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25.まっしろ自販機①(怖さレベル:★☆☆)

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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)

あれは、
私がまだ小学生だった頃のことです。

学校の放課後、
いつもの帰り道をのんびりと
友だちのサチコちゃんと歩いていました。

ジョウビタキの鳴き声を背景に田んぼを眺めながら帰る、
変わり映えのない道のりです。

そんないつも通りの光景。

そんな中、ぽつん、といつもと違う、
まっしろなオブジェクトが出現していました。

「あ、ユウちゃん、自動販売機があるよ!」

サチコちゃんが、
ぱちりと目を見開きました。

それは確かに、
今朝学校へ行く前までにはなかったものです。

おまけに、先ほどから話している通り、
この辺りは田んぼと畑ばかりの、
かなり人口の少ない町です。

自動販売機なんて、
商店の脇や車通りの多い通りにぽつぽつ見かけるくらいで、
少々物珍しかったのです。

そのまっしろな機械は真新しさそのままに、
小学生の私たちの気をおおいに惹きました。

並んでいるジュースは見知ったものばかりで、
ほんとうは学校の通学途中に買い物するのは
ご法度だったのですが、そこは小学生。

学校の決まりなんてあってないようなものです。

まず私が真っ先に硬貨を投入し、
大好きな炭酸飲料のボタンを押しました。

――ゴン! ガコン!

なぜか殴打音がして、
いぶかしみながらも缶を取り出そうとすれば、
手に触れる感触がふたつ。

一つは目的の炭酸飲料、もう一つは、
見たことのないかわいらしい薄桃色のパッケージ缶でした。

「これってあたり……かなぁ」
「わぁ、すごい! ユウちゃん、いいなー」

サチコちゃんが、
羨ましそうにこちらを見つめます。

彼女は大のかわいいもの好きで、
家にはたくさんのヌイグルミや人形たちが飾られていました。

背負うランドセルにも、
フェルトのファンシーなハートがくっついていましたし、

自販機から出てきたその缶は、
彼女の気に入るデザインだったのでしょう。

「ふたつもいらないし、あげよっか?」
「えっ、いいの! ……ありがと!」

そう提案すれば、
サチコちゃんは今までにないくらいに喜んで、
うきうきとその缶を奪うように持っていきました。

少々イラっとしたものの、
大好きな炭酸飲料を口にすればいくらか機嫌もマシになります。

あとは気にしないようにして、
その日はそのまま、それぞれ自宅へ帰ったのでした。



「えっ、サチコちゃん……お休み?」

次の日に学校へ向かうと、
彼女は来ていませんでした。

その日は、以前から彼女が楽しみにしていた
体育のバレーボール大会の日だったので、
残念だなぁなんて思ったのを覚えています。

そして、次の日、その次の日と、
彼女はそのまま一週間ほど学校には姿を現しませんでした。

さすがに気になって、彼女の自宅へ連絡をいれても、
誰も電話にでてくれません。

自分の両親とも、心配だねぇ、
なんて話をしていました。

そして、
確か次の週の月曜日です。

朝、
やはりサチコちゃんは学校に来ていませんでした。

今日もかぁ、なんて少々ガッカリしながら席につくと、
どこか沈んだ表情の先生が教室へと入ってきました。

先生は、ひとつだけぽっかり空いた席をジッと見据えた後、
掠れた声で言ったのです。

――サチコちゃんが、
亡くなった。

呆然としました。

だって、
つい先日まで仲良く帰っていた友だちです。

小学生の頃、死なんてそれこそ
マンガやアニメの中でしか起きないような、
遠いものでしかありませんでした。

みんながみんな全然理解ができず、でも、
誰かの泣き声が引き金となり、
クラス全体が悲しみの声で満ちていきました。

「なっ、なんで、なんで死んじゃったんですか!
 病気ですか!?」

気の強い男子が、
先生にくってかかるように叫びました。

ぐずぐずと鼻をすすっていた私は、
その声にパッと顔を上げました。

「ああ……食中毒、だったみたいだ。
 入院もしたようだが……間に合わなかったらしい」
「しょくちゅう、どく……」

その頃は、
O-157が猛威をふるっていた時期です。

それ自体に違和感はないはずなのに、
どこか奇妙なひっかかりを覚えました。



私はあの日と同じ帰り道を、
ぼんやりと歩いていました。

サチコちゃんと歩いた田んぼの脇道を、
一人でトボトボと俯きながら。

かつん、と蹴った小石がとんで、
キン! と金属製のなにかに当たりました。

「あっ……」

そういえば、
すっかり忘れていた、その白い物体。

夕暮れ時の薄暗がりの中で、
商品棚を照らす蛍光灯がぼうっと辺りを照らしています。

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