45 / 371
21.秋祭りのお面③(怖さレベル:★★★)
しおりを挟む
「オイ、お前、どっから」
「はぁ? トイレ行くっつったろ。
もう駐車場ついてるかと思って走って追っかけてきたんだよ!
でも、こんなトコで油売ってるなんてなぁ」
そう呆れたようにため息をつく宮田は、
とてもウソをついているようには見えません。
「え……だってお前、さっきからそっちに」
「ハァ?」
慌てて仮面の消えた曲がり角を覗くも、
その道の先は、
ただの行き止まりでしかありませんでした。
「え……じゃ……さっきの……」
「オイオイ、どーしたんだよ」
キョトンとした表情を浮かべた宮田が、
同じように曲がり角の先を覗いています。
「……なあ宮田。さっきの……
姪っ子に買ってやったっていうお面、もってるか?」
「お面? ああ、あるけど」
ヒョイ、と差し出された紙袋を検分するも、
当然ながら、開封した様子はありませんでした。
それでは、
さっきのは?
「――さっさと帰るぞ」
「ん? おう」
イヤな汗が流れるのを感じつつ、
オレは慌てて車に乗り込んで帰途につきました。
「つーか、マジでなにがあったんだよ」
助手席に乗った宮田が、
不満たらたらの顔で問いかけてきました。
さきほどから何を話しかけられても生返事ばかりのこちらに、
疑問が増すばかりだったのでしょう。
「あー……信じてもらえるか、わからねぇけど。
……変なモン、見ちまって」
夜の道路は祭りの帰り客か、
それなりに車の台数が出ています。
左車線でゆっくり走行しながら、
さきほどのできごとを話して聞かせれば、
「……あー……変質者、だよな、ふつうに考えれば」
と、宮田は腕を組んで難しい表情で呻きました。
「まぁ、そうだろうな。でも……
なにが目的だったんだろうな。強盗でもしようとしたのかな」
「……なぁ、幽霊って可能性もあるんじゃねぇか」
と、宮田は重い表情で、
考えたくなかった一言を言い放ちました。
「キャラもんの仮面をつけた幽霊、か?」
「いや、だからさ……お前、そいつのことオレかと思ったんだろ?
……オレがあんとき声かけなきゃ、
あの行き止まりの中に連れてかれたんじゃねぇか」
道路のネオンがキラキラと通り過ぎていきます。
冷えた夜道は、どこか不気味に
ゾワゾワと背筋を撫でていきました。
「い……いやいや、まさか」
「まあ……わかんねぇけどさ。
無事に帰ってこられたんだし、あんま気にすんなよ」
結局お互いに、これから酒盛りをする気にもなれず、
解散することに話がまとまりました。
しばらく沈黙のまま車を走らせ、
キキッ、と宮田の家の前に着けました。
「今日はありがとな、んじゃまた、会社で」
「ああ、気をつけてな」
家の中に消えていくヤツの姿を見送り、
詰めていた息を吐きました。
あのお面が幽霊だったかも、
なんてイヤなことを言ってくれたものです。
オレは現実逃避するようにブツブツと文句を呟きつつ、
車のギアをドライブへ切り替えました。
と、その時。
「ん?」
チラ、とバックミラーに光った何か。
うっすらと仄白いそれに、
子どもか、と目を凝らした瞬間、
血の気が引きました。
夜闇の中にぽっかり浮かぶ白い面。
「ウ、ソだ」
無意識で漏れた声は、ひどく薄っぺらく響いて、
ハンドルを持ったてのひらが冷や汗で震えます。
住宅街の道路。
電柱と街灯の立ち並ぶその下に浮かぶその面は、
重力をまったく無視して、
そこに存在しているのです。
まるで、
こちらにそれを知らしめるかのように。
『連れてかれたんじゃねぇか』
という、宮田の声が脳内で木霊しました。
アレの目的――
オレを、連れていくこと?
それに思い至った時、
ブワッと全身から汗が吹き出しました。
「……ッ」
オレは小刻みに揺れる身体を叱咤し、
パーキングからドライブにギアを代え、
慌ててその場を離れました。
(ついてくるな、ついてくるなよ……!)
心の中で念仏のようにひたすらくり返し、
わき目もふらずに一直線で自宅へと逃げ帰りました。
車庫に飛び込んで、
恐る恐る見たバックミラー。
「……はあ」
幸い、
何も映っていません。
心の底から安堵のため息が漏れました。
(連れていくつもりじゃ、なかったのか)
運転席で脱力した身体を横たえつつ、
オレは呆然とそんなことを思いました。
それから――
オレに、変なコトは起こっていません。
でも、その後……
後味の悪いオチがついてしまいまして。
アイツ……宮田。
あの可愛らしいお面、
姪っ子の為だって購入してましたよね。
……なんでもあの日、
その姪っ子、
亡くなっちまったらしいんですよ。
あの祭りの直前の時間、
車に轢かれて。
大好きなあのキャラクターグッズを
身に着けた、まま。
……今になって思うんですが。
あの時オレの前に現れたアレは、
本当にオレを連れていこうとしたんでしょうか。
アレは、遊んでほしいって子どもの、
小さなイタズラだったんじゃないか、
って今なら思うんです。
答えなんてどこにもないし、
もう決してわからないままでしょう。
でも……オレは、アレが
悪意のあるモノじゃなかったと。
ただの自己満足かもしれないけれど、
そう、思っています。
「はぁ? トイレ行くっつったろ。
もう駐車場ついてるかと思って走って追っかけてきたんだよ!
でも、こんなトコで油売ってるなんてなぁ」
そう呆れたようにため息をつく宮田は、
とてもウソをついているようには見えません。
「え……だってお前、さっきからそっちに」
「ハァ?」
慌てて仮面の消えた曲がり角を覗くも、
その道の先は、
ただの行き止まりでしかありませんでした。
「え……じゃ……さっきの……」
「オイオイ、どーしたんだよ」
キョトンとした表情を浮かべた宮田が、
同じように曲がり角の先を覗いています。
「……なあ宮田。さっきの……
姪っ子に買ってやったっていうお面、もってるか?」
「お面? ああ、あるけど」
ヒョイ、と差し出された紙袋を検分するも、
当然ながら、開封した様子はありませんでした。
それでは、
さっきのは?
「――さっさと帰るぞ」
「ん? おう」
イヤな汗が流れるのを感じつつ、
オレは慌てて車に乗り込んで帰途につきました。
「つーか、マジでなにがあったんだよ」
助手席に乗った宮田が、
不満たらたらの顔で問いかけてきました。
さきほどから何を話しかけられても生返事ばかりのこちらに、
疑問が増すばかりだったのでしょう。
「あー……信じてもらえるか、わからねぇけど。
……変なモン、見ちまって」
夜の道路は祭りの帰り客か、
それなりに車の台数が出ています。
左車線でゆっくり走行しながら、
さきほどのできごとを話して聞かせれば、
「……あー……変質者、だよな、ふつうに考えれば」
と、宮田は腕を組んで難しい表情で呻きました。
「まぁ、そうだろうな。でも……
なにが目的だったんだろうな。強盗でもしようとしたのかな」
「……なぁ、幽霊って可能性もあるんじゃねぇか」
と、宮田は重い表情で、
考えたくなかった一言を言い放ちました。
「キャラもんの仮面をつけた幽霊、か?」
「いや、だからさ……お前、そいつのことオレかと思ったんだろ?
……オレがあんとき声かけなきゃ、
あの行き止まりの中に連れてかれたんじゃねぇか」
道路のネオンがキラキラと通り過ぎていきます。
冷えた夜道は、どこか不気味に
ゾワゾワと背筋を撫でていきました。
「い……いやいや、まさか」
「まあ……わかんねぇけどさ。
無事に帰ってこられたんだし、あんま気にすんなよ」
結局お互いに、これから酒盛りをする気にもなれず、
解散することに話がまとまりました。
しばらく沈黙のまま車を走らせ、
キキッ、と宮田の家の前に着けました。
「今日はありがとな、んじゃまた、会社で」
「ああ、気をつけてな」
家の中に消えていくヤツの姿を見送り、
詰めていた息を吐きました。
あのお面が幽霊だったかも、
なんてイヤなことを言ってくれたものです。
オレは現実逃避するようにブツブツと文句を呟きつつ、
車のギアをドライブへ切り替えました。
と、その時。
「ん?」
チラ、とバックミラーに光った何か。
うっすらと仄白いそれに、
子どもか、と目を凝らした瞬間、
血の気が引きました。
夜闇の中にぽっかり浮かぶ白い面。
「ウ、ソだ」
無意識で漏れた声は、ひどく薄っぺらく響いて、
ハンドルを持ったてのひらが冷や汗で震えます。
住宅街の道路。
電柱と街灯の立ち並ぶその下に浮かぶその面は、
重力をまったく無視して、
そこに存在しているのです。
まるで、
こちらにそれを知らしめるかのように。
『連れてかれたんじゃねぇか』
という、宮田の声が脳内で木霊しました。
アレの目的――
オレを、連れていくこと?
それに思い至った時、
ブワッと全身から汗が吹き出しました。
「……ッ」
オレは小刻みに揺れる身体を叱咤し、
パーキングからドライブにギアを代え、
慌ててその場を離れました。
(ついてくるな、ついてくるなよ……!)
心の中で念仏のようにひたすらくり返し、
わき目もふらずに一直線で自宅へと逃げ帰りました。
車庫に飛び込んで、
恐る恐る見たバックミラー。
「……はあ」
幸い、
何も映っていません。
心の底から安堵のため息が漏れました。
(連れていくつもりじゃ、なかったのか)
運転席で脱力した身体を横たえつつ、
オレは呆然とそんなことを思いました。
それから――
オレに、変なコトは起こっていません。
でも、その後……
後味の悪いオチがついてしまいまして。
アイツ……宮田。
あの可愛らしいお面、
姪っ子の為だって購入してましたよね。
……なんでもあの日、
その姪っ子、
亡くなっちまったらしいんですよ。
あの祭りの直前の時間、
車に轢かれて。
大好きなあのキャラクターグッズを
身に着けた、まま。
……今になって思うんですが。
あの時オレの前に現れたアレは、
本当にオレを連れていこうとしたんでしょうか。
アレは、遊んでほしいって子どもの、
小さなイタズラだったんじゃないか、
って今なら思うんです。
答えなんてどこにもないし、
もう決してわからないままでしょう。
でも……オレは、アレが
悪意のあるモノじゃなかったと。
ただの自己満足かもしれないけれど、
そう、思っています。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる