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52話 ~滅んだ村~
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「あ~~代り映えのない平原の景色~~」
「気が抜ける声出さないでよ、ハナ」
「つーか、お前が一番体力あるの、納得いかねぇ……!」
昨日に引き続き、持久走大会をくりひろげて約半日。
早朝から絶えず進む道のりも、延々とミドリと茶色と青ばかり見ていれば、いくらそれが美しくとも飽きてくる。
(まぁ……日本みたいに、山とか谷って感じじゃなく、ずーっと平野だから飽きる、ってのもあるかもな……)
しかも徒歩移動なのだ。本来なら、馬車とか使う道のりじゃないだろうか。
「テルペ様~あとどれくらいですか~?」
『う~ん……まだもうちょっとかかるかのぉ……』
「もうちょっとってどんくらいです? まさか、鳥と人間で体感時間が違う、とか言いませんよね?」
『さすがにわかるわ! まあ、あと一時間せずと着く……ん?』
と、先頭を飛ぶテルペロン鳥にぐだぐだ絡んでいる途中、ふと、彼が言葉を途切れさせた。
「どうかしました?」
『……いや』
羽を止め、テルペロン鳥は地面にストンと降りたった。
クチバシを空へと向け、なにやら首をキョトキョトと左右に揺らしている。まん丸く美しい瞳は細められ、どこか表情は険しかった。
「なにか……あるん、ですか」
とても茶化せる雰囲気ではない。
神妙に声をかけると、鳥はカチカチとクチバシを鳴らして、ひとつうなった。
『わしがあの泉で休んでいる間に……この世はいろいろと物騒になってしまったようじゃの』
「えっ……ど、どういうことでしょうか、テルペロン様」
鳥の言葉に、へばっていたエリアスがいぶかしそうに顔を上げた。
ヴィルクリフも、言葉こそ発しないものの、眉をひそめている。
『…………』
テルペロン鳥は一瞬黙り込んだものの、カチッ、とひとつクチバシを鳴らして、言った。
『村に……この先にあるはずの村に、人の気配を感じないのじゃ』
「人の気配を……感じない?」
約一時間後に到着するはずの、村。
その場所の気配をここから感じられる能力にも驚きではあるが、人の気配がない、とはいったいどういうことなのか。
私が混乱している横で、ヴィルクリフは苦い表情でボソリと言った。
「……滅んだ、ってことか」
「滅んだ?」
「それか、滅ばされたか……人にか、魔物にか、災害にかはわからねぇけど」
と、吐き捨てるように言い放った。
脳内に、私が最初に訪れた村のことが思い出される。
「エリアスさん……もしかして、あの村みたいに……」
「……かもしれないわね。逃げて空っぽ、ということならいいけど……」
難しい顔をするこちらに、テルペロン鳥はバサッと再び宙に浮いた。
『うむ……生命体の気配がない。つまり、魔物も現在そこにはおらん。完全に、もぬけの殻状態のようじゃ』
「そんなぁ……!」
せっかく。せっかく光明が見えたのに!
言葉を失った自分の横で、エリアスが冷静に問いかけた。
「それでも……この付近に、そこ意外に村はないんですよね」
『うむ。そこを飛ばすとなれば、さらに十日は移動を覚悟せねばならん』
「じゃあ……せめて、家が残っていることに賭けて向かいましょう」
「そうだな。屋根があれば……さらに言えば、寝台があれば万々歳、ってとこか」
食料の獲得は見込めないだろうが、と、いくらか不機嫌から回復した様子で、ヴィルクリフも続ける。
確かに、ここ数日は小川で水をくみ上げて飲むのと、テルペロン鳥の指南で食べられる果実をとってしのいでいるのが現状だ。
私はなにも食べなくとも平気だが、成人男性二人は、正直ギリギリだろう。
「そうですね……人がいないにしても、生活の痕があれば……場所を借りられればなんとか」
「ええ、そうね……村が滅んでしまった理由……うちの両親は知ってるのかしら……」
「あ……」
領主の息子である、エリアス。
三男だというし、継承する気はないのだろうが、思うところがあるのだろう。
憂い顔を浮かべたエリアスには、かける言葉もなかった。
『まぁともかく……向こう一時間あれば、村には到着する。お主ら、はぐれるんじゃないぞ』
テルペロン鳥は気を取り直すようにいっそう尊大に言い放つと、ぶわっと空に飛び上がった。
「……ひどい……」
眼前に広がった光景は、悲惨、のひと言だ。
木造の、かつては家だったであろう建築物は、軒並みペシャンコ。
あちこちに木材がバラまかれ、もはや、どこからどこまでが一軒なのかわからないほど、家同士でつぶし合ってしまっている。
範囲からみて、かなり大きな町であったことがうかがえる。
だがそれゆえに、一面の惨状がより際立って、ひとつの町の滅びをありありと感じさせられる。
「これは……災害に遭った、と考えるべきか……?」
ヴィルクリフが、厳しい表情でしゃがみこみ、がれきをあちこちひっくり返している。
災害。
この世界が、元の世界と同じ価値観が適応されるかは不明だが、パッと見る限り、ありえそうなのは竜巻、もしくは地震だろうか。
「これだけじゃなんとも……魔物のせい、って可能性もあるわ」
「魔物……」
エリアスと初めてあった村が、ふと思い出された。
あそこも、すでに誰一人住んでいなかった。
あそこはまだ村の形は残っていたが、あのデカイオオカミがあのまま暴れまわっていたら、『こう』なっていたのかもしれない。
『ふむ……原因はわからぬが……死体の気配はないのぉ』
「え……この惨状なのに?」
これだけの破壊されっぷりだ。
そこらの木材の下や、奥まったがれきの間やらに、恐ろしいものが見つかるのでは、と覚悟していたというのに。
三人の視線が一斉に集中したせいか、鳥はきまり悪げに毛づくろいしつつ、言った。
『血の臭いがしないのじゃ。災害にしろ、魔物にしろ、ここで死していれば残り香があるはず。まぁ……干からびて骨にでもなっていればわからんが』
「ひぇ……っ」
「いや、ハナ、大丈夫よ。……これ、そんな前に起きたことじゃなさそうだから」
と、エリアスは崩壊した家屋に近づき、柱や木板を検めつつ言った。
「気が抜ける声出さないでよ、ハナ」
「つーか、お前が一番体力あるの、納得いかねぇ……!」
昨日に引き続き、持久走大会をくりひろげて約半日。
早朝から絶えず進む道のりも、延々とミドリと茶色と青ばかり見ていれば、いくらそれが美しくとも飽きてくる。
(まぁ……日本みたいに、山とか谷って感じじゃなく、ずーっと平野だから飽きる、ってのもあるかもな……)
しかも徒歩移動なのだ。本来なら、馬車とか使う道のりじゃないだろうか。
「テルペ様~あとどれくらいですか~?」
『う~ん……まだもうちょっとかかるかのぉ……』
「もうちょっとってどんくらいです? まさか、鳥と人間で体感時間が違う、とか言いませんよね?」
『さすがにわかるわ! まあ、あと一時間せずと着く……ん?』
と、先頭を飛ぶテルペロン鳥にぐだぐだ絡んでいる途中、ふと、彼が言葉を途切れさせた。
「どうかしました?」
『……いや』
羽を止め、テルペロン鳥は地面にストンと降りたった。
クチバシを空へと向け、なにやら首をキョトキョトと左右に揺らしている。まん丸く美しい瞳は細められ、どこか表情は険しかった。
「なにか……あるん、ですか」
とても茶化せる雰囲気ではない。
神妙に声をかけると、鳥はカチカチとクチバシを鳴らして、ひとつうなった。
『わしがあの泉で休んでいる間に……この世はいろいろと物騒になってしまったようじゃの』
「えっ……ど、どういうことでしょうか、テルペロン様」
鳥の言葉に、へばっていたエリアスがいぶかしそうに顔を上げた。
ヴィルクリフも、言葉こそ発しないものの、眉をひそめている。
『…………』
テルペロン鳥は一瞬黙り込んだものの、カチッ、とひとつクチバシを鳴らして、言った。
『村に……この先にあるはずの村に、人の気配を感じないのじゃ』
「人の気配を……感じない?」
約一時間後に到着するはずの、村。
その場所の気配をここから感じられる能力にも驚きではあるが、人の気配がない、とはいったいどういうことなのか。
私が混乱している横で、ヴィルクリフは苦い表情でボソリと言った。
「……滅んだ、ってことか」
「滅んだ?」
「それか、滅ばされたか……人にか、魔物にか、災害にかはわからねぇけど」
と、吐き捨てるように言い放った。
脳内に、私が最初に訪れた村のことが思い出される。
「エリアスさん……もしかして、あの村みたいに……」
「……かもしれないわね。逃げて空っぽ、ということならいいけど……」
難しい顔をするこちらに、テルペロン鳥はバサッと再び宙に浮いた。
『うむ……生命体の気配がない。つまり、魔物も現在そこにはおらん。完全に、もぬけの殻状態のようじゃ』
「そんなぁ……!」
せっかく。せっかく光明が見えたのに!
言葉を失った自分の横で、エリアスが冷静に問いかけた。
「それでも……この付近に、そこ意外に村はないんですよね」
『うむ。そこを飛ばすとなれば、さらに十日は移動を覚悟せねばならん』
「じゃあ……せめて、家が残っていることに賭けて向かいましょう」
「そうだな。屋根があれば……さらに言えば、寝台があれば万々歳、ってとこか」
食料の獲得は見込めないだろうが、と、いくらか不機嫌から回復した様子で、ヴィルクリフも続ける。
確かに、ここ数日は小川で水をくみ上げて飲むのと、テルペロン鳥の指南で食べられる果実をとってしのいでいるのが現状だ。
私はなにも食べなくとも平気だが、成人男性二人は、正直ギリギリだろう。
「そうですね……人がいないにしても、生活の痕があれば……場所を借りられればなんとか」
「ええ、そうね……村が滅んでしまった理由……うちの両親は知ってるのかしら……」
「あ……」
領主の息子である、エリアス。
三男だというし、継承する気はないのだろうが、思うところがあるのだろう。
憂い顔を浮かべたエリアスには、かける言葉もなかった。
『まぁともかく……向こう一時間あれば、村には到着する。お主ら、はぐれるんじゃないぞ』
テルペロン鳥は気を取り直すようにいっそう尊大に言い放つと、ぶわっと空に飛び上がった。
「……ひどい……」
眼前に広がった光景は、悲惨、のひと言だ。
木造の、かつては家だったであろう建築物は、軒並みペシャンコ。
あちこちに木材がバラまかれ、もはや、どこからどこまでが一軒なのかわからないほど、家同士でつぶし合ってしまっている。
範囲からみて、かなり大きな町であったことがうかがえる。
だがそれゆえに、一面の惨状がより際立って、ひとつの町の滅びをありありと感じさせられる。
「これは……災害に遭った、と考えるべきか……?」
ヴィルクリフが、厳しい表情でしゃがみこみ、がれきをあちこちひっくり返している。
災害。
この世界が、元の世界と同じ価値観が適応されるかは不明だが、パッと見る限り、ありえそうなのは竜巻、もしくは地震だろうか。
「これだけじゃなんとも……魔物のせい、って可能性もあるわ」
「魔物……」
エリアスと初めてあった村が、ふと思い出された。
あそこも、すでに誰一人住んでいなかった。
あそこはまだ村の形は残っていたが、あのデカイオオカミがあのまま暴れまわっていたら、『こう』なっていたのかもしれない。
『ふむ……原因はわからぬが……死体の気配はないのぉ』
「え……この惨状なのに?」
これだけの破壊されっぷりだ。
そこらの木材の下や、奥まったがれきの間やらに、恐ろしいものが見つかるのでは、と覚悟していたというのに。
三人の視線が一斉に集中したせいか、鳥はきまり悪げに毛づくろいしつつ、言った。
『血の臭いがしないのじゃ。災害にしろ、魔物にしろ、ここで死していれば残り香があるはず。まぁ……干からびて骨にでもなっていればわからんが』
「ひぇ……っ」
「いや、ハナ、大丈夫よ。……これ、そんな前に起きたことじゃなさそうだから」
と、エリアスは崩壊した家屋に近づき、柱や木板を検めつつ言った。
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