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21.秋祭りのお面②(怖さレベル:★★★)

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「いや、うん、大丈夫だって。あの看板、来るとき見たし……」

宮田と茶化したポップなデザインの看板が目に入り、
ヒヤヒヤしつつ道を曲がった、その時です。

「……アレ?」

その更に先。

電柱の影に、
なにかがサッと隠れました。

「……んん?」

細い電柱。

とても人が隠れられぬ太さのそれに、
猫か? と期待しつつ裏へ回るも、

「おーい、猫……アレ?」

ひょい、と覗きこんだそこには、
なんの姿もありません。

「うーん……?」

猫にしてもずいぶん素早いな、
と感心していると、

――ヒュッ。

また少し先の、
電柱の影で気配が揺らぎました。

「ん……まさか、子ども?」

猫にしては、こちらを弄ぶかのようなその動きに、
幼い子どもがふざけているのかと、
ジッと電柱を注視します。

「……よーし」

しかし、一歩、二歩、近づいても、
息遣いも聞こえなければ、なんの物音もありません。

「わっ!」

バッ、と両手を上げて電柱の影に身を乗り出すも、

「……えっ」

またもや、
なんの影もありません。

「い、いやいや……」

どうにも変です。

猫にしろ子どもにしろ、
一度も視線を外していないのに、
どこかへ移動することなど、できるはずがない。

オレが、
妙にうすら寒いものを感じていると、

「――ッ!?」

少し先の、曲がり角。

住宅の塀に囲まれた狭い道の端から、
小さなお面が半分、覗いているのです。

「……宮、田……?」

そう、それは先ほど宮田が購入していた、
可愛らしい女の子キャラクターのお面です。

それが、鼻を隔てて上半分だけ、
チラリとこちらを伺うかのように飛び出しているのです。

「お、オイオイ……お前、なに脅かそうとしてんだよ」

元々、茶目っ気のある男です。

今回もトイレと偽って、
ドッキリさせようと企んだのだろうと、
オレは半ばニヤケつつ、じりじりと近寄りました。

「姪っ子にあげるんだろ、それ。いいのかよ、使っちゃって」

いつものような調子で話しかければ、
ヒュッとお面は曲がり角の先へ引っ込みます。

「宮田くーん」

オレは、
茶化しつつその曲がり角を覗きこみました。

すると、その細い道の更に先――
人が一人、やっと通れるかというその道の、
更に奥の曲がり角から、
またあのお面がヒョッコリこちらを見ているのです。

「オイオイ、こんなトコ通ったら車んトコ行けなくなるだろ?
 さっさと戻ってこいって」

オレは、呆れ半分で言い放ち、
宮田のことは放っておくことにして、
さっさと先に進みました。

どうせ、相手してもらえなくて、
慌てて後から追ってくるに違いないのです。

そうしてスタスタと先に進んでいけば、

「……えっ?」

二つ立ち並ぶ自動販売機。

その奥から、
また――あの仮面が覗いているのです。

「……お、い」

あの曲がり角で置いてきたはずなのに、
どうして先回りしているのか。

「宮田、妙な遊びは止めろって……
 姪っ子にやるのに、汚れちゃマズイだろ……?」

カスカスにかすれた声を、
精一杯の虚勢を持ってその相手に投げかけます。

しかし、目前のお面をつけた宮田らしき人影は、
まるで微動だにしないのです。

「……おーい、聞こえるか?」

一歩、足を踏み出します。

ザッ、とアスファルトの上を擦る靴裏の音が、
やけに大きく耳に残りました。

「宮田。……なあ、悪ふざけはやめろって」

半分だけこちらを覗く仮面は、
ニコニコと笑む可愛らしい女の子の面です。

だから、それゆえに――
途方もない程に、不気味でした。

「……なあ」

秋風が、
ブワッと道の端の落ち葉を巻き上げます。

「お前……ホントに、宮田なのか?」

――シン。

冷たい沈黙が落ちました。

気付けば、自分の歯の根はガチガチと震えていて、
全身を撫でる風は真冬のように冷え冷えとしています。

曲がり角から覗く無機質なその面は、
一瞬ピクリ、と動いて――ヒュッ、と引っ込みました。

「あっ、ちょっ」

オレは何故かそれに惹かれるように曲がり角の方へ
進もうとしました、が。

「オーイ! なにやってんの、山崎」
「……み、やた?」

後ろから、
荒い息を吐きつつ同僚が声をかけてきたのです。

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