上 下
102 / 371

45.校舎裏の壁のシミ・裏③(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
「あ……あ"、うわぁぁァあ!!」

絶叫。

わざわざ忍んで侵入した意味を無くすほどの、
断末魔のような悲鳴。

「なっ……し、ショウタ……?」

度肝を抜かれ、ボクはあのあふれんばかりの怒気すら消えうせ、
喉を枯らすかのように声を絞り続ける彼を見やりました。

「わかった……わかった……わかった……」

しかし、彼はフッと叫ぶのを止めたかと思うと、
今度はただひたすらに、その単語をくりかえし始めたのです。

「……は? おいショウタ、何がわかったんだよ」

ボクは少々怖気づきながらも、彼の傍に近づきました。

「わかった……わかった……わかった……」

しかし、ショウタは焦点を真っ暗な空の方へ向け、
ガリガリと爪を自らの耳に立てながら、
ひたすらに同じことを延々と繰り返しています。

「……っ」

あまりにも異質なその様子。

ボクはそれ以上彼に声をかけることも出来ず、
かといってその場から立ち去ることもできず、
半ば呆然自失状態で立ち尽くしていました。



その後、悲鳴の件で通報があったのか、
すぐさま警察が到着し、ボクら三人は連行されてしまいました。

ボクは迎えに来た両親に人生一番の鉄拳を食らい、
他の二人もまた、それぞれの親に連れていかれました。

ショウタは、警察が来ても両親が来ても、
相変わらずブツブツと独り言をつぶやきつづけていて、
タクミは正気こそ保ってはいたものの、
帰るときすらもずっと怯え続けていました。

翌日も校長室へ呼び出され、
ボクたちは先生たちにこっぴどく叱られました。

ショウタも教室には登校していませんでしたが、
やはり呼び出しを食らったらしく、
よろよろとおぼつかない足取りで校長室はやってきていました。

しかし、あの不気味な独り言こそなくなっていたものの、
なんの感情も浮かべず、なんの言葉も漏らさない彼は、
まるきり魂でも抜け去ってしまったかのような、惨々たる有様でした。

ボクとタクミは割と早く解放され、校長室を後にしたものの、
どうにも腑に落ちず、タクミに食って掛かりました。

「あの時の……ヨシロウの話、あれ、マジなのか」
「……マジだよ。あん時も今回みたく、ショウタが誘ったんだ。
 もちろん、半信半疑だったし……ヨシロウがビビったら、
 それをクラスの奴らに言いふらしてやる、ってそのつもりでさ……」

タクミは、非常に言いづらそうに俯きました。

「あの夜も、壁のトコに行ってさ。オレとショウタとヨシロウで、あの声を聞いて。
 うわ、ウワサがマジだった。ヤベェって……オレとショウタがビビってたら」

ガッ、と彼は頭を抱えました。

「ヨシロウのヤツ、突然叫びだして……」

当時を思い返しているのか、タクミは震えながら続けます。

「オレもショウタもパニクって、あいつのこと置き去りにしたんだ。
 ……あん時は、警察も来なくって。オレたちのことはバレなかった」
「お……置き去り、だって?」

ボクは、フツフツと怒りが腹の奥から湧いてくるのを感じました。

「ああ、そうだよ! 怖かったんだ! あいつ、あんな叫び声……っ。
 ……そ、それで……あいつ、学校に出て来なくなって。すぐ夏休みに入って」

そういえば、確かに彼は夏休みに入る直前、
何日か休んでいました。まさか、それが関係してるなんて。

「……で、ショウタが。なんだかわからねぇけど、思い通りになったって笑ってて」

グッ、と奥歯を噛みしめます。

クソ野郎、と呟きたいのをこらえ、
その最低な告白の続きを促しました。

「で、今回……お前のコトが目障りだってショウタが。
 前の時、オレもショウタも声は聞こえたけど、
 ぜんぜん何言ってるかわかんなかったし、
 今回だって大丈夫だろうって、行ったら……」

と、後半は罪悪感か気まずさか、尻すぼみに消えていきました。

「……なんて言ってるか、聞こえたのか」
「わ、わかんねぇよ。でも、前ん時より、声がすげぇデカくなってて。
 あれ以上あそこにいたら、オレ、オレも、ヨシロウとかショウタみたい、に……」

タクミは、頭を抱え込んだまま、
そのまま廊下にしゃがみこんでしまいました。



……これが、すべての顛末です。

ショウタは結局、彼自身がヨシロウに行ったことと同様、
まったく学校に来なくなり、夏休みが終わった頃には、
どこかへいなくなってしまっていました。

自業自得。

まさにその四字熟語通りの結末です。

ボクとて、彼に狂わされそうになった被害者として、
ザマアミロ、という思いがなくもありません。

しかし――人を廃人のようにしてしまう、なにか。

それが未だ消えることなく、ボクが卒業した今も、
校舎の片隅に存在し続けている。

そして、いつ再び、犠牲者が出てしまうとも限らない。

そんな災害のようなモノに魅入られてしまった彼が、
ほんの少し、哀れに思えてなりません。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

意味が分かると怖い話 考察

井村つた
ホラー
意味が分かると怖い話 の考察をしたいと思います。 解釈間違いがあれば教えてください。 ところで、「ウミガメのスープ」ってなんですか?

処理中です...