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8.トンネル内の殺意①(怖さレベル:★★☆)

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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

ええと、
それじゃあお話させていただきますね。

うちの近所、というか町の北に、
今は使われていないトンネルがあるんですよ。

なんでも、でかい道が開通して、
そこのトンネルが不要になったってだけで、
別になにか曰くがあるわけじゃないんですが。

でもねぇ、
多いんですよ。

その……肝試しとか言ってくる連中がね。

うちはそのトンネルに続く道のすぐ近くなんですが、
夜中にバイクやら改造車やらがブンブン走ってくるもんで、
ほんと辟易してたんですよ。

それで、その日の夜も、
例にもれずブンブン聞こえてきまして。

悪いことに、その日は昼間、
仕事で手痛い失敗をしてしまいまして、
ただでさえイライラしてたんですよ。

そこでそんな音が聞こえたもんだから、
ふだんは押さえていた怒りがカーッと来ちゃいましてね。

浮かれ気分できた奴らを追っ払ってやる、と
闇に紛れられるよう全身まっ黒の服装に着替えまして。

懐中電灯と木刀、
あとは家の中に眠っていたクラッカーを脅かし用に携え、
トンネルの方へと向かいました。

くだんのトンネルは、
途中に緊急用出入口として外とつながる道があります。

私は地元民の地の利を生かして、
そっとその裏道ともいえる通路からトンネル内へと向かいました。

細い階段を下って、さらに滑り台となっている
通路を通り、ようやくトンネルとつながる扉の前に立ちます。

扉の上部には、格子のついたガラス窓があり、
そこからそっと中の様子を確認しました。

中にいたのは若者が五人。

皆懐中電灯を持っているので、
こちらの照明器具の光をバレぬよう落としました。

三人が女性、
二人が男性のようです。

遠目に見ても、
年齢は大学生くらいでしょうか。

いかにもチャラそうな金髪と茶髪の男性に、
女性は同じく茶髪のロングヘアーとボブヘアーが一人ずつ、
あとの一人は黒髪ロングです。

キャアキャアとはしゃぐ女たちに、
男たちは良いところを見せようとしているのか、
足元に転がっている空き缶やゴミを蹴飛ばしつつ、
さらに奥へと進んでいこうとしています。

しかし、私はといえば、
怒りのままにここまで来たものの、
相手が五人ともなるとがぜん勢いがそがれてしまいました。

ここから飛び出して行っても、
返り討ちにされるのが関の山です。

明日も仕事のある平日、
とたんに自分の行動がバカらしくなり、
もう帰ろうとガラス窓から離れて踵を返した時でした。

キャアァァァ

「えっ?!」

飾りではない本物の悲鳴に、
たたらを踏んで慌てて窓から中の様子を伺いました。

すると目にしたのは、
奥の方から逃げてきたらしい茶髪ボブの女性が、
勢いよくつまづいた場面でした。

他の四人の姿が見えないな、
なんて思っていると、

奥のトンネルの方から、
懐中電灯を片手にぶら下げた黒髪の女性が、
奇妙に身体を揺らしながらやってきました。

その女性のもう片方の手には、
木材か鉄か、
なにか細長い棒状のものを持っています。

遠目に見ても、
その先が濡れているように見えました。

(まさか……血じゃ……)

予期せぬ光景に慄いていると、

「や、やめてユウナ……どうしちゃったの?!」

転んでしまった女性が、
その黒髪の女性に向かっておびえた声で呼びかけています。

しかし、ユウナと呼ばれた女性は、
まったく返事をすることなく、

まるで糸で吊るされてでもしているかのように、
片足ずつをズリズリと引きずって、
ゆっくりと彼女のもとへ近寄っていきました。

明らかに様子のおかしいソレに、
情けない話ですが私は声一つだせず、
ブルブルと震えるままに身体は固まっていました。

「いや……いや!」

黒髪の女性が、
その棒状のものをユラリと振りかぶります。

眼前には茶髪の女性。

危ない! と思った瞬間、
懐にしまっていたクラッカーの存在を不意に思い出しました。

パァン!

トンネル内に軽快な発砲音が響きわたります。

「い、いやぁああ!」

ボブヘアの女性はそのショックで持ち直したのか、
叫び声を上げながら逃げ去っていきました。

しかし、私にはそれをよかった、
などと言っているヒマはありませんでした。

ヒタリ。

あの女性の足が、
私の潜んでいる扉の方向へと向いたのです。

「……ひっ」

私は思わず両手で口元を押さえました。

その女性の顔は彼女の持つ懐中電灯に照らされて、
幽霊そのもののようにぼんやりと照らされます。

目元はドロドロに溶けたマスカラだか
アイラインだかで真っ黒ににじみ、

眼球は焦点が合わず左右別の方向をむき、
デロリと唇からこぼれた舌は
血を吸ったかのように赤く滴っています。

ヒタ、ヒタ。

ゆっくりと身体をゆすりながら、
黒い長髪を振り乱しつつにじり寄ってきました。

ヒタ、ヒタ。

彼女の片手に持つ棒が、
まるで死神のカマのように映ります。

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