【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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16.呼応するオカリナ③(怖さレベル:★★★)

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「あんたいつまでオカリナなんて吹いてんの!!」

スパーン!!

と激しい音を立てて部屋の襖が開きました。

「いくら田舎だからって、ご近所さんにだって聞こえるんだから!
 私たちだって眠れやしない!」

それは、鬼の形相をした祖母でした。

呆然と硬直する私を見やり、
ずかずかと部屋に入ってきた祖母は、
勉強机の上に置かれたオカリナを見るや否や、

「あれ……吹いてなかったの」

途端に勢いを落とし、
しげしげとオカリナを眺めています。

あの黒いなにかは、
祖母が現れたあの瞬間に、
まるでそれ自体が幻であったかのごとく、
あっという間に霧散してしまったのでした。

「お、おばあちゃ……」

私は、さきほどまでの爆発しそうなほどの恐怖と、
祖母が来てくれたことへの安心感から、
祖母にすがりついて、一晩中離れることができませんでした。


昨日の夜のできごとは、
祖母に泣きながら伝えたものの、
同情こそあれ、
まったく信じていない様子の祖母にどうにか付き合ってもらい、
深夜になってようやく眠りにつきました。

その日、泣きすぎたせいか重い頭を布団に横たえながら、
祖母のとなりで昼近くまで寝転がっていたんです。

ピン、ポーン

そんなさなか、
うちのチャイムが鳴らされました。

「あら。誰だろうねぇ」

祖母が玄関へ向かう後姿を、
寝起きのぼうっとした頭で眺めた後、
私は洗面台でバシャバシャと顔を洗っていました。

「ああ、起きてたの!」

玄関から戻ってきた祖母が、
血相を変えて戻ってきました。

「ど、どうしたの?」
「あんた、昨日森君と遊んだでしょ?」
「う、うん……そうだけど」
「森君、昨日の夜から見つからないっていうのよ!」
「……えっ」

わずかに残っていた眠気が、
一瞬で吹き飛びました。

見つからない――行方、不明?

その事態はまだ小学生の脳であっても、
かなりの非常事態なのだと理解できたのです。

「これから、町の人総出で捜しに行くから」

という祖母の言葉通り、
村の中の大捜索が行われることになりました。



「こ、小泉君……」
「あ、みきちゃん……無事だったんだね」

子どもだからと村の公民館に集合させられれば、
顔見知りの子どもたちの中に、
小泉君の姿もありました。

「うん……でも、森君が」
「森、か……ねえ、みきちゃん」

妙な含みを持った声を出した小泉君が、
逡巡するように少し黙った後、

「あのオカリナ、のことだけど……」
「……オカリナ」

私は、その単語に昨夜の記憶が思い起こされ、
ぐっと胸を押さえました。

「あれ……森、
 ほんとに誰かにもらったのかな」
「……どういう、こと?」

思わぬ内容に、
私は恐怖も忘れて身を乗り出しました。

「あのさ……昨日、俺がついたときには、森がもうあそこにいたんだ。
 でも、なんか態度がちょっと妙でさ……
 もしかして、どっかから拾って……いや、盗んできたんじゃ」
「そっ……そんな、まさか」

そう、私は否定しつつ、
どこか腑に落ちるものもありました。

森君は、ああいう明るい性格ではあるのですが、
少しジャイアン気質なところもあり、

都会で問題を起こしがちな性格を矯正する為に
この町によこされているのだと聞いたことがありました。

「森ん家の近くさ……空き家がけっこうあるんだよ。
 前、探検っていって連れてかれた時……
 あのオカリナに似たヤツ、見た気がするんだ」
「……それ、ってやっぱり」

二人とも、それ以上なにも言えずに
沈黙していると、

「――見つかったぞ!!」

公民館に、
町人が駆け込んできたのです。



彼は、
あっけないほど簡単に発見されました。

例の――あの、オカリナを吹いた海辺。

そこの砂浜で、
半分砂に埋もれた状態で転がっていたそうです。

夏まっさかりの時期、
いくら夜から朝にかけてとはいえ、
脱水症状を起こしていて瀕死の状態だったようですが、
幸い、一命は取り留めたとのことでした。

しかし、彼ら一家は森君が退院したと同時に、
逃げるように都会へと帰っていってしまいました。

ロクにお別れもできなかったのですが、
チラリと車で立ち去る森君を見かけた時、

必死で両耳を塞いで、
ブルブルと身体を震わせている姿が印象に残っています。

私の元に残っていたあのオカリナは、
いつの間にやら祖母に回収され、
どこぞへと廃棄されてしまったようでした。

あれから、
小泉君となんどか遊ぶこともありましたが、
けっきょく、あのオカリナの謎は解けないままです。

森君は、いったい誰からあれを貰ったのか?

それとも、どこかで拾った――盗んだのか?

大人になり、
めっきりあの町へ行くことはなくなってしまいましたが、
あの夏の恐怖は、今も薄れることなく心に根付いています。
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