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24.紫イワナの怪②(怖さレベル:★★☆)
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「おおっ」
釣りは、意外なほど順調に進みました。
「まーた釣れた……すごいなぁ、こりゃ」
評判に偽りなく、
用意していたクーラーボックスには、
どんどん釣れた魚が放り込まれていきます。
「おー、飯野さん、よく釣れてるねぇ」
中でも、このボクの釣り竿に関しては、
他のメンバーの追随を許さぬほどかかるのです。
「あ、はは……場所が良かったんですかねぇ」
加藤に褒められつい照れていると、
となりの遠山ががぜん張り切り始めました。
ボクは自分の釣りに夢中で気づかなかったのですが、
同じ時分に加入したボクがあまりに調子が良かったためか、
対抗意識を燃やしていたようでした。
「あー……遠山さん、雑だなぁ……大丈夫かねぇ」
加藤が眉をひそめて、
彼の様子を見守っています。
ボクはもう十分釣れたし、
あとは明日の準備も兼ねて
場所を変えていろいろ様子を見ようか、なんてボーッと考えていると、
「……わっ、すげぇ!」
「うわあ、遠山さん、ものすごいの釣ったねぇ!」
途端に上がった大声に、
ビクリと身体が揺れました。
あまり大声を出すと魚が逃げてしまうので、
釣りの時は叫ばないのが暗黙のルールなのです。
しかし、ベテランである加藤までもがああも大声を上げた為、
皆がなにごとかと釣り竿をそのままに近寄ってきました。
「飯野さん! 見てくれよ、これ」
遠山が自慢げにその釣果を見せびらかします。
「あ……うわ!!」
それは、通常のイワナよりも三回りほど大きいのです。
身体のあちらこちらにキズがあり、
この川のヌシ然とした風格を漂わせていました。
そして何より、その身体の色合い。
「紫の、イワナ……!」
そうなのです。
そのイワナは、自然に出現するような
ほんのり紫がかった色合いではなく、
いっそ人工的ともいえる程に鮮やかな紫であったのです。
「遠山さん……その色……川に戻せ、って」
「あー……あのじいさん、言ってたなぁ。
マズい、だっけ? こんだけデッカイんだし、美味いだろー」
遠山は、
せっかくの釣りの成果を戻すのが惜しまれるのか、
ケラケラと笑い飛ばします。
「それに、食うのはオレだし、不味くったって腹が膨れりゃあいいや。
別に毒があるってワケじゃないんだし」
ニコニコと上機嫌の遠山は、
自らのクーラーボックスに隠すように魚を詰め、
再びに釣りに戻りました。
「外道って言ってたけど、どうなんだろうなぁ」
「まぁ本人がイイんならイイだろう」
と、他のメンバーたちもあまり深くは受け止めず、
バラバラと自分たちの釣り竿のところに戻っていきました。
しかし、ボクはあの老人の妙に含みのこめられた台詞が引っかかり、
なんどかそれとなく彼に魚を川へ戻すよう進言しましたが、
取り合ってはもらえませんでした。
そして、その日の夜。
皆で持ち寄った釣果を、
ペンションに併設されているBBQ施設で
さっそく料理することにしたのです。
ボクも自分のイワナなどの内臓の処理をすませ、
金網に乗せていこうとした時。
「……っ、コイツ、暴れる……っ!」
クーラーボックスですっかり冷やされたはずの、
あの紫色のイワナ。
それをさばこうとする遠山の手元で、
そいつは激しく暴れまわっていました。
「生命力すごいな……」
「おい、感心してないで手伝ってくれっ」
思わずマジマジとそれを眺めていれば、
慌てた遠山に助けを求められます。
言われるがまま包丁を持って傍によると、
「いいか、頭と尾の部分をちょっと抑えててくれ。
オレがあとはさばいて……っ!?」
まな板の上のイワナが、
ヒュッ、と宙に舞いました。
あ、逃げられる――と、
イワナの姿を目で追ったその先。
魚の口が、
包丁を構える遠山の右手に向いたのです。
「ぐっ」
ベシン、と遠山の腕にぶつかって落ちる、
と思われたイワナは、
予想に反し――深々と彼の腕に突き刺さりました。
「……え」
ありえない。
いくら口部が尖っているとはいえ、
人間の皮膚を貫通できるはずなんてない。
しかし、目前の紫色のイワナは、
遠山の呆然と己の腕を見つめる腕に
確かに突き刺さっているのです。
「だ、大丈夫か?! す、すぐなんとかしてやるからっ」
しかし、
ぼうっとしているわけにもいきません。
ボクはすぐさま彼の腕に手を伸ばそうとしましたが、
「あ……? あ、あぁあ」
ギョロリ、と遠山の眼球が
歪に動きました。
「……と、遠山さん?」
「あ、あぁアァァ」
半開きの彼の唇から、
感情の無い呻き声がこぼれ始めます。
>>
釣りは、意外なほど順調に進みました。
「まーた釣れた……すごいなぁ、こりゃ」
評判に偽りなく、
用意していたクーラーボックスには、
どんどん釣れた魚が放り込まれていきます。
「おー、飯野さん、よく釣れてるねぇ」
中でも、このボクの釣り竿に関しては、
他のメンバーの追随を許さぬほどかかるのです。
「あ、はは……場所が良かったんですかねぇ」
加藤に褒められつい照れていると、
となりの遠山ががぜん張り切り始めました。
ボクは自分の釣りに夢中で気づかなかったのですが、
同じ時分に加入したボクがあまりに調子が良かったためか、
対抗意識を燃やしていたようでした。
「あー……遠山さん、雑だなぁ……大丈夫かねぇ」
加藤が眉をひそめて、
彼の様子を見守っています。
ボクはもう十分釣れたし、
あとは明日の準備も兼ねて
場所を変えていろいろ様子を見ようか、なんてボーッと考えていると、
「……わっ、すげぇ!」
「うわあ、遠山さん、ものすごいの釣ったねぇ!」
途端に上がった大声に、
ビクリと身体が揺れました。
あまり大声を出すと魚が逃げてしまうので、
釣りの時は叫ばないのが暗黙のルールなのです。
しかし、ベテランである加藤までもがああも大声を上げた為、
皆がなにごとかと釣り竿をそのままに近寄ってきました。
「飯野さん! 見てくれよ、これ」
遠山が自慢げにその釣果を見せびらかします。
「あ……うわ!!」
それは、通常のイワナよりも三回りほど大きいのです。
身体のあちらこちらにキズがあり、
この川のヌシ然とした風格を漂わせていました。
そして何より、その身体の色合い。
「紫の、イワナ……!」
そうなのです。
そのイワナは、自然に出現するような
ほんのり紫がかった色合いではなく、
いっそ人工的ともいえる程に鮮やかな紫であったのです。
「遠山さん……その色……川に戻せ、って」
「あー……あのじいさん、言ってたなぁ。
マズい、だっけ? こんだけデッカイんだし、美味いだろー」
遠山は、
せっかくの釣りの成果を戻すのが惜しまれるのか、
ケラケラと笑い飛ばします。
「それに、食うのはオレだし、不味くったって腹が膨れりゃあいいや。
別に毒があるってワケじゃないんだし」
ニコニコと上機嫌の遠山は、
自らのクーラーボックスに隠すように魚を詰め、
再びに釣りに戻りました。
「外道って言ってたけど、どうなんだろうなぁ」
「まぁ本人がイイんならイイだろう」
と、他のメンバーたちもあまり深くは受け止めず、
バラバラと自分たちの釣り竿のところに戻っていきました。
しかし、ボクはあの老人の妙に含みのこめられた台詞が引っかかり、
なんどかそれとなく彼に魚を川へ戻すよう進言しましたが、
取り合ってはもらえませんでした。
そして、その日の夜。
皆で持ち寄った釣果を、
ペンションに併設されているBBQ施設で
さっそく料理することにしたのです。
ボクも自分のイワナなどの内臓の処理をすませ、
金網に乗せていこうとした時。
「……っ、コイツ、暴れる……っ!」
クーラーボックスですっかり冷やされたはずの、
あの紫色のイワナ。
それをさばこうとする遠山の手元で、
そいつは激しく暴れまわっていました。
「生命力すごいな……」
「おい、感心してないで手伝ってくれっ」
思わずマジマジとそれを眺めていれば、
慌てた遠山に助けを求められます。
言われるがまま包丁を持って傍によると、
「いいか、頭と尾の部分をちょっと抑えててくれ。
オレがあとはさばいて……っ!?」
まな板の上のイワナが、
ヒュッ、と宙に舞いました。
あ、逃げられる――と、
イワナの姿を目で追ったその先。
魚の口が、
包丁を構える遠山の右手に向いたのです。
「ぐっ」
ベシン、と遠山の腕にぶつかって落ちる、
と思われたイワナは、
予想に反し――深々と彼の腕に突き刺さりました。
「……え」
ありえない。
いくら口部が尖っているとはいえ、
人間の皮膚を貫通できるはずなんてない。
しかし、目前の紫色のイワナは、
遠山の呆然と己の腕を見つめる腕に
確かに突き刺さっているのです。
「だ、大丈夫か?! す、すぐなんとかしてやるからっ」
しかし、
ぼうっとしているわけにもいきません。
ボクはすぐさま彼の腕に手を伸ばそうとしましたが、
「あ……? あ、あぁあ」
ギョロリ、と遠山の眼球が
歪に動きました。
「……と、遠山さん?」
「あ、あぁアァァ」
半開きの彼の唇から、
感情の無い呻き声がこぼれ始めます。
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