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86.助ける男①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
あ、どうも、こんにちは。
以前、バイト先であったちょっとした出来事についてお話をさせて頂いた者です。
今回も……私が目撃した、いえ、巻き込まれたとある事件。
その一連のお話をさせて頂きたいと思います。
最初の事件は、私が県内でも有数のショッピングモールにでかけたときに起きました。
(えーっと……あと、ここと……あっちにもよっていけばOKね)
その日は、ちょうど夏物の最終セールの時期。
ちょうどバイト休みに被った私は、これ幸いと買い物計画を立てて、
上機嫌で各ショップを巡っていました。
セールのカラフルな垂れ幕があちこちに下げられ、
三連休の最終日という状況も重なれば、通路も店内もごった煮状態。
お祭り騒ぎが苦手な自分にとって少々息苦しさはありましたが、
それよりなにより、お得に買い物できることが一番。
効率を考えて順番まで決めて、順調にショップの商品をチェックしていきました。
(ふー……疲れた。あとは食料品だけね)
目的の洋服や靴のショッピングは終わり、
一度重くなった荷物を片付けようと、車に戻るためにエスカレーターを下っていた時です。
パタパタパタ……
下りのエスカレーターの段差を、小学生くらいの男の子が
はしゃぎながら駆け下りていきました。
「わっ……!」
あまりの勢いに、段差に並ぶ人たちにぶつかりそうになりつつ、
続くようにして同い年くらいの子どもたちが二人、三人と駆け下りていきます。
(危ないなぁ……)
友だちと鬼ごっこでもしているのか、ろくに足元も確認せずに
ポンポンと飛ばし飛ばし下っていく姿は、はた目に見てもかなり危うげです。
見かねた誰かが注意しようとしても、子どもの身軽さで
声をかけられる前にタタタッと走り去っていってしまいます。
ちゃんと親が見てなくて大丈夫なのかなぁ、と
イラつき半分、心配半分でひょいひょい下りていく姿を眺めていると。
「まって、まってよ~っ!」
「おっせーんだよ、バカ!」
三階のエスカレーターを下りきり、二階へ下るところののり口で、
リーダーらしき少年が動きの遅い少女をなじっていました。
(あぁ……あの子、ガキ大将か)
もはや出るのは呆れ半分のため息のみ。
ひょこひょこと危なっかしい足取りで、その子に従って後を追う子どもたちを見つめていると、
とりわけ遅い、さきほども罵声を浴びせられていた女の子が、わたわたと焦って半べそをかきだしました。
「ねぇーっ! ちょっと、ちょっと待ってよ!」
「おいトロ助! 早くしろっての!」
そのリーダー格の少年が、イラついた口調で
フッとその少女の方を見上げた瞬間。
「あッ」
ただでさえ動いているエスカレーター。
そこで跳ねまわりつつ、上へ目を向けたものだから、
その少年は――ツルリ、と足を踏みはずしてしまったのです。
「っ、危ない!!」
子どもの足が宙をかき、エスカレーターの傾斜そのままに
真っ逆さまに転がり落ち――
「あっ」
ぐい、と。
周囲が息を飲んだその刹那。
細い腕が――その少年の危機を救いました。
「ターちゃん!」
「タツ、大丈夫か!?」
仲間らしき子どもたちが、その少年の名前を呼びつつ駆け寄っていきます。
エスカレーターから下り、呆然と立ち尽くす
その少年の周りには、大人たちが集まってきました。
その中には、今しがた彼を救った腕の主――
黒衣の男性の姿もありました。
「あんた、エラいねぇ! よく助けられたモンだよ」
「ホント。君、この人に救われたんだよ。ちゃんとお礼言っときなさい!」
おばちゃん二人が子どもたちに説教しつつ、
傍らのその男性をひたすらに褒めたたえています。
ヒョロっとやせ型で、黒の半袖ニットに同色のスラックス。
黒ぶちの太いメガネをかけた、猫背気味の少々陰鬱な雰囲気をまとった男性。
あの瞬間、エレベーターから宙へダイブした子どもは、
彼の助けがなければ、おそらく頭からゴロゴロと地上に落下していたでしょう。
そうなっていたら、この休日で明るく賑わうショッピングモールが、
阿鼻叫喚の嵐となったに違いありません。
しかし、そんなおばちゃんたちの誉め言葉は聞こえているのかいないのか、
彼はゆっくりと首を揺らして、もごもごとなにやら曖昧な反応をするのみです。
(ま……私には関係ない、か。あの子……助かってよかったけど)
とりあえず、大ごとにならずにすんだことを確認し、
私はそれに関わることなく、その場から離れたのです。
>>
あ、どうも、こんにちは。
以前、バイト先であったちょっとした出来事についてお話をさせて頂いた者です。
今回も……私が目撃した、いえ、巻き込まれたとある事件。
その一連のお話をさせて頂きたいと思います。
最初の事件は、私が県内でも有数のショッピングモールにでかけたときに起きました。
(えーっと……あと、ここと……あっちにもよっていけばOKね)
その日は、ちょうど夏物の最終セールの時期。
ちょうどバイト休みに被った私は、これ幸いと買い物計画を立てて、
上機嫌で各ショップを巡っていました。
セールのカラフルな垂れ幕があちこちに下げられ、
三連休の最終日という状況も重なれば、通路も店内もごった煮状態。
お祭り騒ぎが苦手な自分にとって少々息苦しさはありましたが、
それよりなにより、お得に買い物できることが一番。
効率を考えて順番まで決めて、順調にショップの商品をチェックしていきました。
(ふー……疲れた。あとは食料品だけね)
目的の洋服や靴のショッピングは終わり、
一度重くなった荷物を片付けようと、車に戻るためにエスカレーターを下っていた時です。
パタパタパタ……
下りのエスカレーターの段差を、小学生くらいの男の子が
はしゃぎながら駆け下りていきました。
「わっ……!」
あまりの勢いに、段差に並ぶ人たちにぶつかりそうになりつつ、
続くようにして同い年くらいの子どもたちが二人、三人と駆け下りていきます。
(危ないなぁ……)
友だちと鬼ごっこでもしているのか、ろくに足元も確認せずに
ポンポンと飛ばし飛ばし下っていく姿は、はた目に見てもかなり危うげです。
見かねた誰かが注意しようとしても、子どもの身軽さで
声をかけられる前にタタタッと走り去っていってしまいます。
ちゃんと親が見てなくて大丈夫なのかなぁ、と
イラつき半分、心配半分でひょいひょい下りていく姿を眺めていると。
「まって、まってよ~っ!」
「おっせーんだよ、バカ!」
三階のエスカレーターを下りきり、二階へ下るところののり口で、
リーダーらしき少年が動きの遅い少女をなじっていました。
(あぁ……あの子、ガキ大将か)
もはや出るのは呆れ半分のため息のみ。
ひょこひょこと危なっかしい足取りで、その子に従って後を追う子どもたちを見つめていると、
とりわけ遅い、さきほども罵声を浴びせられていた女の子が、わたわたと焦って半べそをかきだしました。
「ねぇーっ! ちょっと、ちょっと待ってよ!」
「おいトロ助! 早くしろっての!」
そのリーダー格の少年が、イラついた口調で
フッとその少女の方を見上げた瞬間。
「あッ」
ただでさえ動いているエスカレーター。
そこで跳ねまわりつつ、上へ目を向けたものだから、
その少年は――ツルリ、と足を踏みはずしてしまったのです。
「っ、危ない!!」
子どもの足が宙をかき、エスカレーターの傾斜そのままに
真っ逆さまに転がり落ち――
「あっ」
ぐい、と。
周囲が息を飲んだその刹那。
細い腕が――その少年の危機を救いました。
「ターちゃん!」
「タツ、大丈夫か!?」
仲間らしき子どもたちが、その少年の名前を呼びつつ駆け寄っていきます。
エスカレーターから下り、呆然と立ち尽くす
その少年の周りには、大人たちが集まってきました。
その中には、今しがた彼を救った腕の主――
黒衣の男性の姿もありました。
「あんた、エラいねぇ! よく助けられたモンだよ」
「ホント。君、この人に救われたんだよ。ちゃんとお礼言っときなさい!」
おばちゃん二人が子どもたちに説教しつつ、
傍らのその男性をひたすらに褒めたたえています。
ヒョロっとやせ型で、黒の半袖ニットに同色のスラックス。
黒ぶちの太いメガネをかけた、猫背気味の少々陰鬱な雰囲気をまとった男性。
あの瞬間、エレベーターから宙へダイブした子どもは、
彼の助けがなければ、おそらく頭からゴロゴロと地上に落下していたでしょう。
そうなっていたら、この休日で明るく賑わうショッピングモールが、
阿鼻叫喚の嵐となったに違いありません。
しかし、そんなおばちゃんたちの誉め言葉は聞こえているのかいないのか、
彼はゆっくりと首を揺らして、もごもごとなにやら曖昧な反応をするのみです。
(ま……私には関係ない、か。あの子……助かってよかったけど)
とりあえず、大ごとにならずにすんだことを確認し、
私はそれに関わることなく、その場から離れたのです。
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