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73.マンションでの失踪事件②(怖さレベル:★☆☆)

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「えっ……帰ってない、ですか」

すでに時刻は二十二時を回った頃。

夜の闇がすっぽりと街を覆い、
秋の終わりの季節、外は木枯らしが吹きすさんでいます。

そんな夜にもたらされたその知らせは、
私を絶句させるには十分すぎるほどでした。

『ええ……ミエ、学校から集団下校で帰ってきたみたいなんですが……
 それ以降、行方がわからなくて』

そんな声を漏らす彼女の母は、明らかに憔悴しています。
おそらく、今までずっと探し続けていたのでしょう。

「今日、ミエちゃんの姿は見ていませんが……私も探すのを手伝います。
 それに、うちを捜索して下さっても構いません」
『えっ、い、いえ、そんな……』

電話口の彼女の母からは遠慮が感じられたが、
おそらく、多少は私に疑いを持っているだろうと思ったのです。

旦那も子どももいない独り身が、寂しさ余って誘拐。
よくありそうな話です。

私もまったく関係ない他人の立場であれば、
間違いなく疑う対象でしょう。

「警察へは連絡したんですか?」
『はい……一応は……』
「わかりました。今はご自宅ですね? すぐ伺います」

なにはともあれ、話を聞かないことにはどうにも動けません。
私は部屋の片付けもほどほどに、すぐに隣室のミエちゃんのうちへと向かいました。



そして、結論から申しますと、彼女……ミエちゃんは
そのまま行方不明になってしまいました。

自宅マンションの近辺、中の良い友人宅。

学校周り、通学路……ひととおり探し回ったものの、
彼女の姿はどこにもなく。

一日たち、二日たってようやく、
警察も学校も本格的な失踪事件として腰を上げ、
様々な聞き取りや目撃情報の収集が行われることになりました。

当然ながら、ミエちゃんと親しかった私も疑いをかけられ、
家の捜索、アリバイ調査、動機の確認など、あらゆる取り調べをされました。

普段さしてやり取りのなかった近所の人たちも、今回ばかりは総出となり、
公園や空き家、山合など、あらゆる場所を捜索しました。

しかし、そんな甲斐も空しく、
ただただ、月日ばかりが無常に過ぎていったのです。

半年も音沙汰がないと、どこか諦めのような雰囲気が広まり、
表だった警察の調査も収束し、
ひっそりと少人数での捜索が続けられていました。

その頃になると、当初はあった家出や遭難という可能性は減り、
誘拐もしくは事件に巻き込まれたのではないか、
という噂が立ち込めるようになっていました。

その渦中にさらされていたミエちゃんのご両親の憔悴っぷりときたら、
もう可哀想で可哀想で見ていられないほど。

私も時間だけは余っていたものですから、できる限り彼女の捜索を手伝い、
ビラ配りや周辺パトロールやらも参加していました。

しかし、そんな我々の努力をあざ笑うかのように月日は過ぎ去り――
彼女が失踪したその日から、一年の歳月が経過しようとしていました。

「……ハァ」

私はその日、いつものように食料を買い込み、
スーパーからの帰り道を歩いていました。

夕刻を示す赤い夕陽が、バラの花びらのように
雲の中に散っていくのを眺めつつ、
マンションの横の三角公園を通り過ぎます。

今日も、そこには誰の姿もありません。

あの事件の後から、防犯の関係なのか、
ここで遊ぶ子どもはいなくなってしまって、
このうら寂しい景色はもはや見慣れたものです。

(……ミエちゃん)

いつもここでボーっと滑り台で足をぶらつかせていた彼女は、
私を見つけるとニコッと笑って、真っ先に駆け寄ってきてくれていました。

ビイィイン

「ッ!?」

足が弾けたかのようなしびれ。
あの、ひじを強打した時に感じるような、突如とした衝撃。

(ああ……医者、行ってなかった……!)

ミエちゃんが行方知れずになったショックと、
捜索手伝いの忙しさで、すっかりあの日に感じた
しびれのことなど忘れ去っていました。

一年以上放置していたとなれば、
もし脳梗塞かなにかの前兆であったのならば、
すでにかなりの進行になっているのでは。

私が、足の指から太ももまで至るそのビリビリ感に
一瞬オロオロと戸惑っていると、

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