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23.教室の死神①(怖さレベル:★★☆)

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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『10代男性 一村さん(仮名)』

あー……、
あまり信じてもらえないんですが、
オレ、小さい頃から霊感を持ってて。

っていったって、
除霊とかそういうたいそうなコトができるわけではなく、
ホント、ただ見えるだけなんですけど。

遊園地に行けば顔の崩れた女がいると泣き、
ショッピングモールに行けば、
天井にクモ男が貼りついていると騒ぐオレに、
親も扱いに苦労したみたいで。

さんざんいろんなお寺やら神社やらへ行って、
お祓いっぽいものを受けさせられました。

実際、それらはまったく効果がなく、
年齢を重ねても周りに見えるものは変わりません。

しかし、親や周囲の反応で、
それを口に出すのは悪いことなのだと気づき、

小学生になるころには、
見えても無視するという術を身に着けていました。

そしてその反動か、
オレはガキ大将のように粗暴にふるまい、
周囲に見える化け物たちへの恐怖を必死で押さえていました。

そうして、
高校生になったころ。

親元から離れたかったオレは、
必死で勉強に励み、
地元から遠く離れた私立高校に入学することにしました。

今まで張っていた虚栄も張らずにすむ、
と気を抜きながら臨んだ入学初日。

あてがわれた教室に入って早々――、
オレは、硬直しました。

四十名の机の立ち並ぶ、
その教室の一番端。

そこに――死神がいたんです。

そう、それはまさに死神というのがもっともふさわしい、
大鎌を片手に濃い黒のローブを羽織った、骸骨。

そんな様相の化け物が、
さも当然のように教室の端に立っているんです。

オレは教室から飛び出したくなる気持ちを必死に抑え、
自分に宛がわれている席に座り、
そちらを見ないように
ペラペラと教科書に意識を集中させていました。

次々に入ってくるクラスメイトたちは、
まったく普通に席についています。

やはり、あの死神まがいの化け物は、
自分にしか見えていないのだ、
と半ば絶望的な気持ちになっていた時でした。

「うわーっ、スゴイ」

突如教室に入ってきた奴が、
朗らかな声を上げてズカズカと教室の端――
その死神もどきがいるところに近づいて行ったのです。

「なんでそんな隅に立ってるのー?」

そいつは全く恐怖の色も見せぬまま、
例の死神もどきに近寄って、
なにやら話しかけているのです。

「……なにアイツ、壁に話しかけてるけど」
「わかんねぇ。変人じゃねぇ?」

教室内では、
そいつに対して皆冷めた視線を送っています。

オレはといえば、混乱と動揺で何を言うこともできず、
ただひたすら早く今日という日が終わってくれることを願っていました。



入学して数日たってわかったことですが、
その死神もどきに話しかけていたヤツの名前は
和田といって、学力上位のこの学校においても、
学年一位の成績で入学してきた者だそうです。

同じ中学から入ってきた同級生によれば、
当時からもかなりの変わり者で通っていたらしく、
奇妙な言動、行動は当たり前なのだと。

オレは遠巻きにその話を聞きながら、
毎日のように化け物と会話している和田に恐怖すら覚えていました。

オレにとって、
奴らは恐怖の象徴です。

その象徴と仲良くするなど、
幼いころから恐怖にさらされ続けていたオレには
とても考えられません。

オレは勉学に励み、クラスメイトと親交を深めつつも、
例の和田とだけは、なるべく会話をしないようにしていたのです。



そして、そんなある日。

授業を終え、自宅に帰ろうと自転車にまたがったオレは、
ペンケース一式を教室に忘れたことに気づきました。

面倒だな、と思ったものの、
自習するにも筆記用具がなければ始まりません。

仕方なしに、自転車を元に戻し、
あの教室へ戻ることにしたのです。

夕方の校舎内はまだ部活動をしている学生も多く、
ざわざわと人の気配が所せましと動いています。

そんな光景の場所場所に、
小さくうごめく赤い目玉だとか、
天井からぶら下がる生首だとかが、
まるで当たり前の顔をして存在している。

オレは極力それらを目に入れないようにして、
そそくさと教室へ入りました。

「ああ、そーなんだぁ。
 大変なんだねぇ……って、あれ、一村くん」
「あ……和田」

誰もいないと思っていた教室。
そこには、あの化け物と語り合う和田の姿がありました。

「どうしたの? 忘れ物?」
「あ、ああ……ちょっとな」

声をかけてくる和田の方へ視線を向けないようにしつつ、
ゴソゴゾと机の中を漁ります。

「……あった」

ホッとペンケースを取り出した、
その瞬間。

――視界の端に、
キラリと光る銀の鎌。

「っう、わあっ」

外聞も忘れ、
思わず飛びのくようにして尻もちをつきました。

突如真横に現れた死神は、
ジィっと空洞の目でこちらを見下ろしています。

「な……な……」
「あっ、やっぱり。一村くん、見えてるんだねぇ」

ハッとしましたが、すでに遅し。

和田はニコニコと笑みを浮かべて、

「一村くん、この子のいるあたり、わざと見ないようにしてるでしょ。
 変だなぁって思ってたんだけど、やっぱりそうかぁ」
「わ、和田……お前も、見えてんだな」
「もちろん。まさか、他のみんなが見えてないなんて思わなくって。
 こんなにカワイイのに」
「……は?」

最後に耳に入った単語に、
オレは思わず固まりました。

「オイ、今……カワイイ、って言ったか」
「え? うん。一村くんにも見えてるんでしょ?」

キョトン、と首を傾げる和田は、
とてもウソをついているようには見えません。

オレは意図してそらしていた目線を、
そっと例のヤツに向けました。

「……ひっ」

しかし、そこに佇むのは、
やはり不気味な死神然としたしゃれこうべのみ。

「あ、一村くんって、見た目に反してシャイなんだね」
「ち、ちが……っ」

つい否定しようと口を開いたものの、
例のアレからの強烈な視線を感じ、
思わず口をつぐんでしまいました。

「あっ、もうこんな時間! 一村くんも帰るんでしょ」
「あ、ああ……」

”これ”と教室で二人っきりなど、
とても耐えられません。

学生カバンを引っ掴み、
慌てて教室を出ていく和田の後に続きました。

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