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44.校舎裏の壁のシミ・表③(怖さレベル:★☆☆)
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夜の闇の中、僅かな照明のみに照らされた駐車場は、
どことなく不気味な様相を見せています。
しかし、先ほどの一人きりの時とは違い、
二人であるというのはだいぶ心強いものがありました。
彼の言う通り、さっきの声だって、
例の壁から聞こえていた、なんてものではなく、
校内に侵入していた何者かが
ボソボソとなにごとか呟いていただけかもしれません。
一人で、あんなウワサに踊らされて怯えていたのが、
ただただ恥ずかしく、ごかますように勢いこんで給食室の方へ向かいました。
「……この辺、ですけど」
土岐が携帯の照明を、壁の上の方へと向けました。
「……う、っ」
私は思わず、ギュッと口元を押さえました。
さきほどは、ちっとも気づかなかったその壁。
そこが、土岐の明かりによってありありと照らし出され――
その、壁のシミの様子が露わになりました。
それは灰色の壁に染みる、真っ黒な模様でした。
大の男の全身をすっぽり覆えるほどの全容の頭に、
ドロリと垂れたような眼球、
ぐにゃりとひん曲がった鼻、
いびつにひしゃげた口が、はっきりと浮かんでいるのです。
「……夜見ると、さすがに気持ち悪いですね……」
照らした当人である彼も、引き気味で唇を引きつらせています。
「……っと、声だ、声」
固まる私よりも早く立ち直った彼が、
耳を澄ましつつ、キョロキョロと周囲を見回しました。
「……、……い」
聞こえる。近い、とても近くから。
情けない話ですが、私はそれを聞いても
全身がぞわっと冷え切り、とても声の方向へ近づけません。
「う、臼井先生……き、聞こえました?」
しかし、彼の怯え切ったその声に、
ハッと奮い立ちました。
「聞こえた。……方向、やっぱ……壁の方、だよな」
私は、自らの失態をかき消そうと、
パッ、と広角に携帯の照明を壁へと向けました。
「ぃひぃっ!?」
土岐が、引き絞られた獣のような声を上げて、尻もちをつきました。
「こ……こ、子ども……?」
先ほどまでは壁の上面を照らしていて気づかなかったものの、
そのシミの足元、草むらの中にうずくまる、黒い影があったのです。
そして例のボソボソ声は、その少年から漏れていたのです。
「ば、ばけ……お化け……!?」
途端使い物にならなくなった土岐を放置し、
私は意を決してそれに近づきました。
「……おい、化けて出たのか? こんなところに」
いくら幽霊であったとしても、子どもは子ども。
生来の子ども好きの心のままに、
どうにかしてやらなくてはと近づきました。
「……ん?」
その俯いている顔。
えんえんと、何ごとかをボソボソと呟き続けているその子には、
確かに見覚えがありました。
「土岐先生! 彼、六年の子ですよ。今日、校長室に呼び出されてた……!」
そうです。
昨日この学校に夜間侵入し、呼び出しを食らった例の三人のうちの一人。
その子どもが、まるきり正気を失った表情で、
その壁の下でうなだれていたのです。
「えっ……し、ショウタ君!?」
持ち直した土岐が、慌てて子どもに近づいて対応している中、
私は照明にしていた携帯で急いで主任の先生方へ連絡を入れ始めたのでした。
やはり、といいますか……。
そこでうずくまっていたのは、昨晩忍び込んだ三人のうちの一人でした。
他の二名にも連絡をとったものの、彼ら二人はいたって平常で、
この三名のうち、一番気の強かった彼がなぜか正気を失ってしまっていたのです。
ご両親に彼を引き取ってもらった後、職員たちの間に漂ったのは、
なんとも表現のしがたい沈黙でした。
唯一、この学校に十数年在籍しているという先生が、
「……もう、何度も依頼しているんですが……また、お祓いを頼んでおきます」
と、ため息をついていました。
のちのち伺った話によれば、あのシミは……よく他の怪談でも聞くように、
何度上から塗装を重ねても効果がなく、
しばらくすると元通り浮き上がってしまうのだそうです。
お祓いをしたり、札を貼ったりしてもまったく効き目がなく、
唯一救いなのは、あのシミが人を狂わすのが真夜中に限っていること、
そして呟いている何ごとかを理解する前であれば助かるということ。
しかし不運にも、昨晩忍び込んだ三名のうち、
唯一ショウタ君のみが例の認識してはいけないものを理解してしまったがゆえに、
今回のような事態になってしまったようでした。
私は二年ほどその学校に勤め、今はすでに違う場所へ転任してしまいましたが、
県内でも田舎方面のあの学校の資金では、
とても警報器などをつける予算はありません。
きっと今でも、あのシミは興味本位で来る者たちを狂わせているのでしょう。
あの夜、聞いたあのボソボソ声。
あの耳に残るボソボソ声は、今なお、忘れたくても忘れられません。
どことなく不気味な様相を見せています。
しかし、先ほどの一人きりの時とは違い、
二人であるというのはだいぶ心強いものがありました。
彼の言う通り、さっきの声だって、
例の壁から聞こえていた、なんてものではなく、
校内に侵入していた何者かが
ボソボソとなにごとか呟いていただけかもしれません。
一人で、あんなウワサに踊らされて怯えていたのが、
ただただ恥ずかしく、ごかますように勢いこんで給食室の方へ向かいました。
「……この辺、ですけど」
土岐が携帯の照明を、壁の上の方へと向けました。
「……う、っ」
私は思わず、ギュッと口元を押さえました。
さきほどは、ちっとも気づかなかったその壁。
そこが、土岐の明かりによってありありと照らし出され――
その、壁のシミの様子が露わになりました。
それは灰色の壁に染みる、真っ黒な模様でした。
大の男の全身をすっぽり覆えるほどの全容の頭に、
ドロリと垂れたような眼球、
ぐにゃりとひん曲がった鼻、
いびつにひしゃげた口が、はっきりと浮かんでいるのです。
「……夜見ると、さすがに気持ち悪いですね……」
照らした当人である彼も、引き気味で唇を引きつらせています。
「……っと、声だ、声」
固まる私よりも早く立ち直った彼が、
耳を澄ましつつ、キョロキョロと周囲を見回しました。
「……、……い」
聞こえる。近い、とても近くから。
情けない話ですが、私はそれを聞いても
全身がぞわっと冷え切り、とても声の方向へ近づけません。
「う、臼井先生……き、聞こえました?」
しかし、彼の怯え切ったその声に、
ハッと奮い立ちました。
「聞こえた。……方向、やっぱ……壁の方、だよな」
私は、自らの失態をかき消そうと、
パッ、と広角に携帯の照明を壁へと向けました。
「ぃひぃっ!?」
土岐が、引き絞られた獣のような声を上げて、尻もちをつきました。
「こ……こ、子ども……?」
先ほどまでは壁の上面を照らしていて気づかなかったものの、
そのシミの足元、草むらの中にうずくまる、黒い影があったのです。
そして例のボソボソ声は、その少年から漏れていたのです。
「ば、ばけ……お化け……!?」
途端使い物にならなくなった土岐を放置し、
私は意を決してそれに近づきました。
「……おい、化けて出たのか? こんなところに」
いくら幽霊であったとしても、子どもは子ども。
生来の子ども好きの心のままに、
どうにかしてやらなくてはと近づきました。
「……ん?」
その俯いている顔。
えんえんと、何ごとかをボソボソと呟き続けているその子には、
確かに見覚えがありました。
「土岐先生! 彼、六年の子ですよ。今日、校長室に呼び出されてた……!」
そうです。
昨日この学校に夜間侵入し、呼び出しを食らった例の三人のうちの一人。
その子どもが、まるきり正気を失った表情で、
その壁の下でうなだれていたのです。
「えっ……し、ショウタ君!?」
持ち直した土岐が、慌てて子どもに近づいて対応している中、
私は照明にしていた携帯で急いで主任の先生方へ連絡を入れ始めたのでした。
やはり、といいますか……。
そこでうずくまっていたのは、昨晩忍び込んだ三人のうちの一人でした。
他の二名にも連絡をとったものの、彼ら二人はいたって平常で、
この三名のうち、一番気の強かった彼がなぜか正気を失ってしまっていたのです。
ご両親に彼を引き取ってもらった後、職員たちの間に漂ったのは、
なんとも表現のしがたい沈黙でした。
唯一、この学校に十数年在籍しているという先生が、
「……もう、何度も依頼しているんですが……また、お祓いを頼んでおきます」
と、ため息をついていました。
のちのち伺った話によれば、あのシミは……よく他の怪談でも聞くように、
何度上から塗装を重ねても効果がなく、
しばらくすると元通り浮き上がってしまうのだそうです。
お祓いをしたり、札を貼ったりしてもまったく効き目がなく、
唯一救いなのは、あのシミが人を狂わすのが真夜中に限っていること、
そして呟いている何ごとかを理解する前であれば助かるということ。
しかし不運にも、昨晩忍び込んだ三名のうち、
唯一ショウタ君のみが例の認識してはいけないものを理解してしまったがゆえに、
今回のような事態になってしまったようでした。
私は二年ほどその学校に勤め、今はすでに違う場所へ転任してしまいましたが、
県内でも田舎方面のあの学校の資金では、
とても警報器などをつける予算はありません。
きっと今でも、あのシミは興味本位で来る者たちを狂わせているのでしょう。
あの夜、聞いたあのボソボソ声。
あの耳に残るボソボソ声は、今なお、忘れたくても忘れられません。
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