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60話 ~夜の路地裏2~
しおりを挟む(……私と同じで……別世界の記憶、とか……?)
神鳥と呼ばれる存在だ。なにか、秘密を抱えていてもおかしくはない。
果たして、彼に聞いていい内容なのだろうか。
いや、本人が言いだすまでは、だまっていた方がいいのかもしれない。
「はあ~……この世界、本当にいったい、なんなんだろう……」
この世界に飛ばされてからの疑問が、再び、ホロリと口から零れ落ちたのだった。
ぼんやりと、空を眺め続けて、しばらく。
「えぇと……キリンが四百二十八匹、象が六千百一匹、うさぎが一万十一匹……じゃない、羽……あれ? 一万十八……あーっ、わかんなくなってきた……」
『お主……あいかわらず、けったいなことをしておるのぉ……』
ボソボソと、ひとり動物園を敢行して時間をつぶしていたところ、呆れたような声が腕の中から聞こえてきた。
「あ、起きました?」
『起きたというか、起こされたというか……まぁ、少しは回復したかのぉ』
よいせ、という小さな声とともに、神鳥は起き上がり、羽を右、左、とパタパタさせた。
『ふむ。やはりお主の魔力はすごいのぉ。キチンとコントロールさえできれば、魔王としてこの地に君臨することも可能じゃろうな』
「ま、魔王……!?」
そこは、勇者とか聖女とか、そういう方向じゃないんだろうか。
不満そうなこちらの声に気づいたのか、神鳥はクッとクチバシを反らしてみせた。
『だってお主、世界を救う勇者、という柄ではないじゃろ』
「まぁ、それは同意しますけど……魔王ほどあくどくもないと思いますが」
『確かにそうじゃのう。魔王というより、その前段でやられる下っ端がいいところじゃろうな』
「そっちが魔王とか言っておいてその扱い……!?」
『ハハッ……その様子なら、心配なさそうじゃな』
「えっ……な、なにがです?」
『ふふふ』
テルペロン鳥は、なにやら含みのある笑みを浮かべると、ひょい、と宙に浮かんだ。
もしかして、アスタリカに放り出されてしまった自分を気づかってくれたんだろうか。
『まぁそんな話はいい。お主、ここでなにをしておったんじゃ?』
「あっ、それ聞いちゃいます? ……実は、かれこれこういうことがございまして」
と、服屋に行ったら変質者扱いされた話を、それはもう悲惨そうに伝えた。
『ふむ……確かに、いくら時代遅れのわしからしても、お主の恰好はちょっと……いや、かなり異質じゃしな』
「くーっ! いや、私だってわかってるんですよ……! でも、替えの服なんてないし、適当な服だと爆発四散しちゃうし……!!」
『作れんのか?』
「……はい?」
『うまいこと、魔力で服を作れんのか?』
「……服を……作る……!?」
なにいってだこいつ、という視線を神鳥に向けると、彼はキョトンと首をかしげた。
『お主、今まで魔法をロクに使いこなせてないんじゃろ?』
「ええ……まぁ……」
『これは、推測じゃがな。お主、自分が魔法でどういうことができるか、というのを、具体的に想像ができておらんのじゃないか?』
「……あ~……」
テルペロン鳥に指定されて、改めて考えてみる。
自分が、魔法を使っている姿。
回復魔法に関しては、思い描けた。
アレは『回復させなければ人が死ぬ』という切羽詰まった状況だったからだろう、とずっと思っていた。
でも、テルペロン鳥に言われて、ふと思い至ることもある。
昔から、自分は『攻撃魔法でドカン』というキャラクターよりも、回復重視のキャラクターを重宝して使ってきていた、ということに。
RPGでも、HPやMPはほぼ満タンを維持して、こまめに宿屋やセーブポイントで記録をし、安心安全の旅をするプレイングだった。
それに、昔っからおてんばで、ちょっとした怪我が多かった自分。
医療の心得えはないものの、怪我をし、それが治る――という流れは、たいして苦もなく想像できたのは事実だった。
『魔法は、魔力はもちろん必要じゃが、想像力というのも重要な武器じゃ。……よく考えてみろ、体力ばかりあったとて、うまく剣を扱えるわけじゃあるまい。練習と、学びと、経験が重要なのじゃ』
「た、確かに……で、でもテルペロン様。私……どれも持ち合わせていませんよ?」
『だから、これからやるんじゃ。想像し、実践し、経験を積むこと。その第一に、服を作ってみたらどうじゃ? どんな無残なものができようとも、今着ているわけのわからん服よりはマシじゃろ』
「わけのわからん服……」
さりげにディスられてショックを受けるものの、神鳥が言うことは一理ある。
魔法が当然のこの世界に生まれた人々と違い、私自身、魔法を使うという感覚にまったく馴染みがないのだ。
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