裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

文字の大きさ
39 / 81

38話 ~再びのお守り~

しおりを挟む

 私の疑問に、王女様はわずかに声のトーンを落として答えた。

『わが城の兵士たちが……森の捜索から、どうやら戻ってきたようなのです。森の中で、何者かの血痕と、武器の一部が見つかった、と……』
「……おお……」

 ヴィルクリフが呪いによって死にかけた、アレの痕が見つかったのだろう。
 私が返す言葉もなく黙っていると、王女はさらに続けた。

『そして、あちこちを探し回っても、いっこうに見つからなかったと、女王へ報告しているのを見かけました。だから、きっと無事だろうと思ったのです』
「ええ……王女様にお教えいただいた洞窟で、王家の秘宝らしきモノを発見しまして。それを活用して、別の場所へ転移できたようなんです」
『まあ! わたくしの情報は、ムダではなかったのですね。良かった……』

 王女がホッと胸をなでおろす気配が、お守りを通じて伝わってくる。

(王女様……本当に、優しくて素敵な人だ……)

 ホロリ、と涙がこぼれてくるような気持ちだった。
 彼女と城の裏口で出会えていなかったら、今頃どうなっていただろう。

『そういえば……エリアスの声が聞こえませんが、彼は無事なのでしょうか』
「ええ、その……今は疲れて、眠ってしまっているんですが」

 いまだ、仰向けで草原の上に転がる二人に視線を向けて、金色と黒色を見比べる。

 そういえば、ヴィルクリフが一緒だということは、まだ王女様に伝えていない。

 話した方がいいだろうか。
 でも、殺し屋が同行している、と言ったら心配させてしまう気もする。

 私は少し考えた。
 でも、とりあえず話の本筋とは関係ないし(あとでいいか)と未来の自分に丸投げた。

「えぇとぉ……その、城の方では、その後はなんと……?」
『あの血痕も武器もエリアスのモノではないだろう、ということは話していました。森周辺に出たことを鑑みて、しばらく捜索を続けると……でも、エリアスの処遇は名目上は国外追放。おそらく、それ以上追跡はしないと思います』
「そう、ですか……よかった」

 ほぅ、と息をついた。

 今いる場所がどこだかはわからないけれど、フェゼント城や森周辺でないなら、しばらくは安心、ということだろう。

『それにしても、あの洞窟内に王家の秘宝が本当に眠っていたなんて……魔女様、危険はありませんでしたか?』
「え? あ、ああ……洞窟、ですか」

 魔封じの洞窟。
 そういう二つ名のある洞窟だったはずだ。

 なぜか”魔封じ”効果はいっさいなかったように思うが、あのバケモノのようなカエルがいたのは確かだ。

「えぇとぉ……中に、その、恐ろしい魔物がいまして……」
『魔物!? 魔物がいたのですか!?』
「ええ……その、とても、私たちには倒せないくらいの、その、大きくってすごい、魔物がいまして……!」
『まぁ、なんてこと……!』

 アウロレシア王女の声が、悲鳴のようにか細くなる。
 お守りの向こうで、おびえる彼女の姿が目に浮かぶようだった。

 私は思った。思ってしまった。

 ――なんて。
 なんてイイリアクションなんだろう!

 せっかく助けてもらって、こんな感情を持つのは不謹慎かも、とは頭の片隅で思いつつも、
 私はなんだかウキウキしてしまって、さらに声の調子をおどろおどろしくした。

「その魔物はですね、人間よりもはるかに大きく、目は真っ赤で触手のように頭上にニョキリと伸びていて、体はヌメヌメと湿って――」
「ハナ!! あんた、王女様になに話してんの!!」

 ポカッ、と軽く肩を叩かれて、言葉が止まる。
 振り返れば、ハァハァと荒い息をしたエリアスの姿があった。

 どうやら起きてすぐ、私がお守りと話をしているのを見てとんできたらしい。

「あ、どうも、おはようございますエリアスさん」
「ハァ、もう……っ! いろいろあったから、起きて頭の中を整理してたってのに、あんたはもう……!!」

 額に手を当てて、彼はわずかに青白い顔を横に振った。

『エリアス? その声はエリアスですか』
「ええ、王女様。ご報告が遅くなって申し訳ございません。そして、このハナが失礼なことを申し上げたようで、重ねて非礼をお詫びします」
「う゛っ……も、申し訳ございません」
『まぁ! かしこまらないでください、二人とも。わたくし、冒険のお話を聞くことができて、むしろとっても嬉しかったのですよ』

 私が反省してお守りに向かって頭を下げると、それはなぐさめるようにチカチカ光った。

『わたくしにできるのは、こうして、遠方の安全な城の中から通信を飛ばすだけ……歯がゆいほどに、なにもできないのです。だから、すごい魔物と相対した二人が、無事に移動できたことに心からホッとしています。……ほんとうに、無事でよかった』
「お……王女様……!!」

 なんと。なんと慈悲深い!!

 私はすっかり感激して、両手を合わせてお守りを拝んだ。

『ああ……すみません。あまり、二人の時間を頂いても申し訳ありませんね。今いる場所がどちらか、わかりますか?』
「え? あの、エリアスさん、わかります?」
「さあ……今起きたばかりだし。ちょっと、見たことがない場所だわ」

 ヴィルクリフが横になっている草原や、静かに水をたたえるオアシスに視線を向けた後、エリアスは肩をすくめた。
 ううん、こっちの世界の住人である彼がわからないのなら、どうしようもない。

『そうですか……なにか助言ができるかも、と思ったのですが……また、折を見て連絡をいれさせていただきますね。それまで、どうかお気をつけて』

 チカチカと光っていたお守りの光が、まただんだんと薄くなっていく。
 通話が終わる気配を感じて、慌てて両手でしっかりとお守りを握った。

「ええ……! 王女様も、どうかご自愛ください」
『ありがとうございます。それでは二人とも……また……』

 すぅぅ、とお守りから、徐々に光が消えていき、静かな空間が戻る。

 ふぅ、と緊張をほどいたエリアスは、ジト目で私のことを見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...