんだから」
不良息子を放っておいて、なんて陰口をたたく人も確かにいましたが、
家庭内の問題ということで、手出しできないことを歯がゆく思っている人だっていました。
「……ありがとうございます。本当に……どうにもできなくなったら、お願いします……」
奥さんはあいまいに頷いて、そのまま家の中へと戻って行ってしまいました。
しかし、それからも。
家のゴミは、どんどん積み重なっていきました。
臭いはもちろん、見たことのない虫まで、
こっちに飛んでくる始末。
うちは付き合いも長いですし、文句なんて言いませんでしたけど、
反対側のうちは堪忍袋の緒が切れたのでしょうね。
ある日、そこのうちに乗り込んでいったんです。
この辺を取りまとめている区長さんと深い付き合いのある家だったもんで、
ほかの家じゃ止められなくってねぇ。
いや……結果的には、止めなくて正解だった、といえるんでしょう。
……亡くなっていたんです。
ええ……あの、ゴミの中で。
あの若夫婦が施設に送ったといっていた、老夫婦二人。
他県に進学と就職をしたと言っていた、孫二人。
その四人が、ゴミの……ゴミ袋の中で。
積もり積もったゴミ溜めのビニール袋袋の中で、
干からびた状態で、放り込まれていたのだと。
……そして、あの、暴力息子。
あれはね……生きていたんですよ。
ゴミで塞がれた一階の階段をかろうじて上った、二階。
窓を鉄柵で内側らか目張りされ、
扉に厳重にカギを設置された部屋の中。
すでにカギは開いており、
彼はひどく憔悴した様子だったそうですが、
……ああ、若夫婦二人はどうしたのか、って?
亡くなっていましたよ。……その、暴力息子の部屋の内側で、ね。
なんでも……えぇ、なんとも言葉で伝えにくいのですがね。
あんまりにも、あの息子が暴れるもんでしょう。
最初は、婆さんが気が狂って刃物でその息子に飛び掛かったのが始まりだそうで。
それをかばった母親が、誤って婆さんを殺してしまったのだとか。
爺さんがそれを見て、頭がいかれちまって、
無防備だった孫二人を殺し、自分の腹を掻っ捌いて自害してしまったんだそうです。
そんなモンを目の前で見せられたもんだから、
さすがの暴力息子だってショックだったのでしょう。
茫然自失状態に陥ったところを、
父によって軟禁されてしまったそうなのです。
そして食事や水分補給の数も制限され、
憔悴してこのまま死んでいくのかと絶望していた時、
昨夜突如、母が部屋に飛び込んできたのだそうです。
解放してもらえるのかと希望を頂いて早々、
母は父の死体を引きずって入ってきて、
息子の目の前で、包丁で己の首を突いたのだと。
最期の言葉に「お父さんが理解してくれない」と言い残して。
……なんとも、恐ろしく悲しい話でしょう。
とはいっても……今の話は、すべて生き残った息子が語った話。
己が家族を殺したのを、ごまかす為の作り話、そう言った人もいました。
でも……ねぇ。わたしはそうは思わないんですよ。
あの、反対側のうちが恩頭さんの家を訪ねる日の前日。
わたしは奥さんの姿を見ているんです。
いつものように挨拶をしても、いっさい見向きもしないので、
おかしいなぁと首を傾げていたんですよ。
しかし、よくよく耳を澄ますとね、彼女、
暗い顔でひたすらおんなじ言葉をくりかえしていたんですよ。
「お父さんが理解してくれない。お父さんが理解してくれない」と。
推測ではありますが、おそらく旦那さんは、
すべてを隠し通すことに限界を感じていたのでしょう。
それを奥さんは許せなかった。
いや、最後まで子どもを守り抜きたかったのかもしれません。
あの大量のゴミの山は、
世俗から息子を守る、ボロボロの盾だったのか、
祖父母と子ども二人を死なせてしまった、罪の意識を必死で覆い隠そうとする鎧だったのか。
図らずも、そうまでして守りたかったとうの暴力息子は、
栄養失調で入院させられた病院から脱走し、
森の中で首をくくってしまったそうですが。
えぇ、えぇ……悲しい、悲しい話ですよ。
誰にも、救いすらなかった。
……もう二度と、同じことは起きてほしくないもんです。
ただでさえ、あの子が元気なとき、皆さんにはご迷惑をかけてきたんですし……」
「そんな、気にしなくっていいのよ。むしろ、
助けてあげられなくって申し訳ない、ってみんな思っていたんだから」
不良息子を放っておいて、なんて陰口をたたく人も確かにいましたが、
家庭内の問題ということで、手出しできないことを歯がゆく思っている人だっていました。
「……ありがとうございます。本当に……どうにもできなくなったら、お願いします……」
奥さんはあいまいに頷いて、そのまま家の中へと戻って行ってしまいました。
しかし、それからも。
家のゴミは、どんどん積み重なっていきました。
臭いはもちろん、見たことのない虫まで、
こっちに飛んでくる始末。
うちは付き合いも長いですし、文句なんて言いませんでしたけど、
反対側のうちは堪忍袋の緒が切れたのでしょうね。
ある日、そこのうちに乗り込んでいったんです。
この辺を取りまとめている区長さんと深い付き合いのある家だったもんで、
ほかの家じゃ止められなくってねぇ。
いや……結果的には、止めなくて正解だった、といえるんでしょう。
……亡くなっていたんです。
ええ……あの、ゴミの中で。
あの若夫婦が施設に送ったといっていた、老夫婦二人。
他県に進学と就職をしたと言っていた、孫二人。
その四人が、ゴミの……ゴミ袋の中で。
積もり積もったゴミ溜めのビニール袋袋の中で、
干からびた状態で、放り込まれていたのだと。
……そして、あの、暴力息子。
あれはね……生きていたんですよ。
ゴミで塞がれた一階の階段をかろうじて上った、二階。
窓を鉄柵で内側らか目張りされ、
扉に厳重にカギを設置された部屋の中。
すでにカギは開いており、
彼はひどく憔悴した様子だったそうですが、
……ああ、若夫婦二人はどうしたのか、って?
亡くなっていましたよ。……その、暴力息子の部屋の内側で、ね。
なんでも……えぇ、なんとも言葉で伝えにくいのですがね。
あんまりにも、あの息子が暴れるもんでしょう。
最初は、婆さんが気が狂って刃物でその息子に飛び掛かったのが始まりだそうで。
それをかばった母親が、誤って婆さんを殺してしまったのだとか。
爺さんがそれを見て、頭がいかれちまって、
無防備だった孫二人を殺し、自分の腹を掻っ捌いて自害してしまったんだそうです。
そんなモンを目の前で見せられたもんだから、
さすがの暴力息子だってショックだったのでしょう。
茫然自失状態に陥ったところを、
父によって軟禁されてしまったそうなのです。
そして食事や水分補給の数も制限され、
憔悴してこのまま死んでいくのかと絶望していた時、
昨夜突如、母が部屋に飛び込んできたのだそうです。
解放してもらえるのかと希望を頂いて早々、
母は父の死体を引きずって入ってきて、
息子の目の前で、包丁で己の首を突いたのだと。
最期の言葉に「お父さんが理解してくれない」と言い残して。
……なんとも、恐ろしく悲しい話でしょう。
とはいっても……今の話は、すべて生き残った息子が語った話。
己が家族を殺したのを、ごまかす為の作り話、そう言った人もいました。
でも……ねぇ。わたしはそうは思わないんですよ。
あの、反対側のうちが恩頭さんの家を訪ねる日の前日。
わたしは奥さんの姿を見ているんです。
いつものように挨拶をしても、いっさい見向きもしないので、
おかしいなぁと首を傾げていたんですよ。
しかし、よくよく耳を澄ますとね、彼女、
暗い顔でひたすらおんなじ言葉をくりかえしていたんですよ。
「お父さんが理解してくれない。お父さんが理解してくれない」と。
推測ではありますが、おそらく旦那さんは、
すべてを隠し通すことに限界を感じていたのでしょう。
それを奥さんは許せなかった。
いや、最後まで子どもを守り抜きたかったのかもしれません。
あの大量のゴミの山は、
世俗から息子を守る、ボロボロの盾だったのか、
祖父母と子ども二人を死なせてしまった、罪の意識を必死で覆い隠そうとする鎧だったのか。
図らずも、そうまでして守りたかったとうの暴力息子は、
栄養失調で入院させられた病院から脱走し、
森の中で首をくくってしまったそうですが。
えぇ、えぇ……悲しい、悲しい話ですよ。
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