裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

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42話 ~毒2~

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 げほ、と喉をおさえて軽くせき込みながら、首をかしげる。

「ケホッ……え、あたし、どうかした?」
「いっ、今、一瞬死んじゃってたんですよーっ!! 毒桃のせいでっ!!」
「ど、毒……!?」

 ギョッ、とエリアスは大地に転がっている黒い桃もどきを見て、自分が吐き出したカケラを見て、ゲホゲホとせき込んだ。

「そ、そうだったの……じ、じゃあ、ここの果物、みんな毒が……?」
「もしかしたら……そうかもしれません」

 こんな、いかにも楽園の果物です、と言わんばかりにオアシス周りに生えているのに。

 なんだ、ひっかけか!? と、私が半ギレ状態で木に成っているそれらを見上げたとき。

「いや、だったらオレも死んでるはずだぜ。そっちのむらさきの実を食ったが、この通りピンピンしてるしよ」

 ヴィルクリフは、片手に食べかけのブドウもどきを手にして、プラプラと横に振った。

 そういえば、確かに。
 納得しかけたところで、エリアスは言いにくそうに眉をひそめた。

「遅効性、ってこともありえるんじゃないかしら」
「…………。実は、オレもそれは少し思った」

 エリアスとヴィルクリフが、非常に重々しい表情で顔を見合わせている。

 マジか。結局毒か。
 と思ったところで、いや、と考え直した。

「いや……大丈夫です! 私の力が通用するってわかったし……もし毒でも、なんとか!」
「あ、あんた、でもさっきなにか食べようとしてなかった!? 自分の体も解毒できるの!?」

 と、逆にエリアスに肩をつかんで揺さぶられた。

 いやぁ、まだ食べる前だったんで平気ですよぉ、と答えつつ、そういえばどっちももぎ取ってたんだよなぁ、と思い出す。

「まぁ、さっきの桃もどきは、そもそも食べる前に爆発しちゃったんで……」
「あんた、また爆発させたの……」

 もはや恒例行事、と言わんばかりに、エリアスはヤレヤレと首を振った。
 あはは、と苦笑いを返した後、そういえばヴィルクリフはどこへ、と周りを見回した。

 彼は、静かに泉のそばで口をすすいでる。毒、怖いんだろうか。

 と、そこまで考えて、はたと気づいた。

(ん? 爆発?)

「えっと……急に話が変わりますが、あの、前にエリアスさんと集落でお会いしたじゃありませんか」
「? ええ、一番最初のこと?」
「あそこのそばの川に、こう、銀色にむらさき色がかった魚、生息してましたよね?」

 忘れもしない、一番最初に爆発を起こしたときのことだ。

 私はかたずをのんでエリアスを見た。
 彼は、額に人さし指を押し当てると、うーん、とうなる。

「銀色にむらさきって言うと……イドク魚のことかしら」
「…………。あと、その川のそばにドピンク色のまるっこい果実、なってませんでした?」
「ドピンク……ああ! リンドクのことね」
「…………。名前で察しちゃったんですけど、それって……どっちも毒、ありますよね??」
「まぁ……鳥すら手を出さないって言われてるくらいだしね」

 プルプル、と小刻みに手が震えた。

 やっぱり、やっぱりそうだった!
 この力は、そういうことだったのだ。

「? それがどうしたんだ」

 ヴィルクリフも首を傾げつつ、地面に落としたブドウもどきを枝の先でツンツンとつついている。

「どうやら私……食べ物の毒の有無がわかるみたいなんです」
「えっ」
「は? なんだそりゃ」

 二人は、半信半疑の表情でこちらを見た。

「げ、解毒まで目の前で見せたのに、なぜに疑いの目を……??」
「え、いやぁ、そりゃ不思議に思うだろ。ふつう、毒なんて食わなきゃわかんねぇんだし」

 ヴィルクリフが、半眼でジーッと私と、ブドウもどきと、木々にいくつもなっている果実に順番に視線を向けた。

 なるほど。もうこうなったら、実践して見せるしかない。

「よし、じゃあ、証拠を見せますよ!」

 と、桃もどきが山ほどなっている木々の真下に移動する。

「ほーら!」

 そのうちのひとつに、そっと手を伸ばす。
 指先が触れるか触れないか、といった瞬間、ボフンッ、とそれは爆発四散した。

「こっちも、これも!」

 他の黒桃にも手を伸ばす。

 ボフンッ、バフンッ

 それはやはり、どれも例外になることなく、軒並み爆発してしまった。

 地面にグシャグシャに散らばった黒桃の残骸を前に、私はパッと両手を広げた。

「と、いうわけです! この、黒い桃もどきは、かんっぜんに毒! ヤバい果物というわけです。で、こっちは」

 と、今度はブドウそっくりの実がなる木の下に立ち、一個二個、ともぎとってみる。

 それはさっきと同様、ぷるぷると手のひらの上で光を反射しているものの、爆発することなく、無事に残っていた。

「で、こっちの果物は問題なし! 食べても大丈夫、ってことです」

 ブドウもどきを目の前に掲げ、思い切って、プチリ、と一粒とって口に入れる。

 この世界に来て、初めての食事!

 それも、大好物であったブドウーー!!

「……うっわ、なんだこれ。味、うっす!!」

 ペペッ、と種を吐き出しつつ、うめいた。

 なんというか、水っぽいのだ。
 なんでだろう。見た目は、完全においしそうな巨峰なのに。

 例えるなら、子ども向けのブドウガムを百回噛んだ後の、残り香のような味だった。

「まー、食べられるだけマシだろ? 毒じゃねぇなら」

 ヴィルクリフはすぐに気を持ち直したらしく、ブドウもどきの木に近寄って、粒をパクパクと口に入れている。たくましい。

「…………」

 エリアスは、私とヴィルクリフを交互に見やった後、しかめっ面でフッと息を吐き出してから、

「……さっきの毒の果物は、味だけはおいしかったわ」

 と言って、屈託なく笑った。
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