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83.廃駅の肝試し②(怖さレベル:★★★)

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すでに日も落ちた、夜の十時過ぎ。

原の頼りない記憶と、ネット上の心霊スポットを照らし合わせた結果、
たどり着いたのはかなり趣のある、古びた廃線でした。

十年前に廃れたというそこに向かうには、
砂利の駐車場からさらに森の中を通って行かなくてはなりません。

懐中電灯のライトでぼんやり照らされた、
廃駅へとつながる山中の細道。

夜の森は、見知らぬ鳥の掠れた鳴き声に、ガサガサ草木を鳴らす謎の音、
薄っすらとさざめく虫の声と、静けさの中にさまざまな雑音が紛れています。

半月のわずかばかりの月明かりでは、
とてもその不気味さをかき消してはくれません。

オレと水島が、車から降りたはいいものの、
それ以上進むのをためらっていると、

「……あっ!」

小さく声を上げた原が、サッと視界から外れました。

「おいっ、どこ行くんだよ!」

慌てて引き留めようとした手をすり抜けて、
奴はその砂利の広場の奥へと走っていきました。

「これ! ……やっぱりそうだ。先輩の……」

原は、その奥の木の陰に隠れるようにして停まっていた
黒い固まりの脇で、ボソボソと何ごとかを呟いています。

「おい、原? ……って、うわ」

オレたちもつられるようにしてそれに近づけば、
その極度に汚れた物体が、一台の車であることがわかりました。

「これ……先輩の車だよ」
「はっ? ……これが?」

まじまじとその車の全体像を眺め、
オレは失礼ながら疑惑の声を上げました。

「あぁ、間違いねぇよ。車種も、ナンバーだって一緒だし」
「昨日……だよな? 来た、っつってたの。
 ……ちょっとコレ……汚れ、ヤバくねぇか」

水島も、少々引き気味に後ずさりました。

というのも、その車はとても現役で道路を走行できるとは思えぬほど、
薄茶けた砂や、濡れたような黒い土にまだらに覆われていたんです。

元はシルバーであったのだろう車体の色も付着した汚れでススけた灰色に染まり、
フロントのワイパーの上には枯れ葉までもが積み重なって、
まるで長い間放置された廃車のような有様でした。

「い……イタズラだろ。ほら、
 有名な心霊スポットだし。他の肝試し連中にさ……」

オレが苦し紛れにそう誤魔化すも、原はサッと表情を曇らせて、

「先輩たち、まだここにいるってことだよな……
 他に車もないし。……ホントにイタズラ、なんかな」
「…………」

今まで何度か体験した幽霊騒動が、
否応なく脳内にフラシュバックしました。

丸一日、この廃駅で帰宅せずにいったい何をしているのでしょう。

森の中で迷子にでもなってしまったのか。
まさか、不審者にでもさらわれてしまったのか。

彼女の車が、こんなに古ぼけた状態になっているのか、
なにか悪い暗示なのではないか。

イヤな予感が疾風のように全身に駆け巡りました。

「……ま、ここでジッとしてても仕方ないな。行くならとっとと行こーぜ」

黙り込んだオレたちを見かねてか、水島がカバンから
防災用のゴツい懐中電灯を取り出しつつ明るい声を上げました。

「そーだな。ちょっとその駅周辺を見て回って、
 見つかんなかったら警察に連絡しよう。
 車だって放置されてるし、イタズラとは思われねぇだろ」

もし本当に彼女らが遭難していたとしたら、
ただの大学生三人ではとても手に負えません。

「だな。……よし、行くぜ」

原もLED式の煌々と光る懐中電灯をひっさげて深呼吸しています。

オレも心もとないながら、熊よけの鈴を装着して、
暗い森の奥へと足を進めました。



山中を三人で恐々進み続けて約十分。
あっけないほど簡単に、目的の駅舎へたどり着きました。

「……うわ」

半月のわずかばかりの光源と、懐中電灯による人工的な明かりに
映し出された廃駅は、空恐ろしいほどの存在感を放っていました。

かつては白かったであろう壁にはみっしりとツタが這いずり、
欠けて色あせた部分にまでコケが浸食しています。

駅名の書かれた看板もすっかりペンキが剥がれ落ち、
風が吹くたびにパラパラと粉が舞っていました。

しかし、駅自体はさほど大きなものではなく、
よくある田舎の無人駅――といえばわかりやすいでしょうか。

急遽照明で照らされた為か、蛾だか羽虫だかがバサバサと飛び出してきて、
こちらの周りにまとわりついてきます。

「むっ、虫、多ッ」
「森ん中だしな……つーか、ホント不気味だな、ココ」

木々の合間にはただただ真っ黒い闇が広がり、
その隙間をぬう風がヒュウヒュウと暗い音色を奏でています。

駅の廃れ具合とも相まって、その奥からカマを携えた死神の一体でも
現れかねない、不吉な雰囲気を醸し出していました。

「つーか、ここ何で心霊スポットなんだ? 薄気味悪いっちゃ悪いけど……」

確かに暗いし、なんとなく不吉な感じがしないでもありません。
しかし、夜の森など、おそらくどこも同じようなモノ。

何か特別な曰くでもあるのかと原に向き直れば、
奴はム、と唇を尖らせました。

「聞いて後悔すんなよ」
「そっ……そんなヤバい話なのか?」
「まーな」

原はライトでスッと足元を照らし、
ボソボソと潜めた声で話し始めました。

「ここ……廃駅っつっても、かなり簡素だろ?
 もちろん人も運んでたみたいだけど、貨物運送っつーの?
 物資の運搬がメインの路線だったらしいんだよ」

普段は阿呆まるだし、といった風情の奴の口から、
珍しく丁寧な説明が語られます。

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