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43.裏山公園の幽霊①(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『30代女性 久保さん(仮)』
それは、私がまだ小学生の頃の話です。
うちの学校には、校歌にもそれが謳われるほどすぐ真裏に山がありました。
だいたいの学生は、そんな山の下の町に住んでいたのですが、
ごく一部の生徒は、その山の上にある集落から通っていました。
私はといえば、大多数と同様に山の下にある小さな町で暮らしていて、
仲のよい友人も、同じく山の下の子どもばかりでした。
そんなうちの学校で、ある時期から、
一つの怪談が流行り始めたんです。
その怪談というのが、例の学校の裏の山――
そこの山頂近くの公園。
そこに設置されているという遊具のそばに、
幽霊が出現するらしい、というものでした。
それがウワサとして囁かれ始めると、
あっという間に全校に広まり、当然ながらうちのクラスでも
その話は話題にのぼることになりました。
「ねぇねぇ、聞いた? 六年のクラスで見たって人がいるんだって!」
「えー、マジで!? どんな幽霊なの?」
きゃいきゃいと他の女子が騒いでいます。
私も興味はあったものの、家がわりとその山からも遠かった上、
仲の良い友人が軒並みオカルト方面に興味がなく、
うっすらとした話しか知らなかったんです。
「ねえ、久保ちゃん」
と。
自分の席で他の人たちの会話に聞き耳を立てていた私に、
不意に声がかかりました。
「ん? どうしたの……あ、えっと」
顔を上げて一瞬、誰だっけ? と首を傾げました。
「今の話、興味ある?」
「まぁ、実は……」
と、身を乗り出すように話しかけられて、
ようやく目前の子が誰かわかりました。
その子は、私の左隣の席に座っている女の子で名前をマユと言い、
割合大人しい部類に入る子でした。
普段もあまり会話もなく、いつも空気のようというか、
ほとんど存在感のないようなタイプの少女なのです。
「あのね……今日、これからちょっと時間とれるかな」
「? う、うん……」
幸い、今日はクラブ活動も習い事もありません。
首を傾げつつ頷けば、ホッとした表情を浮かべた彼女に、
ぐいぐいと腕を引っ張られました。
「わっ、ま、マユちゃん?」
「ごめんね、リンちゃん。ちょっとついてきて欲しくて」
と、詳細を説明されることなく、
私は腕を引かれるがままに学校の裏門前まで引きずられて行きました。
「ど……どうしたの? なにかあった?」
いつもの彼女からは考えられないくらいの強引さに、
私はすっかりビビってしまい、怯えつつ尋ねました。
「うん……ごめんね、久保ちゃん。
その……相談に乗ってほしくて」
「え……相談?」
そんな声をかけられ、私は頭の上に疑問符を浮かべました。
自慢じゃありませんが、私は成績だってさほどいいわけではないし、
運動神経だって人並み程度。
目前のマユちゃんとだって、
さほど仲が良いというわけでもありません。
特に彼女はいつも、別の女の子と仲が良く、
その子以外とはあまり話さない印象でした。
「えっと……あ、そうそう。ユリカちゃんはどうしたの?」
そう、確か彼女はいつも、ユリカというクラスメイトと常に一緒にいました。
確かにその子は二日前から体調不良という名目で休んでいたので、
その件だろうか? と私は尋ねました。
「ん……」
しかし彼女は、肯定とも否定ともとれるようなあいまいな返事とともに、沈黙してしまいました。
「えっと……勉強とかに関してだったら……あんまり役立てないと思うけど」
と、別の内容かとしずしずと尋ねれると、
彼女は首がとれるのではないかというほどに、ブンブンと首を横に振りました。
「ちがうの! ……久保ちゃんも聞いてたでしょ、裏山の怖い話」
「ん? ……う、うん」
突如として話題にのぼったその話。
それはその山頂付近の公園の大きな滑り台。
そのそばに、女の子の幽霊が現れる、という、今考えればありきたりな内容です。
しかし、そんなある種ちゃちな話であっても、
私たちにとっては身近な怪談です。
ウワサがウワサを呼んで、
その女の子は実は口が裂けているだとか、
死神の使いで人間を取り殺すだとか、
さまざまな尾ひれがついていました。
「……実はね、あたしたち見ちゃったんだ」
裏山の幽霊の話を思い返していると、
とんでもない言葉が目前の彼女から放たれました。
「え、ええっ? み、見た!?」
「うん。……三日前の、放課後」
ポツリポツリと、彼女は神妙に話し始めました。
「ユリカと一緒に、放課後待ち合わせしてね……ほら、ユリカって気が強いから。
山頂まで続くゆるーい階段を上って……夕方の4時くらいだったかなぁ」
裏山の頂点にある公園の手前には、
古びた小さな神社があります。
そこに至るまで、勾配のゆるい階段がずっと続いているのです。
「それで……公園について。例の、あのお化けが出るっていう滑り台に上って……」
記憶を思い返すように、彼女はぼんやりと視線を空にさ迷わせます。
「ユリカちゃんが先に滑って……で、あたしが滑ろうと思った時……」
マユちゃんは、そのまま目線を地面に落としました。
「フッと、雰囲気が変わって。……あっ、と思ったら」
「み……見たの?」
彼女が、そのまま耐えられないように両の手のひらで顔を覆いました。
「ユリカが……叫びだして。まるで、狂っちゃったみたいに。ひたすらずーっと、
ずーっと叫んで……あたしには何も見えなくて……どうしようもできなくて……」
語る彼女の声に、涙がにじみます。
「どうしよう、どうしようって慌てて……
ユリカの手を無理やり引っぱって山を下りて……そっから大騒ぎになっちゃって」
「そ……そんなの、初めて聞いたよ!」
そんな騒動があったなんて、
クラスではもちろん、学校でだって聞いてません。
「たぶん、先生たちが秘密にしてるから……。
それで、相談っていうのはここからなんだけど」
と、マユちゃんは改まって顔を上げました。
「これからもう一回、公園のところへ行きたいの。
……で、久保ちゃん、ついてきてくれないかな」
「え……っ」
私は言葉を失いました。
友だちがそんな目にあったところに、
どうして再び行きたいだなんて思うのでしょう。
そんな私の戸惑いが伝わったか、
マユちゃんは慌てたように付け足しました。
>>
『30代女性 久保さん(仮)』
それは、私がまだ小学生の頃の話です。
うちの学校には、校歌にもそれが謳われるほどすぐ真裏に山がありました。
だいたいの学生は、そんな山の下の町に住んでいたのですが、
ごく一部の生徒は、その山の上にある集落から通っていました。
私はといえば、大多数と同様に山の下にある小さな町で暮らしていて、
仲のよい友人も、同じく山の下の子どもばかりでした。
そんなうちの学校で、ある時期から、
一つの怪談が流行り始めたんです。
その怪談というのが、例の学校の裏の山――
そこの山頂近くの公園。
そこに設置されているという遊具のそばに、
幽霊が出現するらしい、というものでした。
それがウワサとして囁かれ始めると、
あっという間に全校に広まり、当然ながらうちのクラスでも
その話は話題にのぼることになりました。
「ねぇねぇ、聞いた? 六年のクラスで見たって人がいるんだって!」
「えー、マジで!? どんな幽霊なの?」
きゃいきゃいと他の女子が騒いでいます。
私も興味はあったものの、家がわりとその山からも遠かった上、
仲の良い友人が軒並みオカルト方面に興味がなく、
うっすらとした話しか知らなかったんです。
「ねえ、久保ちゃん」
と。
自分の席で他の人たちの会話に聞き耳を立てていた私に、
不意に声がかかりました。
「ん? どうしたの……あ、えっと」
顔を上げて一瞬、誰だっけ? と首を傾げました。
「今の話、興味ある?」
「まぁ、実は……」
と、身を乗り出すように話しかけられて、
ようやく目前の子が誰かわかりました。
その子は、私の左隣の席に座っている女の子で名前をマユと言い、
割合大人しい部類に入る子でした。
普段もあまり会話もなく、いつも空気のようというか、
ほとんど存在感のないようなタイプの少女なのです。
「あのね……今日、これからちょっと時間とれるかな」
「? う、うん……」
幸い、今日はクラブ活動も習い事もありません。
首を傾げつつ頷けば、ホッとした表情を浮かべた彼女に、
ぐいぐいと腕を引っ張られました。
「わっ、ま、マユちゃん?」
「ごめんね、リンちゃん。ちょっとついてきて欲しくて」
と、詳細を説明されることなく、
私は腕を引かれるがままに学校の裏門前まで引きずられて行きました。
「ど……どうしたの? なにかあった?」
いつもの彼女からは考えられないくらいの強引さに、
私はすっかりビビってしまい、怯えつつ尋ねました。
「うん……ごめんね、久保ちゃん。
その……相談に乗ってほしくて」
「え……相談?」
そんな声をかけられ、私は頭の上に疑問符を浮かべました。
自慢じゃありませんが、私は成績だってさほどいいわけではないし、
運動神経だって人並み程度。
目前のマユちゃんとだって、
さほど仲が良いというわけでもありません。
特に彼女はいつも、別の女の子と仲が良く、
その子以外とはあまり話さない印象でした。
「えっと……あ、そうそう。ユリカちゃんはどうしたの?」
そう、確か彼女はいつも、ユリカというクラスメイトと常に一緒にいました。
確かにその子は二日前から体調不良という名目で休んでいたので、
その件だろうか? と私は尋ねました。
「ん……」
しかし彼女は、肯定とも否定ともとれるようなあいまいな返事とともに、沈黙してしまいました。
「えっと……勉強とかに関してだったら……あんまり役立てないと思うけど」
と、別の内容かとしずしずと尋ねれると、
彼女は首がとれるのではないかというほどに、ブンブンと首を横に振りました。
「ちがうの! ……久保ちゃんも聞いてたでしょ、裏山の怖い話」
「ん? ……う、うん」
突如として話題にのぼったその話。
それはその山頂付近の公園の大きな滑り台。
そのそばに、女の子の幽霊が現れる、という、今考えればありきたりな内容です。
しかし、そんなある種ちゃちな話であっても、
私たちにとっては身近な怪談です。
ウワサがウワサを呼んで、
その女の子は実は口が裂けているだとか、
死神の使いで人間を取り殺すだとか、
さまざまな尾ひれがついていました。
「……実はね、あたしたち見ちゃったんだ」
裏山の幽霊の話を思い返していると、
とんでもない言葉が目前の彼女から放たれました。
「え、ええっ? み、見た!?」
「うん。……三日前の、放課後」
ポツリポツリと、彼女は神妙に話し始めました。
「ユリカと一緒に、放課後待ち合わせしてね……ほら、ユリカって気が強いから。
山頂まで続くゆるーい階段を上って……夕方の4時くらいだったかなぁ」
裏山の頂点にある公園の手前には、
古びた小さな神社があります。
そこに至るまで、勾配のゆるい階段がずっと続いているのです。
「それで……公園について。例の、あのお化けが出るっていう滑り台に上って……」
記憶を思い返すように、彼女はぼんやりと視線を空にさ迷わせます。
「ユリカちゃんが先に滑って……で、あたしが滑ろうと思った時……」
マユちゃんは、そのまま目線を地面に落としました。
「フッと、雰囲気が変わって。……あっ、と思ったら」
「み……見たの?」
彼女が、そのまま耐えられないように両の手のひらで顔を覆いました。
「ユリカが……叫びだして。まるで、狂っちゃったみたいに。ひたすらずーっと、
ずーっと叫んで……あたしには何も見えなくて……どうしようもできなくて……」
語る彼女の声に、涙がにじみます。
「どうしよう、どうしようって慌てて……
ユリカの手を無理やり引っぱって山を下りて……そっから大騒ぎになっちゃって」
「そ……そんなの、初めて聞いたよ!」
そんな騒動があったなんて、
クラスではもちろん、学校でだって聞いてません。
「たぶん、先生たちが秘密にしてるから……。
それで、相談っていうのはここからなんだけど」
と、マユちゃんは改まって顔を上げました。
「これからもう一回、公園のところへ行きたいの。
……で、久保ちゃん、ついてきてくれないかな」
「え……っ」
私は言葉を失いました。
友だちがそんな目にあったところに、
どうして再び行きたいだなんて思うのでしょう。
そんな私の戸惑いが伝わったか、
マユちゃんは慌てたように付け足しました。
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