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4.23時20分の光①(怖さレベル:★★☆:微グロ有)

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※この話には虫系の少々グロい表現が出てきます
 苦手な方はご注意ください※


――そして。

ガチャリ。

戸が開いた瞬間、

加齢臭を何倍も濃くしてドブにつけたかのような、
強烈な臭気があふれ出してきました。

「う"っ……」

思わずたじろいで後ずさりしたこちらに対し、
弟さんはある程度覚悟していたのか、
ぎゅっと両目を閉じて
携帯で連絡を取り始めました。

その横で、僕は今でもどうして
あんな行動に出たのかわからないのですが、

一歩、二歩。

無意識のうちにそのバアさんの部屋に入っていったのです。

「うん……203号の……あっ、ちょっ、下川さん?!」

大家さんと話しているらしい弟さんの静止の声もどこか遠く、
間取りの全く同じ部屋の中、
スムーズにリビングの中まで足を踏み入れました。

目前のそのリビングには、
今は見られぬはずのブラウン管のテレビ、
すすけた絨毯に、
ごちゃごちゃと散乱したゴミ、
それに、古ぼけたソファが置かれていました。

入り口から見えるそのソファは背面ですが、

そこからニョキリと一本、
腕が突き出ているのが見えました。

臭気はさらに濃くなり、
なぜ鼻をつままずに進めるのか、
自分でも不思議なほどです。

「バアさん……?」

ソファの正面に、
足が進みます。

そして、目に入ったのは。

「ぐ、うぇ……」

映ったのは、
ウジの大群。

パタパタと羽の生えたそれがところ狭しと一か所に集い、
うごめいている姿は、
まさにこの世の地獄そのものでした。

そのあまりの惨状に、
どこかフワフワしていた脳内が一気に現実に戻ったのです。

「ひぃ、うっ……」

ブンブンとこちらを目がけて飛んでくる
薄気味悪い虫からヒィヒィ言いながら逃げ、
大家の弟のいる玄関先へ飛び出しました。

「ちょっと、下川さん!
 勝手に入っちゃ……って、大丈夫ですか?!」

あまりの様子だったのでしょう。

怒りの眼差しを浮かべていた弟さんは、
すぐさま心配の表情に切り替わりました。

「な、中、中……バ、バアさん、虫……っ」

しどろもどろの単語の羅列でも状況が伝わったのか、
弟さんは憂鬱そうな顔で頭を掻きました。

「……ああ、やっぱり。
 ……年配の人なんでね、かわいそうですけど」

その後、警察はすぐにやってきて、
203号室の老婆は回収されていきました。

僕もいろいろ聞かれましたが、
あの光のことは伏せて、
物音がまったくしないので
不意に気になったのだと説明して終わりました。

一か月くらいして、
事件性はなく、病死であったのだと
大家の弟さんを通じて知らされました。

――そう、
ここまでが僕の体験したできごとです。

まだ僕はあのアパートに住んでいます。

上の階は特殊清掃も入れて、
跡形もないくらいキレイになったようでした。

あのバアさんは、
遠くに住んでいた息子だかが引き取って、
ひっそり葬式も上げたようです。

…………。

それで、
僕がご相談したいのはここからなんですよ。

僕がバアさんを発見したキッカケ、
それはあの白い光でした。

アレは、
自分を見つけてほしいというあの老婆の訴えであったのだろう。

だから、無事に見つけられた今後は、
もう出てくることはないだろう。

そう、思っていたんですけど。

――出るんですよ、まだ。

23時20分。

あの、老婆の横向きの姿。

毎日毎日、
いつも同じ時刻に。

最近では、カーテンをきつく閉めて、
レジャーシートで覆ってみないようにしています。

でも……この前、
うっかりカーテンを閉め忘れてしまった時があって。

その時、
またバッチリと光を見てしまったのですが――

その光、
なんだか大きくなってきているんですよ。

最初見た時はこぶしくらいの大きさだったのに、
今や人の顔くらいのサイズです。

このまま放っておいたら、
いったいどうなってしまうのでしょう。

僕はあのバァさんとは、
たまに挨拶を交わしたくらいの
薄い関係でしかなかったっていうのに。

――最近、
引っ越しも視野に入れています。
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