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49.田んぼに広がる人形群②(怖さレベル:★★☆)
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「んー……う、わっ」
まじまじとその群れを見て、俺は小さく声を上げました。
その大量のこけしモドキたちは、確かにわずかに動いているのです。
なんといえばいいのか、その人形の折り重なるなかほどが、
まるで脈打つようにざわざわと、蠢いているのです。
「や、やべぇ……」
「だ、だせ車! 早く!」
宮田が焦ったように指示するそれに、俺は言われるがままアクセルを踏もうとして、
「……ん?」
目前に見えた景色がグラリと崩れたのに気づきました。
「え、あ?」
宮田までもが、ぽかんと大口を上げてそれを眺めました。
「ひ……人?」
そうなのです。例のこけしモドキの蠢いていた場所の真下から、
ガラッと人形たちを押しのけて、本物の人が現れました。
「なんだ……人がいたのか」
「はー……ビビって損したぁ」
二人揃って互いのマヌケさに大きくため息を吐きました。
なんてことはない、アレが動いて見えていたのは、
その下に人がいたからです。
人形たちが動いていたわけではなく、あの男性――
おそらく五十代くらいの細身の――がいたから、
蠢いているように見えた、ただそれだけだったんです。
「さ、怖いモンじゃねぇってわかったことだし、サッサと行くか」
俺が再び車のアクセルを踏み出そうとした時、
ふいに宮田がボソリと呟きました。
「つーか……あの人、あんなトコでなにしてんのかな」
「……あ?」
「だってさ、明らかに農作業じゃねぇじゃん。しかも、
積み重なってる人形の中から出てくるって……おかしいだろ!」
と、宮田は気味悪そうに再び人形たちの方へ視線を向けて、
ビクッと身体を強ばらせました。
「ッオイ! 車、早く出せ!」
「お、おお……わかったよ」
彼の形相に煽られ、慌てて車を走らせ始めます。
「もっと早く!」
「ちょ……おい、どうしたよ」
「あの人! こっち来てんだよ!!」
奴のわめく声に導かれるようにサイドミラーでゆっくりと
通り過ぎる例の場所の方を確認すると、
「う、わっ……」
つい小さな悲鳴がこぼれました。
その男性は、あの人形群から飛び出すように田んぼに降り立ち、
裸足のまま――カサカサと両足を奇妙に上げる走り方で、
こちらを追いかけるように走ってきているのです。
「やべぇだろ!? スピードだせ、スピード!」
「お、おお……」
奴に命じられるがまま、アクセルを押し込みます。
相手は人間、車と走行では、いくら頑張ったって追いつけるはずがありません。
スピードが田舎道では申し訳ないくらいの速度になったのを確認し、
ギュッとハンドルを握ったまま小さくため息を吐きました。
「はぁ、これでもう大丈夫だろ……」
男性の姿がもはや米粒ほど小さくなったのを確認して、
俺は深々と肺から息を吐きだしました。
傍らの宮田など、もはやカチコチに身体を固まらせ、
意識でも失ったのかと疑うほどにみじんも動きません。
「……おい、もう大丈夫だぞ」
俺が見かねて声をかければ、やっと緊張が解けたらしく、
ヘナヘナと身体をシートに沈ませました。
「……うわー……まじ、変なモン見ちまったわ……」
両手で顔を覆う彼に、俺も車を飛ばしながら同意します。
「こんなトコにも頭おかしいヤツはいるもんだな……
あんな人形に埋もれて、いったい何してんだか」
愚痴のようにそうこぼすと、宮田は驚いた表情をこちらに向けました。
「山崎……お前……あれ見なかったのか」
「……あれ?」
妙なリアクションに首を傾げると、一瞬奴は黙り込み、
一呼吸たっぷりと間を開けて答えました。
「あの男……食ってた」
「……あ?」
「あの転がってる人形を……食ってた」
ボソ、と呟くように吐露された一言に、俺は思考が停止しました。
「く、食ってた、って……え、だってあれ人形……プラとか、木じゃ」
「お、オレだってわかんねぇけど……でも食ってたんだよ!
たぶんあれ、腕の間接……あのオッサンの口から……こぼれて……」
う、と吐き気を押さえるように口を覆った宮田に、
俺はそれ以上なにも聞くことはできませんでした。
あの道を通ったのは、それ以来一度もありません。
あんな田んぼや畑ばかりの場所で、
あんなに大量に人形が廃棄されていること自体異常であるのに、
更にそれを食らう人間がいた、なんて体験、誰に話しても信じては貰えませんでした。
いや、あれが本当に人間であったのか、
それともキツネにでもたぶらかされたのか。
今となってはわかりません。
が、どちらであったとしても、二度と関わり合いたくない――
そう、思います。
まじまじとその群れを見て、俺は小さく声を上げました。
その大量のこけしモドキたちは、確かにわずかに動いているのです。
なんといえばいいのか、その人形の折り重なるなかほどが、
まるで脈打つようにざわざわと、蠢いているのです。
「や、やべぇ……」
「だ、だせ車! 早く!」
宮田が焦ったように指示するそれに、俺は言われるがままアクセルを踏もうとして、
「……ん?」
目前に見えた景色がグラリと崩れたのに気づきました。
「え、あ?」
宮田までもが、ぽかんと大口を上げてそれを眺めました。
「ひ……人?」
そうなのです。例のこけしモドキの蠢いていた場所の真下から、
ガラッと人形たちを押しのけて、本物の人が現れました。
「なんだ……人がいたのか」
「はー……ビビって損したぁ」
二人揃って互いのマヌケさに大きくため息を吐きました。
なんてことはない、アレが動いて見えていたのは、
その下に人がいたからです。
人形たちが動いていたわけではなく、あの男性――
おそらく五十代くらいの細身の――がいたから、
蠢いているように見えた、ただそれだけだったんです。
「さ、怖いモンじゃねぇってわかったことだし、サッサと行くか」
俺が再び車のアクセルを踏み出そうとした時、
ふいに宮田がボソリと呟きました。
「つーか……あの人、あんなトコでなにしてんのかな」
「……あ?」
「だってさ、明らかに農作業じゃねぇじゃん。しかも、
積み重なってる人形の中から出てくるって……おかしいだろ!」
と、宮田は気味悪そうに再び人形たちの方へ視線を向けて、
ビクッと身体を強ばらせました。
「ッオイ! 車、早く出せ!」
「お、おお……わかったよ」
彼の形相に煽られ、慌てて車を走らせ始めます。
「もっと早く!」
「ちょ……おい、どうしたよ」
「あの人! こっち来てんだよ!!」
奴のわめく声に導かれるようにサイドミラーでゆっくりと
通り過ぎる例の場所の方を確認すると、
「う、わっ……」
つい小さな悲鳴がこぼれました。
その男性は、あの人形群から飛び出すように田んぼに降り立ち、
裸足のまま――カサカサと両足を奇妙に上げる走り方で、
こちらを追いかけるように走ってきているのです。
「やべぇだろ!? スピードだせ、スピード!」
「お、おお……」
奴に命じられるがまま、アクセルを押し込みます。
相手は人間、車と走行では、いくら頑張ったって追いつけるはずがありません。
スピードが田舎道では申し訳ないくらいの速度になったのを確認し、
ギュッとハンドルを握ったまま小さくため息を吐きました。
「はぁ、これでもう大丈夫だろ……」
男性の姿がもはや米粒ほど小さくなったのを確認して、
俺は深々と肺から息を吐きだしました。
傍らの宮田など、もはやカチコチに身体を固まらせ、
意識でも失ったのかと疑うほどにみじんも動きません。
「……おい、もう大丈夫だぞ」
俺が見かねて声をかければ、やっと緊張が解けたらしく、
ヘナヘナと身体をシートに沈ませました。
「……うわー……まじ、変なモン見ちまったわ……」
両手で顔を覆う彼に、俺も車を飛ばしながら同意します。
「こんなトコにも頭おかしいヤツはいるもんだな……
あんな人形に埋もれて、いったい何してんだか」
愚痴のようにそうこぼすと、宮田は驚いた表情をこちらに向けました。
「山崎……お前……あれ見なかったのか」
「……あれ?」
妙なリアクションに首を傾げると、一瞬奴は黙り込み、
一呼吸たっぷりと間を開けて答えました。
「あの男……食ってた」
「……あ?」
「あの転がってる人形を……食ってた」
ボソ、と呟くように吐露された一言に、俺は思考が停止しました。
「く、食ってた、って……え、だってあれ人形……プラとか、木じゃ」
「お、オレだってわかんねぇけど……でも食ってたんだよ!
たぶんあれ、腕の間接……あのオッサンの口から……こぼれて……」
う、と吐き気を押さえるように口を覆った宮田に、
俺はそれ以上なにも聞くことはできませんでした。
あの道を通ったのは、それ以来一度もありません。
あんな田んぼや畑ばかりの場所で、
あんなに大量に人形が廃棄されていること自体異常であるのに、
更にそれを食らう人間がいた、なんて体験、誰に話しても信じては貰えませんでした。
いや、あれが本当に人間であったのか、
それともキツネにでもたぶらかされたのか。
今となってはわかりません。
が、どちらであったとしても、二度と関わり合いたくない――
そう、思います。
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