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69.交霊術の失敗①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『20代女性 高坂さん(仮)』
私の、一人の友人の話をしたいと思います。
彼女はショウちゃんと言って、私の中学の頃からの友人で、
その、何と言いますか、けっこうな変わり者でした。
というのも、強烈なかまってちゃん、だったんです。
中二病、とでも言いますか、
自分が”変わっている”ことを誇るようなところがありまして。
かく言う私も人見知りなタイプで、あまり友人が多くなかったところ、
偶然好きなゲームが同じで会話をするようになり、そこから仲良くなったんです。
彼女は会話がすごく面白く、ふだんの付き合いではとても良い友人なのですが、
先述した通り、自分に注目が当たっていないと不機嫌になるきらいもあり、
クラスの中では浮いてしまうこともしばしばでした。
そんな彼女ですが、夏休みあけに登校してそうそう、
妙なコトを言い出したことがありました。
曰く、
「私、霊感が芽生えたの」
と。
詳しく話を伺うと、ある夢の中に先祖が現れ、
眠っていた力が目覚めたのだ、なんて言い出すのです。
(それって……)
その、どこか聞き覚えのあるような設定は、夏の間に
テレビで放映されていた映画かドラマかのワンシーンと同じでした。
少々ためらうようなその内容に、本人はいたって本気のようで、
さっそくどこぞに幽霊が見えるだの、
除霊の力があーだこーだ、などと言い出し始めたのです。
さすがの内容に、ふだんは笑って流す友人たちも引き気味の対応。
なにせ、すでに私たちは高校三年生です。
大学受験やら就職やらで大忙しの秋口。
そんな冗談に、皆、乗り気になれぬようでした。
「ね、タカちゃんは信じてくれるでしょ?」
「えっ? う、うん……」
彼女は周りの誰からも望むリアクションが返ってこなかったのが不満らしく、
私に食い気味で問いかけてきました。
内心、正直に言うとほぼほぼ信じていませんでしたが、
彼女の勢いに押され、思わず頷いてしまったのです。
「やっぱり! タカちゃんなら信じてくれると思ってた!」
と、手放しに喜ぶ彼女に苦笑していると、
更にショウちゃんはとんでもないことを言ってきたんです。
「じゃあさ、一緒に交霊術やろうと」
と。
「……交霊術」
放課後の誰もいなくなった教室で、
私と彼女は互いに向かい合って座っていました。
夕暮れの差し込む教室は、それだけであれば青春の風景画であるのに、
これから執り行われようとしているのは、不釣り合いな闇の儀式。
(……って、こっくりさん、だけど)
そう。
机の上に置かれた紙には、五十音のひらがな。
そして、はい・いいえ。
さらに、お決まりの鳥居のマーク。
「なつかしー、小学生の時。これ、禁止だったなぁ」
うちの出身校にはこっくりさん禁止令、などというものがあり、
用紙を所有するのはもちろん、
教室内でそれを行うこと自体がダメとされていました。
だから、友人の家でそれを試そうとして、
親にそれを取り上げられた、などという出来事もありました。
「これ、立派な交霊術だからね。
幽霊を呼び出して、私の神通力が通用するか試してやる」
彼女はがぜん乗り気で、ぐっと拳を握りしめています。
私はとても微妙な気分になりつつも、
彼女のそんな調子に振り回されるのはもういつものコト。
これでショウちゃんが満足するなら良いか、
と大人しく彼女の言うままに従いました。
「……こっくりさん、こっくりさん、こちらにお越しください」
10円硬貨の上に、ショウちゃんと私の指先。
ラクガキだらけの木の机の上。
互いに向かい合わせとなって、お決まりの言霊を唱えます。
「こっくりさん、こっくりさん、こちらにお越しください」
放課後の朱の差し込む中、照らされる私たちの姿。
細い影がスッと日の傾きで揺らぎ、
室内はただただ私たちの声だけが粛々と響いています。
「こっくりさん、こっくりさん、こちらにお越しください」
閉め切られた室内は蒸し暑く、じわりと額に汗がにじみます。
10円玉を指先がわずかに震わせるものの、
それは未だピクリとも反応しません。
「こっくりさん、こっくりさん……」
その文言が、いったい何度繰り返されたことでしょう。
「こっくりさん、こっくりさん……もう、ダメ!!」
ガタン!!
しびれを切らしたショウちゃんが、
蹴散らすようにイスから立ち上がりました。
「何、これ! いっさい動かないってどういうこと!?」
ブルブルと震える彼女の指はすでに硬貨から離れ、
白い頬は怒りによるものか真っ赤に染まっています。
「うーん……時間、それとも場所、かな?
もしくは人数が少なすぎる……とか」
私の少ない知識でも、これが本来、
どういう動きをするべきなのかは知っています。
ちまたにあふれる体験談は、たいていキツネの霊が出たとか、
誰それが憑りつかれただとかが大半で、
こうも動かないなんて、きっと彼女も塵ほども考えていなかったのでしょう。
>>
『20代女性 高坂さん(仮)』
私の、一人の友人の話をしたいと思います。
彼女はショウちゃんと言って、私の中学の頃からの友人で、
その、何と言いますか、けっこうな変わり者でした。
というのも、強烈なかまってちゃん、だったんです。
中二病、とでも言いますか、
自分が”変わっている”ことを誇るようなところがありまして。
かく言う私も人見知りなタイプで、あまり友人が多くなかったところ、
偶然好きなゲームが同じで会話をするようになり、そこから仲良くなったんです。
彼女は会話がすごく面白く、ふだんの付き合いではとても良い友人なのですが、
先述した通り、自分に注目が当たっていないと不機嫌になるきらいもあり、
クラスの中では浮いてしまうこともしばしばでした。
そんな彼女ですが、夏休みあけに登校してそうそう、
妙なコトを言い出したことがありました。
曰く、
「私、霊感が芽生えたの」
と。
詳しく話を伺うと、ある夢の中に先祖が現れ、
眠っていた力が目覚めたのだ、なんて言い出すのです。
(それって……)
その、どこか聞き覚えのあるような設定は、夏の間に
テレビで放映されていた映画かドラマかのワンシーンと同じでした。
少々ためらうようなその内容に、本人はいたって本気のようで、
さっそくどこぞに幽霊が見えるだの、
除霊の力があーだこーだ、などと言い出し始めたのです。
さすがの内容に、ふだんは笑って流す友人たちも引き気味の対応。
なにせ、すでに私たちは高校三年生です。
大学受験やら就職やらで大忙しの秋口。
そんな冗談に、皆、乗り気になれぬようでした。
「ね、タカちゃんは信じてくれるでしょ?」
「えっ? う、うん……」
彼女は周りの誰からも望むリアクションが返ってこなかったのが不満らしく、
私に食い気味で問いかけてきました。
内心、正直に言うとほぼほぼ信じていませんでしたが、
彼女の勢いに押され、思わず頷いてしまったのです。
「やっぱり! タカちゃんなら信じてくれると思ってた!」
と、手放しに喜ぶ彼女に苦笑していると、
更にショウちゃんはとんでもないことを言ってきたんです。
「じゃあさ、一緒に交霊術やろうと」
と。
「……交霊術」
放課後の誰もいなくなった教室で、
私と彼女は互いに向かい合って座っていました。
夕暮れの差し込む教室は、それだけであれば青春の風景画であるのに、
これから執り行われようとしているのは、不釣り合いな闇の儀式。
(……って、こっくりさん、だけど)
そう。
机の上に置かれた紙には、五十音のひらがな。
そして、はい・いいえ。
さらに、お決まりの鳥居のマーク。
「なつかしー、小学生の時。これ、禁止だったなぁ」
うちの出身校にはこっくりさん禁止令、などというものがあり、
用紙を所有するのはもちろん、
教室内でそれを行うこと自体がダメとされていました。
だから、友人の家でそれを試そうとして、
親にそれを取り上げられた、などという出来事もありました。
「これ、立派な交霊術だからね。
幽霊を呼び出して、私の神通力が通用するか試してやる」
彼女はがぜん乗り気で、ぐっと拳を握りしめています。
私はとても微妙な気分になりつつも、
彼女のそんな調子に振り回されるのはもういつものコト。
これでショウちゃんが満足するなら良いか、
と大人しく彼女の言うままに従いました。
「……こっくりさん、こっくりさん、こちらにお越しください」
10円硬貨の上に、ショウちゃんと私の指先。
ラクガキだらけの木の机の上。
互いに向かい合わせとなって、お決まりの言霊を唱えます。
「こっくりさん、こっくりさん、こちらにお越しください」
放課後の朱の差し込む中、照らされる私たちの姿。
細い影がスッと日の傾きで揺らぎ、
室内はただただ私たちの声だけが粛々と響いています。
「こっくりさん、こっくりさん、こちらにお越しください」
閉め切られた室内は蒸し暑く、じわりと額に汗がにじみます。
10円玉を指先がわずかに震わせるものの、
それは未だピクリとも反応しません。
「こっくりさん、こっくりさん……」
その文言が、いったい何度繰り返されたことでしょう。
「こっくりさん、こっくりさん……もう、ダメ!!」
ガタン!!
しびれを切らしたショウちゃんが、
蹴散らすようにイスから立ち上がりました。
「何、これ! いっさい動かないってどういうこと!?」
ブルブルと震える彼女の指はすでに硬貨から離れ、
白い頬は怒りによるものか真っ赤に染まっています。
「うーん……時間、それとも場所、かな?
もしくは人数が少なすぎる……とか」
私の少ない知識でも、これが本来、
どういう動きをするべきなのかは知っています。
ちまたにあふれる体験談は、たいていキツネの霊が出たとか、
誰それが憑りつかれただとかが大半で、
こうも動かないなんて、きっと彼女も塵ほども考えていなかったのでしょう。
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