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38話 ~再びのお守り~
しおりを挟む私の疑問に、王女様はわずかに声のトーンを落として答えた。
『わが城の兵士たちが……森の捜索から、どうやら戻ってきたようなのです。森の中で、何者かの血痕と、武器の一部が見つかった、と……』
「……おお……」
ヴィルクリフが呪いによって死にかけた、アレの痕が見つかったのだろう。
私が返す言葉もなく黙っていると、王女はさらに続けた。
『そして、あちこちを探し回っても、いっこうに見つからなかったと、女王へ報告しているのを見かけました。だから、きっと無事だろうと思ったのです』
「ええ……王女様にお教えいただいた洞窟で、王家の秘宝らしきモノを発見しまして。それを活用して、別の場所へ転移できたようなんです」
『まあ! わたくしの情報は、ムダではなかったのですね。良かった……』
王女がホッと胸をなでおろす気配が、お守りを通じて伝わってくる。
(王女様……本当に、優しくて素敵な人だ……)
ホロリ、と涙がこぼれてくるような気持ちだった。
彼女と城の裏口で出会えていなかったら、今頃どうなっていただろう。
『そういえば……エリアスの声が聞こえませんが、彼は無事なのでしょうか』
「ええ、その……今は疲れて、眠ってしまっているんですが」
いまだ、仰向けで草原の上に転がる二人に視線を向けて、金色と黒色を見比べる。
そういえば、ヴィルクリフが一緒だということは、まだ王女様に伝えていない。
話した方がいいだろうか。
でも、殺し屋が同行している、と言ったら心配させてしまう気もする。
私は少し考えた。
でも、とりあえず話の本筋とは関係ないし(あとでいいか)と未来の自分に丸投げた。
「えぇとぉ……その、城の方では、その後はなんと……?」
『あの血痕も武器もエリアスのモノではないだろう、ということは話していました。森周辺に出たことを鑑みて、しばらく捜索を続けると……でも、エリアスの処遇は名目上は国外追放。おそらく、それ以上追跡はしないと思います』
「そう、ですか……よかった」
ほぅ、と息をついた。
今いる場所がどこだかはわからないけれど、フェゼント城や森周辺でないなら、しばらくは安心、ということだろう。
『それにしても、あの洞窟内に王家の秘宝が本当に眠っていたなんて……魔女様、危険はありませんでしたか?』
「え? あ、ああ……洞窟、ですか」
魔封じの洞窟。
そういう二つ名のある洞窟だったはずだ。
なぜか”魔封じ”効果はいっさいなかったように思うが、あのバケモノのようなカエルがいたのは確かだ。
「えぇとぉ……中に、その、恐ろしい魔物がいまして……」
『魔物!? 魔物がいたのですか!?』
「ええ……その、とても、私たちには倒せないくらいの、その、大きくってすごい、魔物がいまして……!」
『まぁ、なんてこと……!』
アウロレシア王女の声が、悲鳴のようにか細くなる。
お守りの向こうで、おびえる彼女の姿が目に浮かぶようだった。
私は思った。思ってしまった。
――なんて。
なんてイイリアクションなんだろう!
せっかく助けてもらって、こんな感情を持つのは不謹慎かも、とは頭の片隅で思いつつも、
私はなんだかウキウキしてしまって、さらに声の調子をおどろおどろしくした。
「その魔物はですね、人間よりもはるかに大きく、目は真っ赤で触手のように頭上にニョキリと伸びていて、体はヌメヌメと湿って――」
「ハナ!! あんた、王女様になに話してんの!!」
ポカッ、と軽く肩を叩かれて、言葉が止まる。
振り返れば、ハァハァと荒い息をしたエリアスの姿があった。
どうやら起きてすぐ、私がお守りと話をしているのを見てとんできたらしい。
「あ、どうも、おはようございますエリアスさん」
「ハァ、もう……っ! いろいろあったから、起きて頭の中を整理してたってのに、あんたはもう……!!」
額に手を当てて、彼はわずかに青白い顔を横に振った。
『エリアス? その声はエリアスですか』
「ええ、王女様。ご報告が遅くなって申し訳ございません。そして、このハナが失礼なことを申し上げたようで、重ねて非礼をお詫びします」
「う゛っ……も、申し訳ございません」
『まぁ! かしこまらないでください、二人とも。わたくし、冒険のお話を聞くことができて、むしろとっても嬉しかったのですよ』
私が反省してお守りに向かって頭を下げると、それはなぐさめるようにチカチカ光った。
『わたくしにできるのは、こうして、遠方の安全な城の中から通信を飛ばすだけ……歯がゆいほどに、なにもできないのです。だから、すごい魔物と相対した二人が、無事に移動できたことに心からホッとしています。……ほんとうに、無事でよかった』
「お……王女様……!!」
なんと。なんと慈悲深い!!
私はすっかり感激して、両手を合わせてお守りを拝んだ。
『ああ……すみません。あまり、二人の時間を頂いても申し訳ありませんね。今いる場所がどちらか、わかりますか?』
「え? あの、エリアスさん、わかります?」
「さあ……今起きたばかりだし。ちょっと、見たことがない場所だわ」
ヴィルクリフが横になっている草原や、静かに水をたたえるオアシスに視線を向けた後、エリアスは肩をすくめた。
ううん、こっちの世界の住人である彼がわからないのなら、どうしようもない。
『そうですか……なにか助言ができるかも、と思ったのですが……また、折を見て連絡をいれさせていただきますね。それまで、どうかお気をつけて』
チカチカと光っていたお守りの光が、まただんだんと薄くなっていく。
通話が終わる気配を感じて、慌てて両手でしっかりとお守りを握った。
「ええ……! 王女様も、どうかご自愛ください」
『ありがとうございます。それでは二人とも……また……』
すぅぅ、とお守りから、徐々に光が消えていき、静かな空間が戻る。
ふぅ、と緊張をほどいたエリアスは、ジト目で私のことを見た。
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