【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
上 下
25 / 379

13.ディープシーブルーセダン①(怖さレベル:★☆☆)

しおりを挟む
(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『40代男性 長尾さん(仮名)』

ええと、あらかじめ先に言っておきますと、
これは幽霊とか……そういう話じゃないんです。

だからその、
あんまり怖くないとは思うんですが……。

あ、ほ、本題に入りますね。
その……私は先日、事故に遭ったんです。

あ、いえ、その事故自体は、
特になにか、呪いとかそういったもんじゃなくて、
純粋に私の確認不足っていう、情けないもんだったんですが。

幸か不幸か、私自身にたいしたケガもなく、
車だけが廃車になってしまったんです。

七年目の車検を終えた直後で、
まだあと三年は乗ろうと思っていた手前、
オシャカになってしまったショックはなかなかのもんでした。

しかし、がっかりしてばっかりもいられず、
通勤の為にも新しく車を買わねばなりません。

とはいえ、予定にない出費、
新車ではなく、いっそ中古車で、
と思ったわけです。

早く、安く、と考えたとき、
まっさきに思い浮かんだのが、
通勤途中にある個人経営と思われる中古車ショップでした。

店頭にズラズラと並べられている車種は、
あまり年式が古くないのに破格の値段でおかれているのが、
どこか記憶に残っていたんですよね。

そうと決まれば、と
借りていた代車を使って、
その中古車ショップへ休日に足を運んだんです。

そこは個人経営であってもそれなりの敷地があり、
広い場所に並べられた車はなかなかの種類がありました。

私は、メーカーや車種にこだわりはないのですが、
色だけはポリシーがあり、定番の白や黒ではなく、
青い色の車に乗る、というのを信条にしていたのです。

だから今回も、中古とはいえ同系統の色で、と
そこのショップ内をうろうろと歩き回っていました。

するとその様子に気づいたのでしょう。

店員らしき若い男性が、
朗らかに声をかけてきたのです。

「お探しの車種などはありますか?」
「あ、ええと……すみません、
 まだ決まってないんですけど」

言いつつ、それとなく青っぽい色のものを探していると伝えると、
店員はわずかに首を傾げつつ、

「青、ですか……あ、そういえば、
 つい最近入った車がイイ色をしているんですよ。
 裏に置いてあるんですが、もしよかったらご覧になりますか?」

と言ってくれたのです。

なんでも、中古として買い取ったものの、
まだ洗車などの処理が済んでいないため、
販売の方に出せず、
裏に並べてあるままなのだというのです。

ザッと店内を見回す限り、好む色が見当たらなかった私は、
せっかくの申し出を受けることにしました。

「ええと、たしかここに……ああ、こちらです」

店員に案内されて行った裏の空き地にも、
十数台の車が並べられていました。

そしてその中に、
ひときわ輝きを放つ一台のセダンがあったのです。

「これ……」

私は、
ふらふらと招かれるかのごとくその車ににじり寄りました。

その車のボディの色は、
パールの入った深い青。

まるで深海を写し取ったかのようなその色彩に、
私は一目で惚れこんでしまいました。

「こ、これ、おいくらなんですか」
「あ、お気に召しましたか? これ、
 まだ買い取ったばかりで、値段がついていないんですが……
 おそらく、200~250の間くらいだと」
「に、200……」

予定していた予算を大幅にオーバーしています。

もともと軽に乗っていた手前、
新車を買えてしまうほどの値段。

しかし、気に入らない新車にのるのならば、
少し奮発してでも、
気に入った車に乗るほうがいいのではないか。

そんな葛藤が目に見えたのか、

「これ、来週末に店頭に出す予定なので……、
 またその時にでもご検討していただければ」

来週、
と口腔でその単語をくりかえしました。

まだ代車を借りている期間に余裕があったので、
私は迷う心はそのままに、
ひとまず一週間後に訪れようと心に決めたのです。

しかし、運が悪いことに、
一週間後の土日に外せない仕事が入ってしまい、
行く予定だった例の中古ショップに
訪れることができなかったのです。

その仕事をこなす日中も、
あの車のことがどうにも脳裏から離れず、
グルグルと脳内を駆け巡って集中できません。

そんな有様ですから、
ついには夢の中にまでそれは現れました。

真っ白い平面のその地で、
あの深い青の車体が大地の中央にドンと居座っています。

まるで洗車された直後のようにキラメキを放つ車体が、
さぁ乗ってみろ、といわんばかりにこちらを誘うのです。

私は、フラフラと呼ばれるがままににじり寄り、
あと少しで手が届く――という直前、
悪質な目覚まし時計の音にそれを阻まれてしまいました。

とうぜん、寝覚めは最悪。

寝起きでボウッとする脳内で、
このまま会社に行っても土日以上に仕事にならない、
と妙に冷静な分析をしたのです。

そして、どうにか理由をつけてもぎ取った月曜の休みに、
私は慌ててあの中古車ショップへ向かいました。

>>
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

処理中です...